表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
二章 エバーラルド・冒険者の日々
19/130

二章3話 冒険者協会

 エバーラルド王国の王都エバーラルド、竜の生息するドラグレッド山脈を北と西に背負う麓の都市だ。

 山脈に面していない方面がそれぞれ外壁で囲まれていて門は各方位に1つずつ、俺が入って来たのは東に位置する門だ。

 門番をしていた兵士もだったが街中で見かける兵士も形は微妙に違うが緑の鎧を着ている、そう、国境付近でたむろしていたアホ共と同じ色だ、この国の兵士が全部アホだとは思わないがあまり関わらないようにしておこう。

 さて、冒険者協会は何処かな……。良い匂いをさせていた屋台で買った何かの肉の串焼きを頬張り、久しぶりに野営以外で食べるまともな食事に舌鼓を打ちながら適当に街を見て回る。

 最もドラグレッド山脈に近い麓の方に王城らしき建物が見える、まぁあそこは俺には全く関係が無いだろう。

 暫く適当に腹を満たしながら探索したが冒険者協会は見付からない、一日で探索し尽くせる街でもないから誰かに聞かないと時間が掛かりすぎるな。適当な人に聞いてみよう。


「ここかよ……」


 冒険者協会は東門の直側に在った。俺が探索を開始した場所だ……門を入って直の大きな建物が冒険者協会のエバーラルド本部だった。

 街の外へ行かなきゃいけない依頼を受ける場合は便利なんだろうな、他にも理由が有るのかも知れないがどうでもいいか、段々日も傾いて来たし早速登録を済ませよう。


 冒険者協会の中は正面に受付カウンター、向かって左側にはびっしりと紙が貼り付けられた壁、右側が幾つもテーブルと椅子が並び壁際にはバーカウンター、酒や料理を提供してくれるようだ。

 俺は冒険者登録を済ませようと適当に空いているカウンターを選び受付の人に話しかける、幾つか有るカウンターの受付に人は全員女性でここにタイプが違うがみんな容姿が良い、受付には容姿も条件に入っているんだろうか? どうでも良い事を考えながら俺の話しかけた受付の女性はウエーブのかかった桃色の髪が、カウンターのこちらからだとどこまで長いか判別できないほど長く肌は病的でない程度に白い、タレ気味の目は閉じられていて瞳色は判別できないが美人さんだ、身長があきらかに低いので美少女か? まぁ女の子の年を考えるのは止そう。


「えっと、冒険者登録をお願いします」

「子供……大丈夫?」


 閉じた瞳のまま俺を見た受付の少女は自分の容姿を棚に上げ失礼な事を言って来る、乗合馬車の時もだけどこの世界じゃ俺ぐらいの奴は餓鬼扱いなのか?


「大丈夫大丈夫、冒険者なんて元々危険なものだよ、怪我したり死んでも自己責任でしょ? 分かってるから、ここに来るまでに多少の事なら何とかできる自信はつけて来た」

「登録料は大丈夫ですか?」

「大丈夫、盗賊潰して来たから、これで良い?」


 前に聞いていた登録料をポーチから取り出しカウンターにのせる。


「本当に盗賊を潰したなら持ち主の見当がつかないお金は貰っても構いません……でも盗品は提出してください」

「あ、そうなの?」


 金以外にも金目の物は適当に持って来たけど、結構あの場に残して来たぞ。


「これでいいか?」


 ポーチから俺の目利きで高そうだと思いもって来た物を次々取り出す。カウンターいっぱいに出したけど納まらないのでカウンター前の床にも広げていく。

 粗方出し終わって受付に確認するとちょっと引いていた。


「こんな量をあっさり手放す? え……本当に盗賊潰して来たの?」


 どうやら信じていなかったらしい、まぁいいけど……


「一応アジトだった場所にもまだ残ってると思いますけど、場所覚えてないんですよね……多分、レーヴェン商会の奥さんなら憶えてると思うんですけど……」

「え……何それ、詳しく!」


 カウンターから身を乗り出して聞いてくる受付、しかし身長と広げた盗賊の回収物が邪魔で全く俺の方に迫れて居ない。

 促されるままに盗賊たちを潰してレーヴェン商会の母娘を助けた事を説明すると、受付の指示で手の空いていた協会職員が確認の為にレーヴェン商会に走った。レーヴェン商会の奥さんには迷惑かけることになるなぁ……結果を待つ間に護衛についていた冒険者の冒険者証と武器や道具、遺品となる物を出していく。

 護衛に付いていた冒険者の冒険者証を協会に有った魔法道具で解析し死因が弓矢によるヘッドショットだという事を確認したようだが、それだけだと俺が犯人と疑われてもおかしくない情報だよな。

 案の定、レーヴェン商会に走った職員が戻って来るまで俺は疑いの目を向けられて突っ立っていた。


「確認……取れました。問題無いみたいですね……今直ぐ登録なさいますか?」


 疑いははれ、これでやっと対応してくれるようだ。


「お願いします」


 登録料を払い手続きを行う。

 盗賊退治が本当だったことでそれなりに戦える事も証明でき、登録はスムーズに行えた。


「ではお名前を……」


 名前か、この世界の人の名前って俺たちの世界っていうか日本人っポイのも混じってるんだよな、苗字は一部の人にしかないけど……偽名っていけるんだろうか? 面倒だから名前だけでいいか。


「蒼也でお願いします」

「ソウヤ様……ですね、暫くお待ち下さい……」


 そう言ってカウンターの向こうでなんか作業している。

 カップラーメンができるぐらいの時間待っていると作業を終えた受付が戻ってくる。


「こちらがソウヤ様の冒険者証になります。本人以外には使えませんが、無くさないで下さい……再発行の際は登録料の10倍の料金を戴きます……」


 うわぁ、ぼったくるな~、でも無くさなければ問題無いな。


「では、冒険者証の機能について説明は必要でしょうか?」


 俺はゲームのチュートリアルは聞く派だ、もちろん現実でも情報は大事だ、現実で知らなかったで片付けられる事など殆ど無い。


「お願いします」

「分かりました。先ず冒険者証は今後身分証明として使用できます」


 これで王都の出入りなんかがスムーズにいく様になる。


「協会が冒険者の身分を保証するということですが、あまりにも素行が悪い場合は冒険者登録の取り消しと今後の登録の制限をさせていただきます」


 DQNは死ねってことだな。


「また冒険者として依頼を受ける際にも受付に提出していただきます。依頼の成否によって報酬と経験値を支払わせていただきます」

「経験値? 依頼の報酬として強く成れるってこと?」


 報酬に経験値があるとかそれじゃネットゲームなんだが……


「古の勇者の開発したステータス表の魔法道具はご存知でしょうか?」

「一応、知ってます」


 シルバーブルの城で見たなんて馬鹿正直には言えないが、当たり障り無い程度に本当の事を言っておくか……


「その能力値の中に全体的な成長度合いを示すLVと言う項目が有るのです。冒険者証に加算される経験値はそのLVに加算されるものではなく冒険者としてのランクを上げるのに必要な物です。ステータスのLVを真似て設定されたものなのでステータスのLVとは全く別物で能力値にはなんら影響しませんが、冒険者としてのLVが高ければ高いほど難しい依頼も受けられますし、依頼人に信用してもらい易くなります。10LV毎に限界が設定されていてそれ以上に上げようと思うなら協会の設定した試験を受けていただかなくてはいけません」


 ランクFEDCBAとか上がっていくのが数字になってるって感じか? 


「冒険者証はちゃんと身に付けていれば倒した魔物の数を記録してくれます。その数を冒険者の経験値に変換して欲しい場合も受付をご利用下さい。ただし、殺めた人の数も記録されるので軽率な行動は控えてくださいね、でも、盗賊など止む終えない場合は大丈夫です」


 おいおい、それどうやって判別してるんだよ、魔法って事で何でも解決できると思うなよ……あんまり信用できないよな、下手に盗賊殺すのにも問題がでてきたんじゃないか?


「依頼は向かって左の壁に貼られている依頼書から選んでいただくか、受付で相談していただければ私共が冒険者LVに見合った依頼を選別させて頂きます」


 あ~あの紙やっぱり依頼書なんだ、見るのが嫌になるぐらいいっぱい有るから見繕って貰った方が早そうだな。


「倒した魔物による経験値の取捨選択が自由なのは分かったけど、依頼の経験値を貰わない事は?」

「可能です。でも、冒険者LVによって各地の宿などの施設で割引が可能ですから、LVを上げない人は殆ど居ませんね」


 割引って言葉には惹かれるな。


「高LVの方には緊急時、協会から強制依頼が発生しますけどね……」


「拒否は……」


「強制依頼ですよ……まぁ、可能ですけど、冒険者LVの引き下げあるいは冒険者証の剥奪といった対応はさせてもらいます……」


 えげつねぇ……まぁLV上げなきゃ良いんだな。


「わかった、そんなもんか?」

「そうですね、早速依頼を受けますか?」

「いや、今日はいい」


 王都に着いたのは今日だ、着いた当日ぐらいはのんびりしたい。


「では今回回収していただいた冒険者証の報酬についてはどういたしましょう?」


 魔物の戦闘や事故で亡くなった冒険者の冒険者証を回収して冒険者協会に届け、故意に相手を殺し奪った冒険者証などといった不穏な点が無ければ報酬が支払われる。その報酬は基本冒険者協会から金一封だけだが、回収した冒険者証の冒険者に親族やパーティを組んだ仲間が居ない場合は、冒険者証と共に回収した装備や遺留品も望めば報酬として受け取れる。

 冒険者証から確認して今回の場合は回収したものも受け取れるようだ。


「あ~報酬だけで、良く知らない奴の遺品託されてどうしろって言うんだ……」


 盗賊とかから奪った武器なんかなら気兼ね無く使い潰すんだけどな。


「ちょと待ってくれ!」


 色々とカウンターに広げ目立っていたのか結構な注目を集めているな、遠目にも少し離れてもこっちを見ている人が多い、そんな中から1人のおっさんが慌てた様子で駆け寄って来た。


「その冒険者証、ガストのじゃないのか!」

「違います、ギュスト様の物です……」


 沈黙が場を支配した。このおっさん何の為に出てきたんだ?


「そ、そうなのか……よかった……」


 心底ホッとした様子でおっさんがその場に座り込んでしまった。


「なんなんだおっさん、そんなとこに座られると邪魔だろうが」

「いや、突然すまなかった。商人の護衛依頼を受けた親友が期日になっても帰ってこなくてな……そんな中冒険者証を回収して来たって話を聞いて、もしかしてと思って焦っちまったんだよ、ホントすまねぇ」


 まあ、それなら仕方ないか、親友が帰ってこなかったら心配だよな……でも、商人の護衛依頼? 俺の拾ってきた冒険者証の冒険者はレーヴェン商会の、商人の護衛をしていた。


「申し訳ございません、本当はガスト様の冒険者証です……」


 再び、場が沈黙に支配される……この受付、一旦安心させておいてからそれは鬼畜過ぎるだろ。

 見ろおっさんが崩れ落ちてみっともなくても、そんなの関係ないって感じで泣き出しちまったじゃねぇか!


「申し訳ございません、以前新人冒険者が回収した遺品を知り合いだと言って騙し盗った方が居たもので……」


 一応、俺が騙されないように嘘をついたのか、でも今回は本当に知り合いの安否を気にかけていたおっさんだったと、これ誰が悪いって訳でもないよな、はぁ……仕方ないか。


「やっぱり遺品全部もらいますね」

「え、そ、それは構いませんが……」


 ちらりともう周りの言葉が耳に入っていない泣き続けるおっさんに受付が目を向ける。

 心配しなくても大丈夫だ、煽るような事はしない。


「おっさん、この遺品全部俺が報酬として貰ったから持って行け、んで、ちゃんと親友を弔ってやれ」


 おっさんの親友の遺品を一旦要らないと言った俺が、やっぱり全部貰ったと言った所で凄い形相で俺を睨みつけて来たおっさんだったが、全部譲る意図を知らせると目を見開き驚いたと思ったら再び涙を流しだした。


「すまねぇ~~! ありがとう!」


 あ~もう、いいから抱きつくなおっさん! おっさん抱きつかれても気持ち悪いだけだ!


「あんちゃん、ホントにありがとな!」


 暫くして落ち着いたおっさんは何度も何度も俺に頭を下げた後、遺品を抱え冒険者協会を後にした。盗賊の襲撃場所、あの馬の居ない馬車だけの場所に行き親友の遺体、無理なら骨だけでも回収して故郷に埋めてやるんだそうだ。


「あの……ありがとうございました」


 おっさんを見送って、さぁ報酬の受け取りの続きをと振り返ると、今度は受付に礼を言われた。


「私のミスであんな状態になってしまったのに、それを治めていただいてありがとうございました」


 ああ、そういう事ね、まぁ、俺が騙されない為にやったことが偶々外れたってだけだからな、それをこの受付鬼畜だとか思っちゃったから俺なりの罪滅ぼしだ、気にしなくて良い。


「いいって、今日は報酬を貰って宿を探すけど、明日には依頼を受けに来るからその時はよろしく」

「はい! 新人用のを幾つか見繕っておきますから私に声をお掛け下さい」


 そして、報酬を受け取り、安い宿の場所なんかも聞いて今日は冒険者協会を後にした。


 よし、明日からどんどん稼ごう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ