間章一章2話 城内暗躍記録(田嶋颯太)
先ずは夜になるまでに人員、協力者を確保しないと……俺が覚えている中で適性能力を持っていて協力してくれそうな奴は……
「伊勢、ちょっといいか?」
「うん、まかせて」
即答!? でもまだ何も言ってねぇぞ!
「あ~伊勢、何を任されるか分かってるのか?」
「蒼也の為になる事……」
少し首をかしげて当然のように答える。当たってるから何も言えない……
「ま、まぁ、とにかく伊勢は開錠能力有ったよな?」
こいつは確か異界の忍って称号だった筈、開錠ぐらいはできるんじゃないかな~。
「うん、有る」
やっぱり持ってたか、ならこいつ以外に適任は居ないな。俺はとりあえず内緒話のできる場所に移動し、施錠された部屋を調べたい事を話し夜に協力してもらう約束を取り付ける。
次は召喚された部屋を調べられる奴だけど、誰が居る? 魔法系の能力持ってる奴なら俺よりは何か分かるかもしれないけど、協力してくれそうな奴はいるか?
確か、田中瑠璃が異世界物で結構有効な解析能力を持ってたよな、でもあいつは相田の取り巻きだから話を聞いてくれそうな気がしない、相田に頼んでもらうって手も有るけど、そうすると豚姫とかに俺のやってることが筒抜けになりそうだ、相田は敵じゃないけど豚姫に目を付けられているからあまり接触したくないんだよなぁ。
どうしたもんか、あの部屋を調べられて俺の行動を秘密にしてくれる奴なんてそう見付かるもんじゃない、伊勢は高深が絡めば協力してくれる事は分かってるから大丈夫だけど他の奴となると……
「伊勢、誰か居ないか?」
駄目元で伊勢に訊ねて見る。まぁ無理だろうな。
「由宇に聞いてみる……」
由宇? 朝霧由宇か、称号は確か異界の占術士だったか?
「由宇、みんなのこと気にしてる」
占いか、それをみんなの為に使ってるってことだな、伊勢のお勧めなら信用しても大丈夫だろうし占いの異世界補正も気になる、あんまり話したこと無い奴だけどちょっと接触してみるか。
「伊勢、頼むのは俺だから俺が直接行く」
「ん」
「美波冬子に頼むと良い、彼女は精霊術士、それに彼女は本気で元の世界に帰りたいと思っているから」
うお! 何処に居るか探そうと思ったら後ろから声をかけられた。朝霧って隠密スキル持ってたか?
「由宇、急に出てくるとびっくりする……」
いや、位置的に俺の前に居た伊勢には俺の背後に居た朝霧の事見えてたよな?
「とにかく美波に頼んでみたら良いよ」
じゃぁね~と手を振って去っていく朝霧、何かつかみどころが無い……期待していた占いも何もやってなかった。それとも占いで俺の必要な情報を知ったから、知った情報を伝えに来てこんなタイミングだったのか?
「美波か、まぁ、頼んでみるか……」
「帰る方法を探すなら協力するわ、この城の人は私たちの帰還に消極的だから当てにできないもの」
またかよ! 何でお前ら計ったようなタイミングで出て来るんだよ! 台本でもあるのか!?
手間が省けるって意味では良いけど……
「今晩俺達が召喚された部屋を調べたい、魔法的な調査頼めるか?」
「いいわよ、準備しておくわ」
準備って? 何か要るのか?
これで昨日調べられなかった所は攻略できるかな、やってみないと分からないけど……以外と早く夜の準備が終わったから空いた時間で工作するとしよう。
今日も訓練は自主的に休み街に出た。
今日欲しいのは武器と旅に必要な道具だ、高深は国から金を貰っていないから旅に必要な物をそろえるだけで暫く掛かってしまうからな、高深にはできるだけ早く旅に出てもらわないと俺らの生存率に関わるからな、豚王共からは無能の烙印を押されている高深だが、無能がそのままで終わるほど異世界召喚は救いが無いと俺は思っていない、きっとあいつは化けるはずだ、まぁ本人の努力次第だとは思うが高深なら問題ないだろう、でもこの国に留まっているのはあいつの成長の妨げにしかならない。
資金は豚王や豚姫共の部屋から金目のものをちょろまかして来たからそれを売れば良い。
とりあえず換金だな、俺じゃ持ってきた物が本当に価値が有るのか分からないのが問題だよなぁ。
「とりあえず見て回るか」
どうやら、街の人たちは俺たち異世界人が召還された事を知らないみたいだな。今も街から、この国から逃げようとしている人を見かける、主に冒険者とか商人が中心だな、商人が乗合馬車を出して金儲けに走っている、高深はこれを利用すれば良いか、そのために必要な資金を残しておかないとな。
で、高深の武器だが、やっぱり剣かな、出来れば訓練で使っているのと似た重さと形が良いなその方が高深も使い易いだろう。
目に付いた武器屋に入り探してみる事にした。
「いらっしゃ……い?」
カウンターに立つおっさんが俺を見て訝しそうにする、俺の格好は城から支給された安物の服だ、武器も携帯していないし体格も普通の学生で特に鍛えているという訳でもない、能力で強化されているので普通以上に強いとは思うが外見からは分からないだろう。おっさんの反応も仕方ないか、だが客を不快にさせるのは商売人としては不合格だ。
「おっさん、剣を見せてもらうぞ」
まぁ、無視して物色しよう。
鉄っぽい剣、鉄っぽい剣、鉄っぽい剣、同じような剣が並んでいる、量産品か? これじゃないんだよな、兵士たちが使ってる剣ってここじゃ売ってないのか?
「おっさん、ここの兵士が使ってる剣って売ってないのか?」
「騎士に憧れてるガキか? 止めとけ止めとけ、この国の騎士になったって碌な事ねぇぞ」
忠告は有り難いが、無駄だ、高深のように見限られない限り俺ら異世界人を豚王が逃がす筈無い、俺は騎士って訳じゃないし豚に忠誠を誓っても居ないから問題無い、本当にいざって時は豚ぐらい暗殺してやるよ……
「違う違う、騎士なんて碌なもんじゃないぐらい分かってる、剣が要るのは俺じゃないし、そいつも騎士になろうなんて考えてない、そいつが一番使いやすそうなのがその剣だってだけだ」
「そうか、ならちょっと待っていろ、持って来てやる」
そう言っておっさんが店の奥に引っ込んだ、今なら万引きし放題じゃね?
「これだ、量産品だからあまり長くは保たねぇぞ」
「ああ、構わない」
とりあえず間に合わせで、後はどこかで自分にあったものを探したらいい。
「でもなんでしまってあるんだ? それじゃ売れないだろ?」
「質の良い武器は国が買い占めてるんだよ、その剣もその1つだ」
「それを売っちまっていいのか?」
「問題無ぇよ、納品数を報告してる訳じゃないからな」
いい加減だな、あの豚がそこまで細かくやってないか、ならこの剣は遠慮無く買わせて貰おう。
「おっさん、これで足りるか?」
豚王の部屋に有った宝石を1つカウンターに置く、足りなけりゃまた取って来ないとなぁ。
「足りるかって? 十分すぎらぁ、あんた良いとこの坊ちゃんだったのか?」
これぐらいの宝石ならまだ沢山有ったぞ、あの豚王そうとう溜め込んでるな。
「そんなんじゃねぇ、足りるんだったらそれでいいな」
おっさんが慌ててお釣りを出そうとするが、そのまま受け取らずに店を出る。
「次は道具か、雑貨屋とかかな?」
また、暫くうろついて旅の道具屋って佇まいの店を見つける、中に入るとそれっぽい道具が沢山有るこの店で合ってそうだな。
「いらっしゃいませ~」
今度は女性の店員だ、愛想良く声をかけてくる。
「旅に必要な道具を一通り揃えて貰えないか、できるだけ良い品で揃えてくれ」
「はいはい~、まかせてくださ~い」
店員は店中をあっちこっち移動しあっという間に必要そうな物を揃えてきた。
「一から全部揃えましたけどよかったですか~?」
「ああ」
色々な薬類、野営用の寝具・毛布とか、ランプ、コンパクトに纏められる調理器具、……エトセトラエトセトラ。
「これは?」
「着火の魔法道具ですね、魔力を込めれば火が出ます」
魔道具か! さすが異世界、そういうのもあるのか!
旅道具一式を魔法道具の道具袋の上等な奴に全て入れてもらい豚姫の部屋からかっぱらってきた宝石で支払いを済ませる、これで準備はできたかな。
おっと、報復用に何か買っていかないとな、これを忘れちゃ駄目だwww
「2人共、準備はいいか?」
「いいわよ」
「ん」
豚王と豚姫の枕の中身を魔物除けの臭い袋の中身と入れ替え、騎士団長の服全ての股間の部分を切り抜き、昨日騎士団長に虐められていたメイドさんの部屋に腹痛の薬を一抱えある壷で置いて来た後、俺は伊勢と美波と共に食堂に集まっていた。
既に人の気配は無く明かりも落されているが俺や伊勢は夜目が利くので問題が無い、美波はここに来るまでは明かりを使っていたみたいだが俺たちと合流して直に消したので何の明かりかは分からなかった。多分魔法だろう。
「んじゃ、全員に隠密スキル全開でかけるな、他人にかける場合完全じゃないから、できるだけ隠れて移動してくれ」
「私は大丈夫、忍だから……」
伊勢はそうだろうな、俺がかけなくても自分の隠密スキルでどうにかしそうだ。
「私も冬子にかける」
俺と伊勢の隠密スキルを全開で二重にかけたことで美波も昨夜の俺のように全く気にせず行動できそうだ。
「よし、いくぞ」
2人を引き連れ俺はまず昨日見つけた地下室へ向かう、そこの扉は相変わらず鍵がかけられている。
「伊勢」
「ん」
伊勢が鍵穴に何か差し込みスキルを使用する、カチッと小さな音を立てあっさりと鍵は開錠された。
「さてさて何が出るか……」
頼むから女子がいる前で変な部屋には当たるなよ。
「わぁ……あれ?」
「ん……ん?」
そこに広がっていたのは金銀財宝、装飾過多な宝剣類……
「宝物庫か、でもこれは……」
でも、価値は低そうだ、大概が鍍金っぽい感じがするし宝石も偽物じゃないか?
「イミテーション?」
「かな? 俺の目利きじゃ正確には分からないけど」
せっかくの宝物庫だけど役に立ちそうなものは無い、国の上が腐ってるから宝物庫の中も誰かが偽物と摩り替えてがめてるのかねぇ?
「悪りぃな、伊勢、ここじゃ役に立ちそうなものはねぇみてぇだ」
「ん、仕方ない……」
役に立つものが無いならこんな所に用は無い、移動して召喚された最初の部屋を調べよう。
「ちょっと、魔法を使いたいのだけど、見張りが邪魔ね」
「任せる……」
俺が何か言う前に伊勢が見張りの兵士を昏倒させる、一瞬で綺麗にきめたな、能力を得ているとは言え良く使いこなせるもんだ。
「それじゃ、調べるわね……」
何も召喚に使われた様な物が残っていないその部屋の中心で美波が静かに目を閉じる、すると、彼女の周りに幾つもの光が舞い始める、美波は目を開くと、その光一つ一つと向き合って何か会話するような動作を繰り返す。
「うう……」
全ての光と会話を終えたのか美波の周りに舞っていた光が消え美波も疲れたのか座り込んだ。
「美波、大丈夫か?」
「大丈夫、少し精霊たちに感化されただけだから……」
とりあえず場所を食堂に移し美波が調べて分かった事を聞く。
「召喚に使われた魔法陣は憶えてる精霊が居たから後でその子に聞いて書き出すわ、そんなことより……精霊が死んだわ」
は? 精霊? 異世界だから存在してもおかしくないけど、居るのかって、美波は精霊使いだったな、だったら居るのか、まぁ居るんだろうな、で? 精霊が死んだ? どういうことだ?
「私たちの力の素になったのが精霊ってことよ、私の精霊の力を借りる精霊術でもそこそこ力が出るのよ、その精霊の命を代価に得た力が強力じゃない筈が無いわ、でも召喚された勇者の数マイナス1の精霊が一度に死んでいる、この国、何時異常が起こっても不思議じゃないわ」
俺たちの力は精霊の命を代価に得ている、大量の精霊が一気に死んだからこの場所、この国は何時異常が起こっても不思議じゃない、召喚に使われた魔法陣以外は帰還方法に関係無い事ばかり分かってくるが、聞き捨てならない事が1つ有る。
「死んだ精霊の数は俺たち召喚された勇者よりも一人分少ない……それって……」
「多分、高深君の事……」
くそ! それじゃ、高深に救いが無いじゃないか、いや、駄目だ、相田なんていうテンプレ踏んでる奴が居るんだ、高深がそうじゃないって決め付けるのは早い、可能性ならいくらでも考え付くだろう、例えば精霊じゃなく他の存在が高深の力になっているとか、とにかく諦めるのはまだ早い!
「この話はとりあえず伏せておきましょう、でも、皆には何か理由をつけていつでも避難できる様には伝えておいて、精霊が大量に死んだ影響がどう出るか全く予測ができないから……」
「俺らに逃げ場なんて無いと思うが……分かった、呼びかけは俺がやる、美波は召喚陣の書き出して、帰還班の連中と調査を進めてくれ、俺も分かった事があれば都度伝えていく」
とりあえず今日は解散、分かった事はあまり良い事じゃなかったが、召喚に使われた魔法陣がどんな物か分かったのは収穫だろう、この先どうなるかは分からないが、上手くやって行くしかない。
後は相田や他の戦闘班、この世界を楽しんでいる奴なんかがどう動くかだな、まぁ、ちゃんと帰れるように頑張るしかないか……