間章一章1話 城内探索記録(田嶋颯太)
「高深、あれをどう思う?」
城からの脱出経路の相談の為、食堂の端の方の席で食事を取りつつこそこそと話をしていた相手、高深に食堂の中心あたりで展開されている光景について訊ねた。
「相田か……どうでもいい」
高深は心底どうでも良さそうに吐き捨て直にその光景から目をそらした。
俺は壁を殴りたくって仕方ない、相田の座るテーブルは6人掛けだが同席している奴は全員女だ、そのうちの1人がこの国の姫を名乗る見た目だけは美少女な腹黒女、豚王の娘だから豚姫でいいな。
他の4人は元の世界に居た頃から良く相田と一緒に居た奴らだ、こっちも色んなタイプが居るが見た目はすこぶる良い、豚姫とも良い勝負だ。
「見ろよ、相田の奴飯本に食べさせてもらってるぞ、周りの嫉妬の目が半端ねぇ~」
「好きにさせとけ、数年後には黒歴史になってるよ、女共も相田もな、相田のあの性格で何とかなるのは学生の内までだ、社会に出てもあのままだったら色々不味い」
どう色々不味いのかは分からないがホストとかならやっていけるんじゃないか? あ~相田にその気が無いか、あれが自覚して女を落すようになったら完全に嫌な奴だしな~
「ここに残るってんなら問題ないだろ?」
「……そうだな」
残る気の全く無い顔で高深は食事を終え席を立つ、まだ修練を続けるつもりなのか今はもう誰も居ない訓練所に向かうようだ。
さて、俺も俺で色々探ってみようかね。
「勇者様……」
「え? 姫様!?」
ん? 相田と豚姫……
こそこそと城内を探索していると上気した顔で相田を見詰める豚姫、戸惑う相田という場面に遭遇した。
お前等飯食った直後によくやるな……お、羽切が訓練に付き合えとか言って相田を連れ去った。訓練所には高深が居るんだが……まぁ大丈夫だろう。
それにしても豚姫、視線で人が殺せそうな雰囲気だな、怖い怖い……www
やっぱり気になって訓練所の様子を見ることにした。
「やっぱり相田は凄いな、家が剣術の道場だから私も剣の腕には自信が有ったのに……」
「そんな、俺なんてまだまだだよ、羽切さんの家って剣術の道場なんだ、良かったら俺に剣術を教えてよ」
爽やかにイケメンスマイル、羽切の顔が真っ赤に染まる。
まぁ、どういう訳か元々相田に惚れていたようだし気にする事でもないか。
「そんな、私に勝った相田に剣を教えるなんて……」
「実戦と練習は違うよ、それに俺のは身体能力に物を言わせた力押しだからね」
端で素振りをする高深をガン無視でいちゃいちゃしてる、けど様子を見る限り相田にはその気が無い、それに羽切が気付いていないのが滑稽だ、恋は盲目って、もっと良く見たほうがいいぞ。
しかし高深は問題無さそうだな、俺は俺の目的に戻るか。
城内を探索、自然に歩いている俺が周囲の奴らに気にかけられないのは、召喚されて得た特殊能力を使っているからだ、異世界の暗殺者という称号と暗殺術の中にあった隠密行動によって俺は今周囲に姿が見えなくなっている、気配を感じたりする奴には気付かれる危険があるけどそういう技能を持っている騎士とかはこの辺りには居ない。
っと、誰か居る?
「ソウスケは順調に育っているようだな」
「はい、ですが……」
「誘惑の方は上手くいっておらんようだな……」
豚王? それに豚姫? ソウスケって、相田か……クラスの中で一番強い勇者を誘惑して意のままに操ろうってか? 相田に誘惑は効かねぇぞ。地球に居た頃に相田の周りの女が試してない訳がねぇだろうが。そんなものが通用するならもうとっくに誰かとくっついてるよ。
「数名の女勇者共が事有る毎に邪魔を……」
勇者全然敬われてねぇなぁwww 自分らで呼んでおいて邪魔ってwww
「ふむ、美形の騎士を当てて抑えるか……」
豚王、それは見当違いだ、相田の取り巻きにそんなもん当てがっても無意味だ。あいつらは基本相田以外の男は汚物としか思ってない、俺やクラスの他の男子も含めてな。まぁ汚物が多いのも事実なんだが……。
そんな女にばかり好かれる相田がなんだか哀れに思えてくるな、とにかく豚王たちの計画は碌なもんじゃなさそうだけど、相田の取り巻きに関しては問題無いだろう。
それよか、他の非戦闘系能力持ちの奴らに注意しておいた方が良いな。
とりあえず豚王と豚姫の寝室に庭の石の裏に居た変な生き物を放っておいた。
さてさて、何かないかな~っと。
暫く進むと地下への階段を見つけた。
こういうのは大体牢か宝物庫か調教部屋……うわぁ、豚王なら最後のが有りそうで進むのが躊躇われる。けど進む!
「鍵が掛かってるな……宝物庫か?」
鍵が掛かっていて中が確認できない、まあ早い内に開けよう、高深が旅立つ前に役に立ちそうな物を見繕ってやりたいからな。
この城の物を無断で持ち出すことに何の罪悪感も湧かないのは良いなwww
それじゃ、そろそろ今日のメインイベントに行くか。
俺は豚王の玉座の有った部屋へ初日に辿った道を逆に進む、俺が向かったのはこの世界で始めに俺たちが居た場所だ、入り口には見張りの兵が立っているが、俺は隠密やら気配遮断や音遮断を全開にして普通に通り抜ける。
当然なかは真っ暗だ、今度は暗視の能力を全開にして部屋を見渡す。
「期待外れか、そうだよなぁ、初日にも魔法陣やら儀式的なものはなんにも無かったもんなぁ」
となるとどう調べるかだな~、見張りが居るってことはここにもなんらかの手がかりが残っている可能性も有るんだけど、俺じゃ分かんねぇ、地下の部屋と一緒で魔法系の能力持ちを連れてまた来るか……
とりあえず今日はここでの収穫は無しだな。
来た時と同様に見張りの横を通り抜けて他を探索することにした。
う~ん、どうやって勇者を召喚したのかを調べるのが帰還方法を調べる助けになると思うんだけど、最初の部屋の前に見張りを置いている所を見ると、素直に教えてくれると思えないしなぁ……
そうだ、相田に訊ねさせたらどうだろう? いや、相田相手だから答えるだろうけど、間違った知識を教え込まれるのも困るよなぁ、あの豚王ならほぼ確実に本当の事は言わないだろう。
自力で調べるしかないか、まぁ捜索班の奴らにも手伝ってもらうからこっちは何とかなるだろう、一番最悪なのは帰還方法なんて存在しないって事だけど、それは調べて見ないと分からないしなぁ、この国じゃ見付かる可能性が低いのは頭に入れておかないとなぁ……
よし、次はこの国と周辺のことを調べるか、城なんだから書庫ぐらい有るよな?
翌日の朝食の席、俺は高深の朝食と俺の朝食をこっそり入れ替えた。
「田嶋……」
高深は気付いていたようだけど小さく礼を言って食べだした。人一倍身体を動かし鍛練に励み、能力値の低さをどうにかしようとしている高深には配給される食事では量が少ない、豚王の指示で高深に配給される物は尽く量が減らされるか最悪配給されない。例としては勇者たちに配給されている金だろうか、騒ぎを起こしたり街の外に出ないなら、街で息抜きをして来ても良いと召喚者全員に配られた筈なのだが、高深は貰っていないらしい。
能力値が低く特殊能力の無い高深を早々に見限った豚王共の対応を考えれば俺の行動も高深には気を使ってくれたと感じただけだろう、それでいい。
「んじゃ、いただきます……」
俺は毒入りの朝食をゆっくりと食べ始めた。
さすがに即死するような毒ではなく地味に嫌がらせするタイプの毒みたいだけど、確実に体調を崩すような代物が高深の朝食に混ぜられていた。その事に暗殺者の能力の中に含まれていた目利き(毒限定)で気付き、毒耐性を持っているので俺の食事と交換する事で高深に気付かれないように毒を処理した。ちなみに俺は毒作成の能力も持っている、この毒入り朝食を食べた事で毒の成分、材料、作り方などが頭に流れてくる、食ったら作成方法が分かるとかなんてスキルだよ……
でもこれで今日の予定は決まったな……
その後、朝食を終えた俺は鍛練をさぼり行動に移った。
先ずは給仕を行ったメイドをストーキングする、今の俺は確実に怪しいから隠密スキルを全開にして誰にも気付かれないように後をつける。
早速誰かと接触するようだ、こういうのは直に行動すると怪しさが増すんだが、ここの連中は勇者、異世界人を嘗めているのか? こっちはやり易いから何も言わないけど……
「おい、本当にあのカスの食事に混ぜたんだろうな?」
うわぁ騎士団長だぁ、笑えねぇ命令でやってんのか、自ら進んでやってんのか?
「た、確かに混ぜました……」
おう、混ざってた混ざってたwww でも毒耐性で俺には効いてない。
毒が入っているらしい瓶を団長に見せるメイド、確かに中身はほんの数滴しか残っていない……元々どれぐらい有ったか知らねぇが、容赦無く混ぜたな。
「毒を間違えたか? お前、ちょっと舐めて見ろ」
「ええぇ!」
団長鬼畜~、でも逆らえないメイドさんは瓶を傾け零れる雫に舌を伸ばす。
あ~あ、舐めちまったな。死ぬような毒じゃないとは言えよくやる……
「~~~~~んんんん!」
真っ青になって額に脂汗を滲ませたメイドさんが駆け出そうとするが団長が肩を掴んで止める。
「こらこら何処へ行く? まだ確認は終わっていないだろう」
目の端に涙を溜め今にも決壊しそうなメイドさん、はぁ……仕方ないから助けてやるか……
「あれ~、団長さんこんなとこで逢引ですか~?」
「チッ、もう行って良いぞ……」
メイドにのみ聞こえるように小声で言ったのだろうが、舌打ちしたの聞こえているぞ。
能力を得て色々強化されていて耳も良くなっているって言うのもあり聞こえているのだが、団長はそんなこと知らず何事も無かったかのように俺に笑顔を向ける。うん、クズだけど顔は整っている、騎士団の団長という地位と整った容姿、何も知らなければ惚れる輩も出てくるだろう、こいつは本性を隠しているようだからクラスの奴らにもそれとなく注意しておこう。
「ソウタ殿、勘違いですよ。少しこの後の仕事の話をしていたのですよ」
ん? あまり目立たないようにしていたのに俺のことを認識しているのか、こいつらは扱い易そうな奴らしか興味無いと思っていたんだが……高深と一緒に居る事が多いから俺も警戒されてるのか?
「失礼します!」
限界なのか顔を青から赤に変えたメイドさんが慌てて駆けて行った。間に合うと良いな。
「だんちょ~、あのメイドさん顔真っ赤だったよ~、よっ、さすが騎士団長! もてますね~」
「本当にそういうんじゃないですから……」
おっと、これぐらいで止めておこう、こんな奴突いても碌なもん出てこないだろう。
「まぁ、女子連中にはいいネタになりますよ、女子は恋愛話とか好きですからね~、それじゃ!」
「あ、ちょっと……」
それ以上聞かずに場を離れる、とりあえず本当に女子には騎士団長がメイドに手を出しているって噂を流しておこう、それで団長に落される女子も減るだろう、相田勢は問題無いけど急に異世界に拉致られて心が弱ってる奴も居るからな、イケメンに優しくされたら落ちるかもしれない、もうイケメンとか死ね。
よし、色々問題はあるが……報復と工作を始めようか。