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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
終章 それぞれの後日談・異世界人
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終章11話 冒険者始めました(田嶋颯太)

 俺は相田が託した聖剣を返しに行く高深たちを見送った後、シルバーブルの冒険者協会で冒険者登録をすることにした。

 豚王の死や魔王との戦争の終結、リーシアの戴冠などによって色々とごたついているシルバーブルだが、冒険者登録はあっさりと片付いた。

 シルバーブルでいくつか依頼を片付けて多少の金を稼いだ後、今のごたついているシルバーブルには駆け出し冒険者に回せる依頼が少ない事に気づき、俺は旅立つことに決めた。


「それじゃ、どこに向かうかだな……」


 ゴルディリオン以外の国には必ず幾つかの冒険者協会が有るから、ゴルディリオン以外の国にならどこに行っても良いんだが、セントコーラルには高深たちが向かったから除外だな。残るはエバーラルドとマギナサフィアだが、素通りして別に国に行くって手も有るな。

 決難い時は適当だな、一応の問題が片付いた今なら多少適当に行動しても異世界人の能力ならどうとでもなる。とりあえず、エバーラルドかマギナサフィア方面の乗合馬車にでも乗るか。

 俺が戦える事が分かると、乗合馬車の護衛も兼ねれば料金が割引されるということだったが、面倒なので断って普通の料金で乗る事にする。他にも冒険者の護衛が居るから問題無いだろう、俺が駆けだしって事で一応聞いてみただけのようで特に何か言われることも無かった。


「で、この馬車は何処行きだ?」


 馬車の中、見張りに就いて居ない暇そうにしている冒険者に質問をぶつける。


「お前、どこに行くかも知らないでこの馬車に乗ったのか? ん? 前にもそんな奴が居た様な気がするな……」


 誰だその間抜けは? まぁ、俺の場合はわざとだから問題無い。


「まぁいいか、この馬車はエバーラルド行きだ。国土の3分の1がドラゴンの住まうドラグレッド山脈っていう竜の国だぞ、大丈夫か?」


 ドラゴンってあのチンピラだろ? あのチンピラならどうにか逃げられる。他も似たようなものだろう? まぁ、正面から倒すだけの火力が無いのが問題だな。能力的に攻撃力がこれ以上伸びるとも思えないし、どっかに高威力殲滅魔法使う美少女落ちて無いかなぁ。

 相田はハーレムを解体してから帰ったから良いけど、高深の奴はいつの間にか伊勢だけじゃなく美波とも上手い事やってたからなぁ。一応、今回の事を死者無しで一区切りつけられたんだから俺にもそういう話が有ってもいいと思うんだが、異世界も甘くねぇなぁ。

 何度か魔物の襲撃は有ったが、冒険者たちは難無くそれを撃退して馬車は順調に街道を進んでいく。


「魔物が多いな、異世界の勇者たちが大量発生した魔物共を駆逐したって聞いていたが、まだ残ってやがるのか?」


 まぁ、完全に倒しきったわけじゃねぇからな。大量発生は高深たちが精霊の移動を他国の精霊に頼んでくれたから治まってはいるけど、そのすぐ後にゴルディリオンの方に掛かりっきりになったし、ゴルディリオンの方が片付いたら異世界人の大半は元の世界に帰ったからな。そりゃ、残ってるだろ。

 そういった事情は知っているが、ここでいう事じゃないな。駆け出し冒険者が知っているような情報じゃない。


「ったく、勇者たちが魔物を片付けたって聞いたから乗り合いの護衛を再開したってのに……」


 まぁ、やばくなったら俺も戦うから大丈夫だろう。エバーラルド行きってことは、魔物の大量発生の全盛期に初期能力の高深が乗り切った道だ。今の俺の能力なら問題無いだろう。多分、冒険者たちで十分だとは思うけどな。

 数日かけて、冒険者たち曰く普通より多い魔物の襲撃を乗り切り、シルバーブルからエバーラルド間の国境も問題無く通り過ぎた。

 そのまま馬車は街道を進み、暫く行くと街道の先に武装した集団が見えた。

 あのメタリックな深緑色の鎧の輝きはブロズ荒野で見たエバーラルド兵の竜騎士が身に着けていたものと同じだ。偽物じゃないならエバーラルドの兵士だろう。


「あ、止まってください! すみません、エバーラルドの国境警備の者です。少しお時間いただきます」


 ん? 検問か? 高深に聞いてたのとは随分対応が違うな。 あまぁ、あの姫さん(リミュール)にチクったらしいから高深を対応した奴とは違う奴か。

 警備兵の質問に幾つか答え、ここも問題無く通る事が出来た。順調だ。順調すぎて何かイベントを逃している気がする。


「高深みたいに徒歩で行った方がよかったか?」

「おいおい、徒歩でシルバーブルからエバーラルドまで行くって、何日かかると思ってるんだ」


 まぁ、その行程を高深は行ったわけだが。その高深はエバーラルドに着く前にリミュールを助けたんだったか? いや、商人の母子だったか? フラグがポンポン立っててどの事象がどこで起こったかごっちゃになってるな。自分の事じゃないから余計になんだが、まぁいい、高深が潰した後じゃ盗賊も居ないだろうしこのまま乗合馬車でエバーラルドまで行けば良いか。


「前に一度潰された盗賊が、また出るようになったそうなので護衛の方注意してください」


 そう、警備兵に対応していた御者のおっさんが護衛の冒険者たちに注意を呼びかける。

 ……まぁ、ファンタジーだしな。てか、高深が潰した後に新しい盗賊が居るのか、それとも生き残りか? とにかく、今その話が出て来るってことは、多分その盗賊道中で出て来るな。

 護衛の冒険者に対処できる程度なら良いんだがな。


 それからエバーラルドに入ってからも順調に馬車は進んでいく。王都も近くなり、俺の予想は外れたかと思っていたんだが、そんな事は無かった。

 明日は王都に一番近い町で一泊できるので今日が最後の野営となるこのタイミングで盗賊はやって来た。


 街道の休憩所を囲むように広がる不穏な気配に目を覚まし、周囲の気配を探ってみると十数人程度の気配が感じ取れた。


「隠密」


 相手に気づかれない位置で隠密を使い消音で自身が発する音も消す。後は、盗賊が動き出す前に闇に紛れて一人ずつ仕留めていくだけだ。称号暗殺者の能力は派手さは無いが、正面からの戦いでなければ無類の強さを発揮する。

 闇に紛れて麻痺針を撃ち込んでいく。攻撃動作は隠密の解除に繋がるのだが、遠距離から麻痺針を撃って、他の奴に気づかれる前にまた隠密を使えば問題無い。

 盗賊共は麻痺針であらかた片付けた。だが、リーダー格が仕留められていなかったようで、残った数人が一斉に馬車へと奇襲をかけた。

 馬車の側面に数本の矢が突き刺さったことで襲撃はすぐに感知されたが、見張りの冒険者の一人が肩に矢を受け苦痛に声を漏らす。


「く! 夜襲だ!」

「あ!? 一斉攻撃だって言っただろう! こんな単純な命令もまともに実行できないのか!」


 見張りの冒険者と盗賊から同時に声が上がる。冒険者たちは休んでいる者にも声をかけ一般の客には馬車から出ないように注意を呼び掛ける。肩に矢を受けた者も馬車内に避難して治療を始めているから大丈夫だろう。

 一方盗賊の方には手数の少なさに混乱しているようだ。俺が大体の盗賊を暗に無力化した事には気づかれていないからそうなるよな。


「糞! これだから盗賊なんて屑は使い物にならないんだ!」


 その盗賊のリーダーが何を言っているんだかな。文句を言いながらも盗賊のリーダーは手下に攻撃を命じる。刃物を手に飛び出してくる者、命中率が皆無っぽい矢を引き続き射て来る者とばらばらだがその数は少ない。

 そして、そんな手下たちに背を向ける者。盗賊のリーダーだ。


「一人だけ逃げるのかよ!」


 思わず盗賊の前方に回り込んで突っ込んでしまった。あ、隠密解けちまったな。


「な! お前は!」


 なんか、盗賊のリーダーが突然現れた俺を見て驚愕している。と、まぁ、声だけで判断したんだが、何だこいつ? 薄汚れてはいるが、身に着けている銀色の鎧に不釣り合いな鉛色の顔を覆う兜、腰に差した剣は盗賊が持つにしては上等な品のようだが、やっぱりなんだこいつ? 盗賊が兵士みたいな格好して何がしたいんだ?

 とりあえず無力化かと思い麻痺針を投げる。が、防具と予想外の剣技によって弾かれてしまった。


「へぇ、盗賊にしては中々」

「黙れえぇ!」


 おいおい、速攻で逆上してんじゃねぇよ。

 俺は麻痺針で無力化することを諦めて両手に短剣を取り出す。防具の隙間を狙うのは面倒だが、その装備の視界と重さじゃどれだけ剣技が優れていようとも俺の動きにはついてこれないだろう。

 鎧盗賊の周囲を高速で駆け回りながら隙を見て斬りかかるが、それも予想に反して対処される。こいつ、この世界の人間にしては強い方か? 亜竜の師匠さんとか獣人のクロトと比べると劣りはするが、面倒だな。


「チぃ! 労せずに力を与えられただけの異世界人が! 俺の邪魔をするな!」


 あぁ、この盗賊、あいつか。よく見れば薄汚れた銀の鎧に削られた部分が有る。多分シルバーブルの紋章が付いていたんだろう。

 長引くのも面倒だな、ちょっと本気出してとっとと片付けよう。リミッターの解除、これまで実践で何度も行ってきたからもう慣れたものだ。今なら多少疲労が残る程度の反動で使える。

 流石にリミッター解除した状態の俺の速度にはついてこれなかったようで、盗賊は俺の動きに反応できない。防具の隙間から麻痺毒付きの刃を通し無力化に成功する。


「よし、こんなもんか」


 麻痺毒が効いて、盗賊がその場に倒れたことを確認してから持っていた短剣を片付ける。


「そんじゃ、何でお前がこんなところに居るのか聞こうか?」


 おそらく正体を隠すために被っていたであろう顔を覆う兜を引っこ抜く。そこには、予想通りの顔が有った。

 ブロズ荒野で俺たちがゴーレムの群れを相手にしている時に居なくなっていた、シルバーブルの騎士団長。今では、頼りないけど副団長だった奴が団長になっているから元が付くけどな。

 まぁ、あれだけの数に攻め込まれて頼りの魔法兵器も高深に壊されてたんじゃ逃げたくなるのも分かるが、愚策だな。騎士団長とは言え、評判の悪いシルバーブルの逃亡兵が他国でまともに受け入れられる訳が無い。実際、こうして盗賊に身を窶しているわけだ。


「ほれ、もう喋れるだろう?」


 ふん縛った後、話せるだけの解毒をしてやり言い訳を聞かせろと促す。


「お前が合図で動かなかった盗賊共を消していたのか……」


 俺は別みたいな言い方をするなよ、お前も盗賊だろうが。それに消してねぇよ、麻痺させて無力化しただけだ。


「質問してるのは俺なんだが、まぁいい、お前の事なんかどうでもいいからな、精々いい賞金になってくれ」


 そう言って元騎士団長の髪を掴み馬車の所まで引きずって行く。戻った時には手下の盗賊共は護衛の冒険者に倒され捕まっていた。元騎士団長を引きずって来た俺に驚いた表情を見せる護衛の冒険者たちに、まだ周りに麻痺した盗賊が居ることを知らせて全員捕縛してもらう。その間も元騎士団長が煩かったので再度麻痺させて静かにさせた。

 結構いいところを見せたと思うのだが、乗合馬車にヒロインになりそうな美少女が居ないので意味が無いな。


「ははは、駆け出しにしてはやるじゃねぇか!」


 護衛の冒険者たちは俺の働きで気に入ってくれたみたいだが、おっさんに気に入られても全く嬉しくねぇんだよ!







「てな訳だ。元騎士団長に対する苦情はシルバーブルに回してくれ。江ノ塚に貸しができるぞ」


 エバーラルドに来るまでの事を話し、テーブルを挟んだ向かいで優雅に、だが何処か怒気を孕んだ笑顔でティーカップに口を付けるリミュールに付け足す。


「あいつなら関係無いって切り捨てるかもしれないけどな」


 招かれた茶会で異世界人だから能力の高い俺がプレッシャーを感じるとか、あ、そう言えばこいつも師匠さんと同じでドラゴンの血が流れてるのか、それが原因か?

 高深と違ってリミュールに関わる気は無かったんだが、リミュールの方は見逃してくれなかった。

 他の奴が攻略済みのヒロインに興味はねぇんだが、まぁ、冒険者協会も協力してやがって逃げられなかった。おかしいな、冒険者協会は国に縛られていないんじゃなかったか? この国だけ仲が良いってだけか? まぁ、そんな感じだったよな。



 盗賊共を捕らえた後、問題無くエバーラルドの王都までの行程を進み、盗賊共プラス元騎士団長を引き渡して賞金を護衛の冒険者共と山分けした後、宿を決め冒険者協会で依頼を受けようと依頼書を選び受付をしている者の中から桃色髪の美少女に狙いを付けて声をかけた。


「ソウ……タさん? シルバーブルでの登録の新人冒険者ですか。すみません、もしかしてソウヤさんの知り合いの方ですか?」


 クソこの娘も高深の攻略済みか? 俺のヒロインは一体どこに居るんだよ!?


「ソウヤ? 誰ですか?」


 とりあえず惚けよう、攻略済みのヒロインに興味は無い。それに面倒事の気配がする。


「やっぱり、ソウヤさんに似てる。面倒事を避けようとする所とか、髪や眼の色、雰囲気……」


 高深と似てるとか止めろよな、なんだかんやと抵抗を試みたけどなんやかんだでリミュールの元へ連れて行かれてしまった。

 リミュールから冒険者協会へ高深、もしくは知り合いの異世界人が来たら連れてきて欲しいと要請が入っていたらしい。



「ソウタ! 聞いているの!?」


 聞いてない、高深が今どこにいるかとか何してるかとか俺が知る訳が無いから聞いていない。ただ、セントコーラルに向かったってことは分かっているけど、今も居るかどうかは分からないな。

 のらりくらりとやり過ごす俺に対して抑えていたらしい怒りを漏らし始めるリミュール、その態度に部屋の隅で俺を睨みつけていた王子、フリードだったか? の視線が和らいだがプラマイで居心地の悪さは変わらない。


「ま、まぁ良いわ。ドラゴンの血が濃い私にはソウヤに見合うほどの時間が有るのだから、レイナには負けないわ!」


 伊勢と張り合ってるのか、まぁそうだな、高深を狙ってるなら伊勢が邪魔か。美波はどうやったのか伊勢の奴も受け入れてるけど同じように出来ないのか? そうしないと手遅れになるぞ。


「いや、そのアドバンテージは無いようなもんだ。高深が完全に竜化したら伊勢に竜化を使えるからな。あいつらの時間はいずれ同じ流れになる」


 リミュールは高深が他者を竜化させる術を使えるようになることを失念していたらしい。高深が竜化を使えるようになれば伊勢は竜化を望むだろう。あいつらの出発前に聞いてみたら何を当たり前の事をみたいな顔をされたからな。

 まぁ、高深の場合は生命竜だから竜化してしまうと同族じゃ子供ができないようになるからな、伊勢は何人か産んでから竜化するって言ってたけど、あれは多分身体の成長にも期待しているな。あのミニボディがお約束的にあれ以上成長すると思えないけど、まぁ頑張るといいだろう。


「そんな、じゃぁソウヤは……」

「とりあえず待ってるだけじゃ多分駄目だな。まぁ、頑張れ。高深なら強く迫れば流されるだろう、実際美波にも少し流されかけているからな」

「レイナ以外にも!?」


 元々焦っているリミュールをを煽るのはこれ位で良いか? 被害は高深の方に行くわけだが、俺はさっさと自分のヒロインを見つけたいんだ! 高深のヒロインに関わってる暇は無いんだよ!

 リミュールを煽った俺に対して部屋の隅からの視線が強く険しくなったが無視だ。さっさと御暇しよう。


 エバーラルドで暫く稼いだ後はマギナサフィアかと思っていたけど止めた方が良さそうだな。どこに高深のばら撒いたフラグが落ちているか分からないから、あいつの行っていない国に行こう。

 そう決心して俺は俺のヒロインを見つける旅に出る。

 ハーレムとまで贅沢は言わないから、一人で良いんだ! 頼むから俺のヒロイン出て来てくれ!

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