表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
終章 それぞれの後日談・異世界人
118/130

終章4話 異世界残留組

 さて、冬子に俺たちは元の世界に帰れないことを伝えないといけないんだけど……。


「蒼也、師匠さんが呼んでるよ」


 執務室を出て冬子を探していると速攻で玲奈に捕まった。


「ああ、悪いな。もう、今話して来たところだ」


 玲奈は無駄足だったことをさして気にした風でも無い。途中から、いや、最初からいつの間にか居なくなっていた俺を探すことが目的になっていたんだろうな。


「何の話だったの?」


 まぁすぐ分かることだし別に話してもいいよな……冬子に話す際に玲奈も居てくれる方が有難いしな。


「ああ、俺と冬子なんだけどな……キリヤたちの言う帰還方法じゃ帰れないみたいなんだ」

「え……?」


 何を言われているのか分からないという感じの玲奈に俺たちが帰れない理由を説明していく。


「俺の場合はあのチンピラドラゴンに竜化の術をかけられたからだな。こっちの世界のモノは元の世界に持って行けないらしくてな、竜化でこっちの世界のモノになっていってる俺や、主精霊との契約の為にやった禊で存在が書き代わってる冬子は帰還術式に弾かれるらしい」

「禊って……水浴び?」


 マギナサフィアの主精霊は契約の為に泉で身を清めろとか言って水浴びさせたよな。俺はその場から離れたから見て無いけど……セントコーラルでも同じようにさせられていたはずだ。


「主精霊の泉で水浴びなら、私も……」

「え……?」


 今度は俺の方が何言われてるのか分からないって反応を返してしまった。


「セントコーラルで、その……ちょっと体が埃っぽかったし」


 マジか? セントコーラルの主精霊も契約しない玲奈が水浴びすることをよく許したな……いや、止めろって話なんだけど!


「本当に?」

「うん……」


 残留決定三人目……。いや、まだ確定したわけじゃない、禊だけだし大丈夫かもしれない!


「ああ、それなら彼女も駄目だな」


 玲奈の腕をつかんで速攻で執務室に戻った俺たちに、キリヤの無慈悲な一言が飛んで来る。


「お前等……もうちょい大人しくできないのか?」


 ついでに、勢いよく執務室に入ってきたことか、帰還できない者が増えたことを言っているのか、師匠が呆れたようにつぶやく。


「蒼也が帰れないなら私も帰らないから、何も変わらないよ?」


 お前何言って……いや、玲奈ならそうなるか。玲奈も帰れないことが確定したわけだし、もう放置って訳にもいかないのかな……。

 玲奈もこっちの世界に来るまでは、今みたいに露骨にアピールしてこなかったから気が付かなかったけど……。元の世界よりは危険な、命の危機が身近な状況で玲奈は……まぁ、女の子の考えなんて俺には分からないんだけど、元の世界に帰れない以上、いつまでもこのままって訳にはいかないよな……。


「まぁ、取り乱さないで落ち着いてくれてるのは有難いんだけど……」

「ん?」


 とりあえず冬子にも話をしに行くか……。

 説明役に玲奈もつれて冬子を探して城の中を回ってみる。中庭、冬子にあてられた個室、食堂、適当に回ったけど冬子の姿は見当たらない。もしかして城の外、街に出たか?


「冬子なら屋上に居るよ? 蒼也を探してる時に見かけたから、今は居るか分からないけど」


 いや、それならもっと早く言ってくれよ……。まだ残っていてくれることに期待して、俺たちは城の屋上に出た。高さはブラックドラゴンが破壊した塔の部分の方が高いけど、何とか街全体が見渡せて見張り台の役割も有るらしい。けど、今ここには兵士の姿は無く、周囲に精霊の光を漂わせた冬子が居るだけだった。


「精霊使いってのはそういうのを定期的にやらないといけないのか?」


 俺が声をかけた途端に精霊の光は散って消えてしまった。邪魔してしまったか?


「別に、定期的に必要って訳じゃないんだけど、ずいぶんお世話になったから元の世界に帰る前にこの子たちにもお礼を言っておこうかと思ったのよ……」


 うわ……これは、帰れないって言い難いな。


「でも冬子、私たちは」

「うん、分かってる……精霊たちが教えてくれたから……私たち帰れないのよね?」


 言う手間が省けたと思えばいいのか……元の世界に帰れないってことを知っていた冬子だけど取り乱したりする様子は無いな。でも、今までずっとここで精霊と会話していたってことは、俺が見た感じほど平気でも無いのか?


「また、三人で冒険者しよっか」

「それも楽しそうね……でも、そっか……玲奈も一緒に水浴びしてたわね……え? 三人? 蒼也君は……?」

「俺は二人に再会する前にドラゴンに竜化の術をかけられてるから問答無用で異世界残留だ。帰れないよ」


 竜化のせいで帰れない俺は冒険者として気楽に生きるつもりだったから、玲奈の言う通り帰れない者同士で冒険者やるのも別に構わないな。


「でも……良いの?(私が居なければ蒼也君と二人っきりなのに)」

「うん、冬子なら良いよ」


 なんか俺が何も口を挟まないうちに俺らの今後の身の振り方が決まっていくけど……まぁ良いか。


「なんか知らん内に百合百合してんな」


 思わず声を上げそうになった。

 消音と隠密でも使ったんだろうけど急に隣に出てこられると驚くだろうが。


「なんだ田嶋、もう相田たちに血を収集する事は話したのか?」

「もうとっくに終わってる。一応伊勢にも話しておいた方が良いかと思ったが、やっぱりこうなるかぁ。高深が帰れないんだからそうなるよなぁ」


 何を予想していたのか知らないけど、田嶋は玲奈が冬子と同じように禊によって元の世界に帰れなくなってるなんて分かってないだろうな……あとで教えとくか。


「帰れない奴が増えるって言うのに問題無いって……お前なぁ」

「問題は帰れない奴より帰れるのに駄々捏ねそうな奴なんだよな……」


 江ノ塚、白山なんかの不良共、あと鍛冶狂い星月とかか? ついでに俺たちが帰れないのに自分が帰る訳にはいかないって言って相田も駄々捏ねそうだよな……そうなると、取り巻きの女共も残るって言いだしそうだな……。


「まぁ、その辺は何とか手をまわしてみる。魔王の件も有るから、あんまりこっちに異世界人を残したくないんだよなぁ」


 説得とか面倒な事は任せた。代わりに俺は残留組の面倒を見るから……いや、冬子相手なら俺たちの方が世話になる確率が高いな。


「んじゃ、早速!」


 田嶋はそう言って凄いスピードで走り去っていった。


「今の田嶋君? 急に出てきたと思ったら急に消えたけどどうしたの?」


 冬子には田嶋が走り去って行ったのは見えてなかったみたいだな。田嶋もシュッて消える感じの演出がやりたかったんだろうけど、玲奈や素早さの能力値の高い奴にはそう見えないんだよな。


「俺が帰れない奴に声かけているみたいに、あいつもあいつで動いてるんだよ」

「そうなのね……」


 そして数日後、ゴルディリオンに居た俺たち異世界人はキリヤとリリや、リーシアを伴い、砦に残っている奴らを回収してシルバーブルに戻る事になった。師匠は留守番だ、まぁ俺は帰れないから見送ってもらう必要もないしな。

 帰還の術式は召喚に使われた場所で行うのが一番良いらしい。今回呼ばれた異世界人は俺たちやマギナサフィアとかブロズ荒野の砦に散らばってるから集めるのにも丁度良い。


「ああもう! 引っ付くな!」


 相変わらず田嶋がリリに絡まれている。相田は言わずもがなで江ノ塚もリーシアに構われている。藤田は相田を見守っているだけだけど、その隣にちゃっかりと田中が陣取っている。


「何だこの甘ったるい集団は……」

「一言言ってあげよう、君が言うな」


 いや、分かってるけどな! キリヤは一人だけ身軽そうでいいな!

 俺の右腕にはいつもの如く玲奈が引っ付いている。まぁ、それだけならいつも通りだから気にもしないんだけど……左腕には冬子がくっついている。これってどういう状況だ?

 リミュールの時はもの凄く威嚇していた玲奈も大人しいし……。冬子もこんな状況になる素振りなんて全く無かっただろう? 本当にどうなってるんだ?

 あ、やばい、左腕に感じる玲奈やリミュールには無いボリュームが気になって落ち着かない。玲奈でだいぶ慣れている気になってたけど……これはやばい。

 

「俺をどうしようって言うんだよ……」

「僕が知る訳ないだろう……」


 藤田以外自分の方で精一杯みたいだからキリヤ以外にツッコミを期待することもできない。

 楽園なんだか天国なんだか分からない状態のまま、砦に到着する。この状態で、行きのように移動手段が有ったわけじゃないから結構時間がかかったな。


「聖剣使いよ! 勝負だ!!」


 そうして砦にたどり着いた俺たちを厳つい獅子の亜人が出迎えた。


「おい相田、呼んでるぞ」


 田嶋が相田に丸投げしようとしているけど、それよりも早くキリヤがクロトを止めてくれた。あのバトルジャンキーなおっさんも一応上司の言う事は聞くんだな。

 俺や田嶋としては簡単に片付くならそれでいい。

 それじゃあ、砦に残っている奴らに話してシルバーブルに戻るか。この砦にはリミュールが連れて来た竜騎士も残っているみたいだから、頼めばシルバーブルまではすぐ戻れるだろう。


「元の世界に帰る為に血を提供しろ? ハッ、帰りたい奴だけ勝手に帰ればいいだろ!」


 大多数の者が元の世界に帰れる事に沸く中で空気を読まない馬鹿共は……。


「へぇ、だったらこの世界に残るんだ? いいよ、そっちの方が僕も楽しいからね」


 凶悪な笑みを浮かべた江ノ塚が対応に出た。

 江ノ塚の場合はゴルディリオンの帰還術式で帰る事は可能だ。でも、江ノ塚は帰らないだろう……元の世界に帰ると精霊を糧にして得た能力は失われる。もし、白山たちと一緒に帰ったら能力を失った江ノ塚は前の状態に逆戻りだろう。これじゃ、帰りたいなんて思わないよな。

 じゃぁ、今言ってるみたいに白山たちが帰らなかったら? その場合も江ノ塚は帰らない。帰った後で何かの気まぐれで白山たちが帰還術式を使って戻ってきたらって危険性が有る。

 なら、江ノ塚が平穏を得るためにはこの世界に残るしかなくなるんだ……そこに白山たちが残ろうものなら江ノ塚の仕返しが続くことは目に見えている。

 一番平和的なのが、江ノ塚が異世界に残って白山たちが帰るって方法になるんだな。


「ホント、しょうがないね……少し目を離しただけで態度がでかくなるこの屑共は……まだ痛め付け足りないのかな?」


 白山たちの説得は江ノ塚に任せれば大丈夫だな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ