表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
六章 異世界人・魔王
114/130

間章六章3話 ドラゴンたちの帰還

注意・本日二話目です。

「ったく……なんで俺がババァに付き合ってこんな何もないところで駄弁ってないといけねぇんだ! あぁん?」

「うるさい、あんたが逃げるから悪い」


 気違い魔王をぶっ倒した異世界人たちが去り、戦場跡に残った一人の男がいつまでも佇む場所から少し離れた場所にその二人は居た。

 1人は漆黒のゆったりとしたワンピースを身に纏い長いストレートの黒髪を背中で無造作にまとめ仁王立ちする整った容姿の女性。

 もう1人は座り込んでぐちぐちと文句を言っている、サングラスをかけ、アロハスタイルのスキンヘッドの見るからにチンピラな男。


「ババァも戦場を放り出して俺を追って来たじゃねぇか! 非難される謂われはねぇよ!」


 茹蛸のようになりながら唾を飛ばして抗議するチンピラだが、女性はチンピラの抗議などどこ吹く風、全く気にも留めずにただ戦場に残った男を見守る。


「大体ババァも500年前の関係者ならもうちょっと頑張れよ……あの頃の関係者が皆逝っちまってる中で1人だけ生き残ってやんの、ププッ」

「うるさい、異世界人共が譲らなかったのよ。それに……あの人の意志は孫たちが継いでくれた……もう、私たちの役目は終わっていたのよ……彼らは実際に全部終わらせてくれたしね」


 どこか遠い過去を見つめる瞳で女性は空を見上げる。その内にある感情は誰にも窺い知れない……。


「なぁに、いい風に締めようとしてるんだか、このババァは……」


 空気を読まず水をさすチンピラのスキンヘッドを、女性のワンピースの裾から飛び出してきた黒い鱗に覆われた尻尾が打ち据える。


「ちょ! 止め! 止めろってブ! ぶは! ごっ! あ、ごめんなさい! ぶっ! 止めてぶべ! 許しておご!」


 チンピラは自らの出した血の海に沈み沈黙した。その惨状を作り出した女性は何事もなかったかのように未だに戦場跡を動かない男を見守る。その表情はチンピラを無慈悲に沈めた者とは思えない穏やかで優しいものだった。






「で、あいつはいつまでここに居るんだよ?」

「うるさい、既に死んでいたとはいえ、あの子にとっては祖父の身体を消し飛ばしたのよ……色々思うところが有るのよ」


 いつの間にかその身体に傷一つ無い状態のチンピラは、尻尾の下敷きにされたままそんなことを言って又潰されていた。


「いや、でも岩に座って本格的に動かねぇ構えだぞ」


 チンピラの言う通り、二人が見守る男は手近にあった岩に座り込み、まだ帰る気配はない。


「ま、まぁ、色々思うところが有るの……」

「なんか誰もいねぇ所に話しかけてる気がするんだが? 壊れてねぇだろうな?」

「ハヤトォォーーーーーーーー!!」

「落ち着けババァ!」


 慌てて男の元に駆けて行こうとする女性を、今度はチンピラが頭を押さえつけて止める。


(やべぇ、ババァに一撃入れられたの初めてじゃねぇか?)

「何をする小童が!」

「ぶべ!」


 例のない偉業に少し感動しかけたチンピラだったが、即座に落ち着いた女性に再び血の海に沈められた。

 チンピラをこれでもかと言うほど打ち据えてから、女性は心配はあるが、自分の孫は大丈夫だと信じ再び男を見守る姿勢になった。




「ババァ……いつまでここに居ねぇとなんねぇんだぁ? 正直俺要らねぇだろうが……」


 女性とチンピラが戦場跡に残った男を見守りだしてからほぼ1日が経っていた。その間、男はずっと同じ行動を続けていた。

 流石に1日食事もとらずに独り言を続けている男に危機感を抱き、そろそろ声をかけるかと考えていたところで男は立ち上がり2人の方へ歩いて来る。


「あれ? 婆さん、それと……誰だ?」


 自分が1日と言う長い間戦場跡に留まっていた事を自覚している男は、この場に2人が居ることに多少驚きはしたが、それよりも自分の祖母と共に居る見慣れないチンピラ男に訝しんだ視線を向ける。


「ああ? んだてめぇ、目上の者に対しての態度がなってねぇんじゃねぇかぁ?」

「うるさい、あんたと私の血族じゃ格が違うのよ」


 三度血の海に沈むチンピラ、だが、その傷も見る見るうちに癒えていく。生命竜の名は伊達ではない。人の姿をとった時の見た目からは全く想像できないが……。


「ハヤト、よくやったわ」


 自分が叩きのめしたにも拘わらず、既にチンピラドラゴン、クオーレの事など眼中にない女性がハヤトに優しく声をかける。


「いや、俺は殆ど何もやってない、弟子やその仲間の異世界人がみんな引き受けてくれたからな」

「弟子? そう言えば、リョウの技を使っている子が居たわ、ハヤトが教えたのね……って言うか、その子、あんたと同じ気配が僅かに感じられたんだけど?」

「ん? ああ、ソウヤになら俺の肉喰わせてやった。竜化付きでな!」


 又、血の海に沈むチンピラ。しかし、今回の女性の尻尾攻撃は少々本気だったようで傷の治りが遅い。


「異世界人に何てことしてるのよ!!」

「んだよ! 俺の息子と殺り合って死にかけてたんだから仕方ねぇだろ!」


 チンピラは何度も尻尾につぶされながら抗議するが全く聞き入れてはもらえない。


「あいつ、俺と別れた後ドラゴンに挑んでやがったのかよ……無茶し過ぎだぞ。いや、今なら普通にはっ倒せるぐらいになってるみたいだが……」

「それどころじゃないわ。竜化を使ったってことは、その子、元の世界に帰れないわよ」


 慌てて女性の言い出した予想外な事に、他2人が固まる。


「「は?」」

「今ある帰還方法はリョウが見つけたものよ、異世界人のね……」

「爺さんが見つけたってのは知ってるが?」


 以前キリヤが蒼也たちに話したゴルディリオンが保有する元の世界への帰還方法は、楔の魔王が長い年月をかけて研究し見つけ出したものだ。


「異世界人のリョウが、帰還方法が有るのに元の世界に帰らなかったのはなぜだと思う?」

「楔の役目があったから?」

「それもあるわね。でも、楔の役目は引き継げるのをハヤトは知っているでしょう。リョウが元の世界へ帰れなかったのは、自身の能力故にこの世界との繋がりができてしまっていたからよ」

「繋がり?」

「ええ、リョウの能力は魔物を操るものだけど、魔物と友誼を結んだ数だけ自身の能力が上がるというものもあるのよ。その友誼がこの世界との繋がりになって、今ある帰還方法じゃリョウは元の世界へ帰れなかったのよ」


 楔の魔王の見つけだした帰還方法は元の世界に帰るというもので、この世界の者が異世界人の世界に行くことはできない。故に、楔の魔王の様な契約や蒼也の竜化のようにこの世界との繋がり、この世界の一部と認識されるようなものが有ると帰還の魔法がうまく発動しないのだ。


「いや、俺そんなもん知らねぇから……大体あの時はそれ以外にあいつを助ける方法なんて無かったぞ」


 チンピラの言葉も荒野に虚しく響く、重い空気を背負いながら3人はゴルディリオンの街に帰って来た。


「お、師匠、戻って来たんですね……ん? なんであんたも一緒なんだ? 誰か分からない美女も居るし……って玲奈腕を絞めるな!」


 さすがに1日も戻ってこないハヤトを心配して、蒼也と玲奈が様子を見に街の入り口まで出て来ていた。 


「まぁ、何と言うか……頑張れ」

「は?」


 多少蒼也が帰れない事に責任を感じているチンピラが、蒼也の肩をたたき一言だけ言って去っていくが蒼也には訳が分からない。


「後で話さねばならぬな……」


 女性も一言だけ残して蒼也の横を通り過ぎていく。


「え? 何なんですか?」


 訳が分からず戸惑う蒼也、そこにハヤトが最後にやって来る。


「お前とは長い付き合いになりそうだな……」


 そう言ってハヤトもソウヤの肩をたたき先に行った2人に続く。訳の分からないまま取り残された蒼也は暫く玲奈に腕を決められ続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ