六章15話 救世の閃光、滅魂の妖光
相田の聖剣には精霊が宿っている。それも、世界を救うと、救世を冠する聖剣の精霊だ。
「行くよ、セリア! 従精霊たち!」
相田に周りに浮かぶ光の粒たちが聖剣の周りに集まり始める。
「イケメンガ! リアジュウバクハツシロ! ソノカオ、グチャグチャニシテヤルヨ!」
相田の準備を魔王は黙って見ていない、言葉の通りに相田の周りに突如爆発が起こる。
「無駄だな。今、相田はここを自分の見せ場だと認識した。なら、あいつの周りがそれに応えない訳が無い」
江ノ塚を担いだ田嶋が戻って来て理屈の分からないことを言う。
けど、田嶋の言う通り、魔王の爆撃は相田を包む飯本の結界によって阻まれる。
「クソガ! アトデカワイガッテヤルカラオトナシクシテイヤガレ!」
なんかあの魔王色々古くないか? すごく切れやすいし……。過去の異世界人らしいけど、元の世界の時代もちょっと古いのか? まぁ、いまはどうでもいいか。
「アイシクルストーム! ブリザード!」
「羽切流奥義……羽々斬! 叢雲! 草薙!」
宇佐美と羽切も行った!? 効くかどうかは置いておいて、術攻撃の宇佐美はともかく、近接攻撃の羽切はダメだろ!
「高深、田中を頼む」
そう言って藤田まで行った! 親友の助けになりたいのは分かるけど、藤田は守っている方が向いているだろ……あ、だから行くのか。相田の決め技までの時間を稼ぐんだな。
「コッチニキチャッテイイノカナァアアア!!」
藤田が田中から離れた途端に魔王から田中に向けて雷撃が飛ぶ。でも、そこにはもう俺が魔剣アンサンブルを手にフォローに入っている。
「良いんだよ、これだけの距離があれば、魔法ぐらい俺にも対処できる」
って、聞いてないか……魔王は能力を使って自分の前に立ちはだかる藤田に夢中だ。本当に節操が無いな。多分相田の事はもう忘れているんじゃないか?
俺の考えを肯定するように相田の準備は着々と進む。
聖剣に集まった精霊たちが自らの纏う光を聖剣に移していく。
「オトコハ、オヨビジャナインダヨォォオオオ!」
「チッ! アルティメットガーディアン!」
おっと、藤田が再使用までにしばらく待ち時間の要る絶対防御を使わされたな……。
「師匠……」
「ああ、分かってる。せっかく用意した武器も使ってやらないといけないしな」
師匠は一言呼びかけただけで俺の望んでいることを理解してくれたようだ。取り回し辛そうな半月型の剣を手に魔王へと向かう。
「よぉ、魔王……ちょっと俺に付き合えよ」
「ダカラオトコハイラネェンダヨオォォオオオ!!」
相田の聖剣が徐々に従精霊から集めた以外の光を纏っていく。あれは、ブレイカーと同じタイプの技か? 周囲から魔力、相田の場合は精霊の力か? とにかく力を集めて撃つって感じなんだけど……。
「藤田の能力の効果が切れるタイミングとドンピシャ、さすが師匠さん」
田嶋、多分偶然だ。師匠はそこまで難しく考えてないと思うぞ。あの人どこか抜けてるしな。
「後は弟子に任せたからな、最初っから全力で行かせてもらう!」
師匠の剣が魔王に振るわれる。その斬撃は相田の聖剣での攻撃のように魔王を弾き飛ばすが斬撃というよりは打撃の様な感じに見える。
「まぁ、こんなもんか……爺さんの研究成果なんだがな、仕方ないどんどん行くぞ! バニッシュメント!」
魔剣とまではいけないけど、元々特殊な効果の有る剣での魔法剣の行使か……それは俺もやった事が無いな。
師匠の剣は微かに光を帯び、その斬撃の当たった魔王の身体を少しだけ削る。普通に斬るよりは効果が有るみたいだけど、あれで倒そうと思ったら何万回斬らないといけないんだ?
「アストラルスラスト!」
剣から斬撃が飛ぶ。その飛んだ斬撃も魔王の身体を僅かに削る。
「アストラルブラスト!」
畳み掛けるように師匠の剣から光線が放たれるが、やはり効果は薄いようだ。
魔王相手だからか、それとも剣の元々持つ効果を逸脱する魔法剣は剣が拒むのか、師匠が使う魔法剣は今の所、剣の効果に沿ったものばかりだな。
そうして師匠と藤田が魔王の相手をしているうちに相田の聖剣はその刀身に光を蓄えていく。その光は既に魔剣アンブレイクがフルに魔力を蓄えた時の輝きを超えている。この状況で相田の方の異変に気が付かないあの魔王って……もしかしなくても馬鹿なのか?
「まぁ、私利私欲で暴れた挙句に封印されるような奴だから、馬鹿なんだろうな……」
「キコエテンダヨォォォォオオ!!」
はいはい、魔王はブチ切れて多様な魔法を俺に向けて放って来るけど、魔剣アンサンブルを持ってある程度距離を取った俺に、威力は有ってもアホの放つ単純な攻撃系の魔法は効かないっての……。
各攻撃を冷静に見極め全て対応した属性で斬り払う。
「救世の光をここに……」
ん? 相田がなんか準備完了したっぽいセリフを言ったな……。
師匠たちに準備が完了したことを知らせる合図を送ろう。
「ハッ! ケッキョクニゲンノカヨ!!」
魔王は師匠たちの後退の意図を理解せずに、師匠たちが退いた事に優越感を得ているようだ。やはり馬鹿だな。
「行け! 相田!」
油断している魔王にそのアホみたいに光ってる聖剣の一撃を叩き込んでやれ。
「冬子は主精霊の準備」
「ええ、玲奈も魔剣の準備は……大丈夫だったわね」
俺の魔剣アンブレイクも魔力をフルに充填した時は眩しい位に輝くけど、相田はそれ以上に輝く刀身の聖剣を振りかぶり魔王に向かって駆けだす。
「ア? ナンダ? メクラマシノツモリカァ?」
俺たちの中に魔王の馬鹿にしたような声を気にする者は居ない。むしろ、馬鹿が何か言っているぐらいにしか感じていない。
「君とは話し合う余地はないみたいだね」
個の魔王、確かに攻撃は効かないし、色々な能力を持っていて脅威なんだけど、その魔王が馬鹿すぎて話にならない。最初は偽物に切り札の魔剣を撃たされそうになったから狡猾なのかと思っていたんだけど……な、蓋を開ければ大技を連発するだけの馬鹿だ。
多分、弱い相手に対して必要の無い策を弄して策士気取っているような奴なんだろう……だから策を対処されると力押ししかできない。
まぁ、魔王はそんなにのんびり構えている場合じゃないんだけどな。
「救世の閃光!」
瞬きすることさえできない一瞬で、相田の持つ聖剣は気が付けば振り下ろされ眩いばかりに放っていた輝きを失っていた。
「今だよ!」
相田はくるりと反転し、魔王に背を向けこちらの方へ駆けて来る。
「ナ! ニゲルナヒキョウモヌガアアアアアアアア!!」
お! 相田の背を攻撃しようとした魔王が吹き飛んで苦しみだした。
相田さすが……魔王に対して明確なダメージを与えたのってこれが初めてじゃないか?
「……来て! クアドラ! ホリン!」
冬子の方も主精霊召喚の為の詠唱は済んでいる。魔王がのたうっている所へ2体の主精霊を召喚して、冬子自身は魔力の枯渇で気絶する。
『ははっ、救世の期に立ち会えるか……』
『などと言っている場合でもない、契約者の望みを果そう、我らの為にもな』
相手がアホなだけに救世って言うほど大げさな場面に感じないんだよな……。
『クアドは足を私は手を……』
『分かった。それじゃ、とっとと終わらせようか』
魔王が痛みで悶えている所へ2体の主精霊が進む。
ある程度近付いた所で2体の主精霊が何かを行った。それで魔王の両腕が強制的に天に延ばされ固定される。
『確かに、私たちが干渉しやすい存在のようだ』
目に見えない鎖でつながれたかのようにそのまま魔王が吊り上げられる。
「ナ!? ナニヲオォ!」
『黙ってなよ』
魔王が間抜けな問いを発し終わる前にジタバタと暴れる両足も膝のあたりで固定されて上に引っ張られる……。
「うわぁ、魔王♂のM字開脚、要らねぇ」
黙ってろ田嶋、魔剣ソウルイーターがこの大地に対して物理的にどこまで被害を出すか分からないんだ、どんな格好であれ宙に吊り上げてくれたのは、気兼ねしないでぶっ放せるって点で有難い。
「玲奈、いいな……」
「大丈夫、いつでも撃てるよ」
他の武器は全てポーチにしまい、玲奈と共に魔剣ソウルイーターを構える。
「マ! マテ! ハナシアオウ!」
何を今更……。拘束を抜け出せないことと、俺たちが魔剣を構え何かしようとしていること、それに先ほどの相田の聖剣によるダメージでやばい状況だと悟ったのか、魔王が戯言をほざく……。
「行くぞ!」
「うん!」
発動の言葉は既に魔剣から俺にも玲奈にも伝わっている。打ち合わせる必要はない……。
「マテヨォ! ヒキョウダゾ! セイセイドウドウタタカエヨォォ!」
見えない拘束をどうにか解こうと暴れながら色々訴えて来ているみたいだけど……お前が言うなって話だ。相田も言っただろう? お前と話し合う余地はないって。
「フザケンナ! オレガサイキョウナンダヨ! ザコハザコラシクヤラレテロオオオオ!!」
聞くに堪えない……いや、俺以外には人の言葉として聞こえていないのか? 周りの反応を見るとそうだよな、何かわめいている程度にしか思ってないみたいだ……。
「ンダヨ! ニゲンナヨ! オラァ! オトコハシネ! オンナハオレノモンダ! オレノヨメニシテヤルッテイッテルンダカラヨロコベヨ! オウ? オレニハカンケイナイネ! グフフフフフフフフフ!」
もう俺たちすら見えていないんじゃないか? うん、終わらせよう……玲奈に合図して魔剣ソウルイーターを振りかぶる。
「「ソウルブレイカー!!」」
魔剣を発動した瞬間、俺と玲奈はその効果を完全に理解した。
ソウルブレイカーは禍々しい濃厚な紫の光線として放たれ、宙に拘束された魔王を貫き覆い尽くす。
「師匠、これで終わりですね……」
にしても、最後に相応しくない見た目の技だな……空を貫く紫光が不気味すぎるぞ……。




