一章10話 魔法剣士
「くそ、変異種か!」
あと少しで魔物の群れを抜けると言う所で俺と師匠の魔法剣を受けても平然としている魔物が現れた。
背後には俺達を追って来る魔物の群れ、前には銀色の全身鎧で黒い刀身の大剣を手にした騎士の魔物、ただし中身は無い。
「リビングアーマーか……」
「動く鎧まんまですね、どうやって剣持ってるんでしょう?」
見えないだけで中身が有るのか? どっちでも良い、そんな事よりこれをどうするかだ。
師匠が担いでいた護衛を降ろす。
「魔法を弾く素材でできた鎧のリビングアーマーか……ソウヤ、護衛たちの守り任せるぞ、できれば他の魔物をこっちに流さないでくれ、俺はあれの相手をする」
「やれるだけやります」
師匠が動く鎧の変異種を相手にすると決めたようだ、俺にやれって言わないって事はそれだけヤバイ相手なんだろう、俺は担いでいた護衛を師匠に倣って降ろし、師匠の降ろした護衛の側に置く。
そういえば俺、良く大人の男一人担いで走りながら戦闘できたな。低くても能力値の恩恵は得ているようだ、元の世界じゃ絶対にこんな事できなかったぞ、俺でこれなら能力値が俺の百倍だった相田は化け物だな。
「ライトニングボルト!」
振り向きざま、無造作に迫り来る魔物に魔法剣を放つ、腰溜めに構えた剣から放たれる雷の剣戟が俺たちが立ち止まった事で直後ろまで迫っていた魔物たちを薙ぎ払う。
そして助けた護衛たちを俺と師匠で挟む様にして立ち魔物に対峙する。
背後で師匠と銀の動く鎧が戦いだした気配を感じながら、俺も気配を感じるなんて考えるようになったんだなと馬鹿なことを一瞬考えて直に気持ちを切り替える、師匠から護衛2人を任されたんだ、それに師匠の方へ魔物も流すなと言われた。銀の動く鎧は師匠でも厳しい相手なんだろう、俺もきっちり魔物をくい止めて師匠の負担を減らさないとな。
「と言う訳で……来るってんならブッ飛ばす、覚悟の有る奴はかかって来い」
魔物にいっても無駄か、奇声を上げ襲いかかって来る魔物を斬り飛ばしながら護衛たちを守るように立ち回る。
極力護衛から離れないようににして向かってきた魔物を剣技で仕留め、師匠の方へ向かおうとする魔物は魔法剣で牽制する、剣に魔力を込めるのが間に合わなければボロ武器を投げる。
大体の対処方法が嵌り余裕ができたので師匠の戦いに少しだけ気を向ける。
銀の鎧は魔法を弾く素材、師匠の魔法剣は弾かれ斬撃だけを動く鎧に伝える、鎧に対して剣による斬撃の物理攻撃は効きが悪い、動く鎧の魔物の事は以前に聞いた、能力の強化部位の無い魔物なので戦闘は推奨されなかった。動く鎧は魔法剣の使えないその頃の俺は逃げるか、打撃武器で鎧をぼこぼこにするしか倒す方法が無かったが、師匠は魔法剣で潰すようにして倒すといっていた、でもその魔法剣が鎧の素材によって無効化されている、師匠は打撃武器って持っていたか?
俺は持っていない、師匠と合流する前に投げていた斧ならボロいし打撃みたいになるかもしれないが魔物の群れの中に置いて来た。
師匠は剣で鎧を斬る心算なのだろうか? 何度も剣撃を重ねている。
対して動く鎧の操る大剣を一度剣で正面から受けた師匠は、次ぎ以降はもうまともに受けず受け流すか避けるかしている、かなり高威力のようだ。しかしどうやって振っているんだ?
師匠の方はまだ時間が掛かりそうだ。
「こっちはこっちで変異種のお出ましってか……」
魔法剣でぶっ飛ばした二足歩行で俺と同じぐらいの身長の白い兎の魔物の群れの中に何度ぶっ飛ばしても戻って来る固体が居る、こいつを変異種と判断したのは、こいつだけ周りの兎と違い腕が6本あって額に鋭い角が有るからだ。魔法無効化の能力など無さそうなのだが、あれは衝撃を受け流しているのか? 毛皮が焦げているので全く効いてない訳ではないようだが何度ぶっ飛ばしても俺に突撃して来、その6本の腕で俺を拘束しようとしてくる。
一度俺が吹っ飛ばした魔物を間違って掴み拘束したところを額の角で一突きに仕留めたので捕まったらヤバイのは確実だ。
「でも効いてない訳じゃないならこのままぶっ飛ばし続けてやる……」
受け流せないと思う魔法剣を選び迎撃を続ける、どういう理屈か分からないけどそれでも受け流す変異種の兎、毛皮はどんどんボロボロになっていくが変異種の兎自身にはダメージが無い。
「ッチ……」
その内ダメージが通ると思っていたけど、そうもいかない様だ。
変異種の兎はどういう技術なのか分からないが俺の魔法剣を受け流している、なら今まで広範囲に放っていた魔法剣を受け流せない規模で変異種の兎にのみ狙いをつけて撃てばいけるかもしれない。
「それか連続で魔法剣を使うかだな……」
俺はこっそり用意していた槍を5本地面に突き立てた。
この槍には既に魔法剣を使う魔力が込めてある、もちろんボロ槍で無くマシな槍だ、おそらく一度の魔法剣の行使で壊れるが、戦闘を続けながら奥の手として用意していた物だ。魔法剣は一度放つと次を放つのに武器に魔力を込め直す必要が有って連発に向かない。しかし俺は複数武器が用意できるなら予め魔力を込めておけば連続で使用する事も可能ではないかと考えた。
「光栄に思え、それを全部てめぇにぶつける!」
愛用の剣での魔法剣を広範囲に放ち変異種の兎諸共周囲の兎も吹き飛ばす。
愛用の剣に魔力を込め直しながら1本目の槍に手をかける。
「1本目ぇ! アイシクルスティンガー!」
どうせこの魔法剣で壊れる槍だ、突くのではなく投げる、槍は氷柱と共に変異種の兎に迫るがおそらく避けられるか受け流される、だから次弾となる槍を手に取る。
「2本目! ライトニングスティンガー!」
避けられないように出の早い魔法剣を選ぶ、雷閃は変異種の兎が回避行動をとり移動するであろう地点に向けて突き進みその後を追って投げた槍が砕けながら進む。
結果は見ずに避けられる事を前提に次々と槍を投げる。
「3・4本目! トルネードスティンガー!」
渦巻く風の突撃が2本、そしてどれも駄目だった時にせめて体勢を崩している事に望みを託した広範囲魔法剣。
「ラスト! スティンガーレイン!」
最後の槍は上空に投げる当然魔法剣の反動で槍は砕けるけどその砕けた辺りから魔力による突きの雨が降り注ぐ……
これでどうだ。
始めの氷柱は受け流された。
次の雷閃は避けられる、だが光速の雷突を無理に避けたのか次の竜巻の1本が変異種の兎を貫いた。
そこにダメ押しとばかりに魔力の突きが降り注ぐ……
「よし、何とかしのげた……」
大量に倒れる兎の魔物、その中に腹に穴を空けた3匹の魔物……
「あれ? 変異種の兎は……」
居ない!? どうしてだ! 変異種の兎は確かにトルネードスティンガーが貫いた筈だ。
だけど実際に俺の前に倒れている魔物は2本腕の兎ばかり、変わった事といえば俺の見た変異種の兎と同じように腹を貫かれた普通の兎が3匹……まさか!
俺が見た変異種の魔物は3匹の普通の奴が重なって腕が6本有る変異種に見えただけ……なら変異種はどこに!?
「GA!」
いつの間に目の前に! ヤバイ!
変異種の兎の2本の腕が俺の腕を掴む他の2本が腰を、残りの2本が足を掴み持ち上げる、拘束された上に持ち上げられた! 直近くに鋭い角が有る、ピンチだがこの状況なら確実に攻撃を当てられる!
「ピアッシングエッジ!」
再度魔力を込め終えた愛用の剣を突きの魔法剣と共に変異種の兎に突き立てる。
「GA!」
「ぐふ!」
俺の魔法剣と剣は変異種の魔物を貫きその命を刈り取るが、同時に俺の腹にも変異種の兎の角が突き刺さっていた。
崩れる変異種の兎、倒れた事によって体に刺さった角が抜け、俺は放り出されることになった。
腹が熱い、そして痛みが無いって、これヤバイよな……
でも、痛みが無いならまだ戦える!
立ち上がって剣を構え護衛たちの前に戻る、自身の血が服を濡らし気持ち悪いと感じる……のか? いや、そんな感覚すら感じない、とにかく不味いけど魔物はまだ襲ってくる。
「クッ……」
駄目だ声出すだけで何か口の中に血がこみ上げてくる、黙って迎撃を続けよう。
斬り、薙ぎ、切り上げ、突く、魔法剣は使う余裕が無い。とにかく痛みが無いことをいいことに無理矢理動き続けるがそんな無茶がいつまでも続く訳がなかった。
痛みは無くとも血は流れ続け俺の体は徐々に動きが悪くなる。
だめだ、思ったように身体が動かなくなってきた。魔物はどんどん襲ってくるのに……
「ソウヤ!!」
いや、まだいける、いける、まだ大丈夫だ……自分に言い聞かせる、こんな所で倒れていられない、まだこの国だって出ていないんだ、これじゃシルバーブルの城を抜け出した意味が無い、クラスの奴らが帰り方を見つけられなかった時の為に俺は俺で元の世界に戻る方法を探しすんだ、力が足りないのは分かっている、それだってここまでやれるぐらいに鍛えて来たんだ、まだまだ強くなって先に進まないといけない、俺自身こんなとこで終わる事を望んでいない、だから動け、まだ戦える、動け、ここで倒れるなんて嫌だ、だから動け、俺は元の世界に帰る、動け!
「ま、だだ……ストーム……ブレイドぉぉ!」
どうやったか分からない、でも一瞬で剣に魔力を込め最大範囲で嵐の魔法剣を発動させる。
眼前に残る魔物は次々と嵐に飲み込まれ吹き飛ばされ倒れていく、剣から吹き荒れる嵐に俺は身体を支えていられなくなりそのまま後ろに倒れる、それで嵐も止み数瞬の凪の中吹き飛んだ魔物たちが地に落ち倒れるのが目に入る、でも、当然魔物の全てを今の魔法剣で倒せたわけではない、まだ立ち上がらないといけないと思いながら俺の身体は動かない、まだ、やらないと、終わりたくない、俺は……