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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
序章 異世界召喚 無能の勇者
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序章 異世界召喚

 異世界召喚というものを知っているだろうか? ネットの小説なんかでは良く扱われているジャンルらしい、俺のような普通の学生が異世界に召喚されて、召喚されたその際に手に入れた特殊能力を駆使して世界を救うといったものが王道のようで、例外もあるようだが、そこにハーレムとか成り上がりとか色々なオプションがついてくる。


「勇者様、どうか我が国をお救い下さい!」


 俺は今日、初めてそれを体験した。ただし、1クラスまるごと召喚された中の1人としてだ。

 目の前の金髪ストレートロングがいかにもな姫さんは、このクラスで最も容姿の優れた男子生徒、相田(アイダ)宗佑(ソウスケ)をじっと見詰めながら瞳を潤ませる。


「あざとい……」


 おっと、思わず本音が漏れるが誰にも聞かれていなかっただろうか? そのあきらかに計算しつくされた動きに言わずには居られなかった。俺以外にも同じように思った者は数人居たみたいだが、当の相田は全く気付いていない。


「分かりました! 俺が力になれるならがんばります!」

「ありがとうございます。それでは詳しい話を別の場所でいたしますので私について来て下さい」


 待てこら、相田(アホ)の返事をクラス全員の答えみたいに話を進めるな、あと相田も簡単に引き受けるな、国を救ってくれって言うのは戦えって意味だと思うぞ、殺し合いをしろってことだ。他の奴らもまだ冷静に思考できてない状態で歩き出した姫?さんや相田について行く。中にはなんだか嬉しそうにしている奴も居るけど、もう少し冷静になれ。

 俺1人ここに残る訳にもいかず、最後尾をついて行くとずっと壁際で見張りをしていた剣と鎧で武装したおっさん共が俺の後ろについて来た。逃がす気も無いってか……。


「お父様、勇者様をお連れしました」


 案内されたのは謁見の間って感じの部屋だ、部屋の奥の中央に置かれた装飾華美な玉座に座る豚、姫?さんの父親ってことはこの国の王なんだろうな。

 うわぁ、体が玉座からはみ出してる、国の王がこんなんでいいのか?


「よく来た勇者たちよ、私がこの国、シルバーブル王国の王 オルシア・シュバイン・シルバーブルだ、そして隣にいるのがこの国の第一王女」

「リーシア・エスクロ・シルバーブルと申します。改めて、よろしくお願いいたします勇者様」

「あ、はい、俺は相田宗佑、ソウスケが名前です。俺たちに出来ることなら頑張らせて貰います!」


 皆を代表している心算なのか、相田が名乗りそれを聞いて豚が機嫌良く話を進める。


「今我が国は現在北の地を支配する魔王の侵略を受けておる、本来なら周辺国から協力を要請し事に当たらねばならんのだが、周辺国は協力の要請を断り、あろう事か我が国に侵略を開始した。これまで何とか魔王軍の侵攻は阻止して来たのだが、北へ兵力を集めるあまり他の周辺国に領土を削られ、今では元の3分の2にまでなってしまった。これ以上領土を削られれば魔王軍との戦いにも支障を来たす、このままでは我らは遠からず滅びる事になるだろう、だから最後の手段として勇者召喚を行ったのだ」


 は? 協力を断られたって、この国が攻め滅ぼされたら次は自分達だって考えは無いのか? それともそんなの関係ないくらいにこの国が嫌われているのか?


「そんな! 酷い! 分かりました、俺たちがこの国を救って見せます!」


 オイ相田、安受けあいするな、こんな相手を簡単に信じるな、こいつらは誘拐犯だぞ。

 ああ、相田以外のクラスメイトも半数近くが信じてるな、他は現状が理解できていない奴、怯えて今にも泣きそうになっている奴、何かに期待してニヤニヤしている奴、リーダー気取っている相田に恨みや嫉妬の篭った鋭い視線を向ける奴、後何人か冷静に周囲の人や物を観察している奴ってとことか?

 相田の影響もあってか、クラスの半数以上が乗り気みたいでこの国を救うと言う流れになっているみたいだ。くそが、イケメンは死ね。まあ乗り気な連中は全員、放って置けば遠からず死ぬだろう。


「相田たちは乗り気なようだけど、俺には関係ない、さっさと帰して貰おうか」


 お、田嶋(タジマ)颯太(ソウタ)がいい事言った。こういった状況でちゃんと周りが見えてる奴が居るのは有り難い。普段から物静かな奴だからここで発言するとは思ってなかったけど嬉しい誤算だ。

 田嶋の意見に賛成のクラスメイトも田嶋によく言ったと称賛の視線を向けている。


「申し訳ありません、我が国に伝わっているのは召喚の方法だけで、帰還の術は伝わっていないのです」


 今豚姫無音で舌打ちしなかったか? 申し訳無さそうにしているのも演技っぽいな。

 巫山戯るなとか帰してよとか騒ぎ出した一部を相田が宥めようと声を張り上げる。


「皆落ち着くんだ! 帰る方法が無い以上ここで上手くやっていくしかないじゃないか、そうだ! この国を救う為の班と元の世界に帰る方法を探す班とで分かれて行動しよう、戦いたくない者は戦わなくていいってことで!」


 また勝手に決めて話を進めようとする、内心溜息を付いていると豚姫の返しに早々に諦めたのか田嶋が俺の方へやってくる。


「はぁ、なんかラノベみたいな事になったな」

「おつかれ田嶋、誰かが言ってくれないかと思ってたんだよ」

「そう思ってるならお前が言えよ、このままじゃ誰も言いそうに無かったから言ったが、テンプレで返された。本当に帰す方法が無いのか、帰す気が無いのか、後者っぽいんだけどな……」


 俺が田嶋を労っている内に相田がクラスメイトたちを丸め込んでしまった。

 あいつのカリスマは何だ? 何か不思議な力でも働いてるのか?


「テンプレ? なのか?」

「お前はネット小説とかラノベって読まないタイプか、そうだなこういう場合大抵帰る方法は無いか隠されてるかだな、他には魔王が術を妨害しているから倒さないと帰れないとか言われる場合もある。まぁ大概は嘘だけどな。お、そろそろ次の展開だな……」


 俺と田嶋はお互いにしか聞こえないぐらいの声量で話す、田嶋は俺よりこういった展開の話を良く知っているみたいだな。


「で? 次はどうなるんだ?」

「召喚された者は特殊な力を宿しているとか、各能力が高いとかで俺たちの能力を調べるとかそんなところだろ? 多分、あ、ほら何かそれっぽい道具持って来た」


 確かに田嶋の言う通り台の上乗ったサッカーボールくらいの水晶玉が用意されていた。中に色んな光が渦巻いていてただの水晶玉ではないことは分かるが、これで何が分かるのかねぇ?


「多分相田は凄い事になってるだろうな……テンプレ的に」


 うわぁ本当だ、相田が豚姫に促されて水晶に触れた瞬間、眩い光が部屋中を満たした。10秒ほど経って光が治まると騒然とする兵士たち、上機嫌の豚王と豚姫、目の前の何もない空間を見て目を瞬かせる相田という状態になっていた。


「ソウスケ様の目には自身の能力が見えている筈です。それを読み上げていただけますか」

「え、はい……」


相田(アイダ) 宗佑(ソウスケ)(16)♂

 称号……異界の勇者

 特殊能力……聖剣の加護

LV 1

AT 500

DF 400

MA 500

MD 400

AG 500

TE 500


 名前・称号・特殊能力

 レベル・攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔法防御・素早さ・器用さって所か


「全部百台だけどあれは高いのか?」

「多分破格だろうな、普通のRPGでLV1でステータス500とか有り得ないだろ? それに周りの反応もまさに驚愕って感じだ、聖剣の加護なんて名前からしていかにも勇者な能力だろ」


 確かに、他のクラスメイトも次々と水晶に触れ能力を確かめていくが相田ほど高い能力の者は居ない、称号も異界の剣士や異界の~術士みたいな者ばかりで勇者と付く者は今のところ相田以外に出ていない。


「気乗りしないが、俺たちも行こう、帰れない現状じゃ身を守る術ぐらい知っておいた方がいい」


 田嶋に促され俺も水晶に触れる。


「は?」


 相田とは違う意味で驚いた。水晶に触れても殆ど光を発しない、これヤバイよな……


高深(タカミ) 蒼也(ソウヤ)(16)♂

 称号……異世界人

 特殊能力……無し

LV 1

AT 5

DF 4

MA 4

MD 4

AG 5

TE 4


 THE村人ってか? ステータス相田の100分の1しかないぞ、称号が異世界人で異界の~ってのに合わせるなら異界の人だ、唯の人じゃないか! 特殊能力に至っては無し!? 俺に死ねって言うのか!

 やばい、誤魔化そうにも今までの傾向から光の強さが能力の高さみたいだから皆俺の能力がカスなのに気付いてるっぽい。


「どうした高深~早く能力を報告しろよ~」


 チッ、クズの吉本(ヨシモト)が分かっていて煽って来やがる、それに続くように白山(シロヤマ)寺坂(テラサカ)が次々と俺をなじって来る。

 誤魔化せない状況で仕方なく真実を告げると違う意味で場は騒然となった。俺の能力値が想像よりも低すぎたのだ、吉本たちですらからかった事が気まずくなったようで、今では哀れみの視線を向けて来る。


「チッ、役立たずが……」


 おい! 聞こえてんぞ豚姫!


「た、高深君、帰還方法を探す組で頑張ってよ」


 相田が何とかフォローしようとしてくれているが豚王や豚姫は俺への興味を完全になくしているようだ、それ自体は構わないんだが……クラスメイトの哀れみの視線が物凄く居づらい。


「これは、逃げた方がいいかもな」

「田嶋?」

「ああ、今のお前はあの豚共に利用価値無しって判断されてるから多分冷遇されるぞ、それなら自力で生きて力を付けるほうがマシかもしれない、城から逃げるなら協力するぞ俺の力は隠密行動には役に立ちそうだからな」

「まあ考えとく……」


 正直ここには居づらいから田嶋の申し出は有り難い、哀れみの視線に晒されて続けながら冷遇されるなら逃げてもいいかな、本気で考えておこう。


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