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ソール・マーニ・サーガ  作者: 鹿ノ子
第一章 闇と月
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突然の決定

ガキィィィィィィィン


 アルヴィトの黒い爪とスクルドの硬いグローブが火花を散らしてぶつかり合う。そして直ぐ様互いに離れ、再び相手へ新たな攻撃を仕掛ける。

 スクルドが拳を構え、アルヴィトに向かって行く。アルヴィトは中々の破壊力を持った拳を受け止めようと爪を構えた時だった。スクルドの姿が突然視界から消える。

 スクルドはアルヴィトの背後に回り込んでいた。すかさず、スクルドはアルヴィトの背中を狙って拳を繰り出す。

 しかしスクルドが狙った場所にアルヴィトの姿はなかった。


「!!」


 アルヴィトは宙を切ったスクルドの右手のすぐ横にいた。そしてスクルドの右腕を取る。

 まずい、と頭の中に過った瞬間、スクルドは床に叩きつけられた。アルヴィトはスクルドの右腕をそのまま捻り上げ、体重をかける様に背中に押し付ける。


「止め!!この試合、アルヴィトの勝ちだ」


 シグルドの声にアルヴィトは押さえつけているスクルドの背中から離れた。


「アルヴィト!もう一度勝負よっ!」

「ええ!?もう三回目ですよ?」

「二回も負けて黙っていられないでしょ!次は絶対に負けないわよっ!」

「スクルド、ただがむしゃらに攻撃をしたって勝てる訳ではないぞ」

「ウルド姉……」

「ウルドの言う通りだ。スクルド、お前は攻撃を乱発し過ぎる。それに動作が読みやすい。それでは折角の瞬発力と破壊力が生かされないぞ」


 姉のウルド、そしてシグルドの的確な言葉にスクルドは言い返す事が出来なかった。むぐぐ、唸っておとなしくなる。


「それに対してアルヴィト、お前は慎重過ぎる節がある。相手の隙を狙うのは良いがそれでは(らち)があかん。スクルド程とは言わないが、もっと積極的に攻撃を仕掛けろ」

「はい……」


 スクルドだけでなく、アルヴィトまでもしゅんとおとなしくなってしまった。

 シグルドの指摘が自分でも薄々感じていた事だけに、はっきりと言われて意気消沈してしまう。

 しゅんとしている二人を眺めながら、ヒルドが何気なくつぶやく。


「スクルドの悪い所とアルヴィトの悪い所を足したら丁度バランスが良いんだけどなー」

「……確かにヒルドの言う通りだ。スクルドにアルヴィト、お前達は今日からペアを組んで魔物の討伐に出ろ」

「「ええ!?」」


 二人の声が大きく響く。


「そ、そんな……あたしは一人でも今までちゃんと戦えてる!アルヴィトとペアなんて組まなくても充分戦える」

「だが危うい所でアルヴィトに助けられたのは事実だろう。スクルド、自身の力を過信しているといつか死ぬ事になるぞ。生き残りたいならアルヴィトと共に戦え」


 有無を言わさぬシグルドの言葉にスクルドはただ黙って俯いた。訓練場の中に重い空気が広がる。

 今まで一人で戦ってきた実績が全て否定された様なものなのだ。その事実を素直に受け入れられないのは当然の事だろう。


「……なあ、これって俺のせいだよな……」

「そうっすね」

「ええ、少なくともヒルドの一言がきっかけになったわよ」


 重くなってしまった空気にヒルドがこそこそとフリストとエイルに聞くが、余計に傷口へ塩を塗っただけだった。


「…………やっぱりもう一回勝負よ!アルヴィト!」

「え!?あの……」


 落ち込んでいると思われていたスクルドは伏せていた顔を上げ、戸惑うアルヴィトの手を引いて部屋の端の方へ無理矢理連れて行く。

 どうやら周りが考える程、本人は深く気にしてはいないようだ。

 空いている場所で勝手に勝負を始めるスクルド達を見て、シグルドはやれやれと言った様子で息をついた。


「次はフリストとエイルだ」

「フリスト、私が久しぶりに戦うからって手加減しなくて良いわよ」

「うっす!練習用の魔物を倒し尽くした人相手に中途半端に戦えないっすから」


 フリストとエイルの二人がそれぞれの位置に着き、シグルドの合図で試合が始まった。

 最初に動いたのはエイルだった。その姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはフリストの目の前に現れ、蹴りを繰り出す。フリストは槍の柄でその蹴りを防ぎ、真横へ一薙(ひとな)ぎさせる。

 エイルは大きく弧を描いて飛び退き、槍の攻撃を避けた。

 負傷する前と何ら変わりないエイルの戦い振りにヒルドの顔が引き吊る。


「あれのどこが病み上がりなの?俺、絶対エイルと戦いたくない……」

「ならば久しぶりに私と手合わせしてみるか?模擬試合を見ていたら体がうずうずしてきてな」

「……いえ、遠慮しておきます」


 腰に下げた二本の剣をカチャリと言わせ微笑むウルドに、ヒルドは震え上がった。

 すると三人の前をフリストが飛んでいく。エイルに蹴り飛ばされたフリストは槍を床に立てて勢いを抑え、態勢を持ち直そうとするが抑えきれずに訓練場のドアに背中を打ち付けようとしていた。

 所がその時、ドアを開けて誰かが訓練場へ入って来ていた。勿論、フリストはその人物とぶつかってしまう。


「うわっ!すんません、大丈夫ですか?」

「ああ、こちらこそ突然入ってしまいすまない。ウルド司令官はおられるか?」


 フリストとぶつかった人物は落ちた眼鏡をかけ直し、辺りを見渡した。そしてウルドの姿を見つけると駆け寄り、後ろに手をやって背筋を伸ばす。


「司令官、そろそろ執務にお戻り下さい。ご報告したい案件があります」

「ラーズか。わかった、直ぐに戻る。皆、邪魔したな」


 そう言ってウルドは訓練場を後にし、それに続いてウルドの部下である眼鏡をかけた黒髪の男……ラーズも訓練場を出ていった。


「……気を取り直して再開するぞ」


 シグルドの声にフリストとエイルの二人は再び戦い始めたのだった。






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