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ソール・マーニ・サーガ  作者: 鹿ノ子
第一章 闇と月
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迫り来る影

 スクルドは鎌の様な脚をした魔物へ渾身の一撃を繰り出す。


ガッッッ


 しかし頑丈な殻を身に付けた魔物には傷一つ付いていない。

 今度はアルヴィトが黒い爪で魔物を切りつけるが、それも効いていないようだった。

 魔物はスクルドに向かって鎌を降り下ろす。

スクルドは鎌を避け、魔物の後ろに回り込んだ。そして後ろ足を掴み、背負い投げる。

 

「アルヴィト!」


 投げられた魔物は背中を地面に叩きつけた。その瞬間を見計らってアルヴィトが黒い爪で露になった魔物の腹を切り裂いた。

 唯一硬い殻に覆われてない腹部は今までとは比べ物にならないくらいに簡単に切り裂くことが出来た。

 裂かれた腹から血が吹き出し、魔物はたちまち絶命した。

 だが息をつく間もなく、新たな敵が現れた。

 それは絶命した魔物の切り裂いた腹から現れる。小さな無数の幼虫が一気に溢れ出てくる。

 それは死んだ魔物の子供の様だ。次々と腹から小さな幼虫がわらわらと出てくる様はなんとも気持ちが悪い。


「げっ……」


 この小さな幼虫を全てを潰すのは根気がいりそうだ。

 スクルドとアルヴィトは幼虫達を逃がすまいと潰していくが、それでも幼虫は数が減らない。


「スクルド、アルヴィト!そこから離れろ!」


 その声に二人は即座にその場から飛び退いた。


ドンッッッ!!


 途端、幼虫が溢れる場所が爆発した。

 爆発が収まると、そこにあった魔物の死骸と大量の幼虫達は跡形も無くなっていた。


「ヒルドさん!助かりました。ありがとうございます」

「いいっていいって。それより二人とも、何だかんだ言ってそれなりに息が合ってきたじゃないか。最初はどうなることか心配だったけど」


 スクルドとアルヴィトの元にビルドが降り立った。二人の戦いぶりを見ていたのか、ヒルドは感心したように言う。

 空にはいつの間にか半月よりも膨らみの残った月が昇っていた。

 暫くしてフリストとエイルの二人も三人の元へ集まって来た。


「お、今日も二人とも血まみれじゃないな!」

「スクルドとアルヴィト、二人で組むようになってから血まみれになる回数が減ってきたよな。意外に良いコンビじゃないか?」

「怪我もあまりしなくなったし、安心したわ」


 スクルドとアルヴィトの二人で組むようになってから数日。一人で戦っていたときよりも、格段に魔物の討伐数は格段に増えた。

 最初の頃は互いに慣れない戦い方に要領を得なかったが、互いの動きを把握出来るようになってきた。

 なりよりスクルドがアルヴィトに対して対抗心を少しずつ和らげてきたことが大きいだろう。

 最初の頃と比べ、スクルドはアルヴィトに頼るようになった。それはひとえにアルヴィトの事を信用してきているからだと言えるだろう。


 ヒルド達に誉められる中で、アルヴィトは照れたようにスクルドを振り返る。

 するとスクルドが何故かニヴルヘイムとは逆の方向に顔を向けているのに気付いた。眉間を僅かに寄せ、その顔にはいぶかしむ様な表情が浮かんでいる。


「スクルドさん?どうしたんですか?」

「……何か音がする」


 アルヴィトは不思議に思い、スクルドが見つめる方角に目を凝らす。

 

 ニヴルヘイムの周りで焚かれる松明の明かりが届かず、月明かりだけが照らす遥か彼方。

 耳を澄ますと微かに規則的な音が聞こえてくるのが分かった。


…………しん…………どしん…………


 まるで地を揺らす様な音に二人は違和感を覚える。

 そんな二人の様子にヒルド、フリスト、エイルが気付く。


「どうした、二人とも……」


 暗がりの中にじっと視線を凝らす二人にヒルド達も静かに視線を向ける。


…………どしん……どしん……どしん


 次第に音は大きくなってくる。音が鳴る度にそれに合わせて地面が揺れる。

 それはまるでこちらに近付いているみたいだ。

 月明かりで暗闇よりは明るい地上。今自分達がいる場所から遠く離れた先に何か黒い影が動いているのが見えてくる。

 黒い影はこちらに近づいて行くにつれ大きくなっていく。

 規則的に聞こえる音はもはや地響きに近い。地面ごと揺らす轟きは体の奥まで震えさせる。


「なっ……なんだありゃ……」


 ついに辺りで焚かれた松明の明かりが届く位置にまでその黒い影が近づいた。

 その正体にフリストが思わず声を漏らした。スクルド達もその存在に言葉を無くして唖然と見上げる。

 

 現れたのは空に浮かぶ月に届きそうな程、巨大な岩だった。


 岩は人に似た形をしており、頭部には人の目に当たる部分が黄緑色に光っている。まるで岩を削り取って作った巨人のようだ。

 その岩の巨人の肩に三つの人の姿が見える。その者達は一様に外套を着ており、深く被ったフードで顔がよく見えない。

 

「皆!奴らをニヴルヘイムに近付けさせるな!」


 一向に歩みを止めようとしない岩の巨人にヒルドがハッと我に返り、レギンレイヴだけでなく、辺りで自分達と同じ様に唖然として固まっているエインエヤル達にも聞こえるように指示を飛ばす。

 その声で我に返ったエインエヤル達は武器を手に岩の巨人の元へ駆けつけていく。

 レギンレイヴ達も岩の巨人へと向かって行き、スクルドもグローブを硬質化させ向かおうとするが、ただ一人、ヒルドの声が聞こえていなかったのか、アルヴィトだけが岩の巨人を見つめたままその場に立ち尽くしていた。


「アルヴィト!何してるの!?あたし達も行くよ!」

「っ!……はい」


 スクルドに肩を引かれ、アルヴィトはやっと我に返る。動揺した表情していたが、それは直ぐに引き締められた。

 スクルドとアルヴィトは一歩遅れて岩の巨人へと向かった。





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