Last
バンッ
大きな音を立てて屋上の扉が開く。
病人姿のままの少年は刺すような痛みも気にせずただ、何かを探す。
「どこだ、どこにある……」
探すのは、少女の契約の跡。
タンクの上に上り、そっと見渡す。
そして……
「あった―――!!」
タンクを飛び下り、そこに駆け寄る。
そこにあるのは白銀の跡。
少女が契約したのと同じ真っ白な雪の日。
少年は言葉を発した。
「ぼくの生命力の半分を、彼女―――宇賀谷雪羽に!!」
その瞬間、あたりは光に包まれた――――
❅ ❅ ❅ ❅ ❅
ふわふわと漂っていた。
死神様に刈り取られた私の魂はまだ不安定で、浮いたままなのだ。
(んー、なんか気持ちいいなー)
ふわふわ。
ふわふわ。
(ごめんねぇ、那湖)
視線の先にはベッドに突っ伏す那湖の姿。
那湖にも手紙を書いた。
だって、親友だから。真実を知ってほしかった。
「雪羽、雪羽!!」
押し殺した声が胸に刺さる。
(ごめんねぇ、泣かないで)
そんなこと、泣かせてる原因の私に言えることではないのかもしれないし、声は届かないのだけれど。
先輩を見に行く勇気はなかった。
だって、悲しんでなかったら、きっと恨んじゃうもの。
ふふっと魂のまま微笑んだら、急にあたりが光った。
(え!?)
なにか思う間もなくどこかに吸い寄せられる。
まぶしさに目をつぶる。
「雪羽ちゃん」
温かさと、愛しい声が、私を包んだ。
「え―――――?」
私を抱きしめているのは、たった一人の愛しい人。
「せ、せん、ぱい?」
「よかった……」
ぎゅうっと抱きしめる力が強くなる。
「どうして…」
「どうしてじゃないよ。僕だって、君が好きだ」
「え?だって、好きな人がいるって―――「それが、君だよ」」
言葉をさえぎられる。
「ほぼ不可能に近い手術だから、諦めようと思ってた。
幸せにできないなら、その手を取るべきじゃないと思ってた。
なのに、君は、僕の決心を見事に壊したね」
「ご、ごめんなさい……」
「責めてるわけじゃない。だけどね、怒ってはいるんだ。」
「え…?」
「どうして、自分の命を犠牲にしたんだ?
僕は、君の命を使ってまで生きたくなかったよ。
君の世界が僕を中心としているのなら、僕の世界だって君が中心だった。
僕だって、君がいなければ壊れてしまう!!」
何も言えなかった。
夢のようで、実感がわかない。
「君を取り戻す方法を、レイは残してくれた」
「死神様が……?」
「うん。レイが雪羽ちゃんから渡された生命力を半分に分けて戻せばいいって教えてくれた」
「そ、そんなことしたら!!」
「そうだね、寿命は短くなるね。でも、君のいない世界で長く生きるなんて耐えられないよ。
例え、短くても、となりにいて」
「……はい!!」
雪が二人を祝福するようにそっと振り続ける。
雪の下で、二人はそっと口づけを交わした。
真っ白な雪の日、少女は願った。
真っ白な雪の日、少女は消えた。
真っ白な雪の日、少年は願った。
真っ白な雪の日、少年と少女は再会した。
そして、それから先。
二人は仲良く幸せに暮らしましたとさ。
もちろん、少女の親友も……ね?
これは、雪の日の願い。
死神が叶えた恋の奇跡。
雪の日に、願い叶った、奇跡のお話――――――
読了ありがとうございました。