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雪の日の願い  作者: 悠
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Second

死神様と出会ってから1か月。


ものすごいスピードで意気投合し始めた喜名先輩と死神様は先輩後輩の垣根など突破して名前で呼び合うようになっていた。そもそも死神様に名字はないけれど。

そして、大抵私の傍にいるレイに話しかけるついでな感じで、私も喜名先輩と話すことが多くなった。

辛くてまだ顔は見れないけど、あと2か月しか会えないのだ。

声だけでも耳に残して起きたい。


「雪羽」


1か月で聞きなれた声が私を呼ぶ。


「ねえ、死神様。先輩とは仲良くなれた?」

「ああ。お前の決心がついたらいつでも願いをかなえられる。

だが、一つ疑問があるのだが」

「なぁに?」

「日向は、お前を好いているぞ。お前は日向が自分を好いていないと言ったが」


あまりに悲しげな顔をしていたのだろうか。

死神様が慰めるほど。


「ふふ、ありがと。でも、そんなことはありえないの」


だって、先輩には好きな人がいるもの。


「ね、死神様」

「なんだ」

「私、先輩の代わりになれるんだよね?」

「ああ」

「だったら、私の命はあと2か月?」

「ああ」

「そっかー……ねえ、死神様。

私ね、喜名先輩大好きなんだ」

「知っている。己の命を懸けるほどだからな」

「だからね、喜名先輩の優しさも知ってるの」

「そうか」

「なのにね、私思っちゃうの。

手紙を残せば、あの人の心から私が消えることはないよねって。

あの人が傷つくの、わかってるのに」

「……」

「醜いなあ。でも、それでも覚えておいてほしいなぁ」

「そうか」




❅ ❅ ❅ ❅ ❅




それから、数日後。


死神様と出会った日と同じ雪の日。


喜名先輩は、学校で倒れた。


先輩の手術が早まったのがわかった。


先輩の手術は2週間後。私の寿命も2週間後。


だったら、後悔したくないなぁ。


そっと携帯を取り出す。


掛けて数コールで相手が出た。


『もしもしー?』

「ね、那湖。お願いがあるの」

『…珍しいね、雪羽がお願いなんて。でも、何となくわかっちゃった』

「きっと、那湖が考えているのと同じこと」

『だろうね。むかつくわ。雪羽を振ったのに、こんなに思われてるあの男が』

「…想うのは勝手だから」

『……けなげな雪羽に免じて教えてあげる。総合病院の201号室よ』

「ありがとう」

『どういたしましてなんて言ってあげない』


そういって電話は切られる。


大切な親友は優しいからきっと私が消えたら悲しむだろう。

あの人も優しいから告白して振った女でも消えたら悲しんでくれるだろう。


それを知っていて、私は自己満足の為に死神様に願いをかなえてもらう。


「死神様、お願い」


残り2週間でようやく決心がついたの。

ようやく、顔を見れるの。


「私の魂を連れて行って。あの人の顔を見た後に―――」




❅ ❅ ❅ ❅ ❅





コンコン


無機質な扉をたたく。


「どうぞー」


先輩の声が聞こえる。


「あの……こんにちは」


そっと顔を出せば、久しぶりに見た先輩は驚いた顔をしていた。


「雪羽ちゃん……久しぶりだね、僕の顔を見てくれたの」

「はい…」

「あ、責めてるわけじゃないんだよ!?」

「はい」


相変わらず、とても優しい。


「それにしても、どうやってここを?

倒れたことはきっとみんな知っちゃったと思うけど…」

「那湖に聞きました。きっと、桐生先輩経由で」

「そっか…」


沈黙が落ちる。

もしかしたら気持ち悪がられたかもしれない。

でも、これが最後だから。


「あの、先輩」

「なあに?」

「先輩、私、喜名先輩のこと、諦められませんでした」

「……」


先輩の動きが止まった。


「あの日、私は先輩に振られたけど、あれからもずっと好きでした」

「…そっか、ありがとう」

「だから、これから悲しまないでください」

「え?」

「私、とてもずるくてひどいんです。どうやっても先輩の心のどこかに居たい。

だから、私はこれから先輩にひどいことをします。

でも、先輩が好きな私は同時に先輩に傷ついてほしくないんです。

だから、どうかお願いします。悲しまないでください」

「……雪羽ちゃん?」

「大好きでした、心から。私の世界からあなたが消えるのが耐えられないほどに」


「雪羽、時間だ」


「レイ?来てたの?」

「ああ。日向、俺はお前が気に入っていたぞ」

「はい?」


わけがわからないと言う顔をしている。

『俺』って、死神様ってばどんだけなじんだの。

最初は『我』だったのに……


そんなことを想いながらちょっと微笑む。


「死神様、あと、あと一言だけ」

「許可しよう」

「……死神様?」

「わけのわからないことを言ってごめんなさい、さようなら」


私の体を光がつつむ。


ふと頬に何かが伝ったことに気付く。


「だめだなぁ、最期は笑顔って決めたのに」


泣き虫な自分に少し笑ってしまう。


「雪羽ちゃん?」

「先輩、先輩に渡す手紙は那湖が持ってます。

どうか、受け取って下さい。那湖も、きっと今気づいたころだから」

「え?」


「ありがとう、レイグリード」


最後まで何も説明しないままだったけど、手紙を書けた。

一言と言ったのにそれ以上に言葉を告げられた。


「気にするな……日向、俺からもお前に手紙だ」

「レイ?どういうこと?」

「さよならってことだ。俺も、雪羽も」

「え?」


「先輩、どうか幸せになって下さいね――――――」


そうして、一人の少女と一人の死神はその場から消えた。

残されたのは病気だった少年。

彼は、呆然としたまま、二人が消えた場所を見つめた。


ばたばたとうるさい音が聞こえる。


「雪羽!!!」


一人の少女が飛び込んできた。

手にはぐしゃぐしゃの紙を握りしめて。


「喜名先輩、雪羽は!?」

「……消え、た……」


事態をのみ込めず、ボーっとする少年と、息をのむ少女。


少女は少年に一つの封筒を投げつけた。


「読みなさい」


その声には絶望しかなかった。


少女が去った後。


かさっと音を立てて、手紙を開く音だけが病室に響く。

少年が手紙を開くとそこには綺麗な、女性らしい文字が書かれていた。



『拝啓 喜名日向様


 先輩。私、先輩が倒れる前から先輩が病気であることを知っていました。

手術の成功率が3%であることも。偶然、廊下で話していたのを聞いてしまったのです。すみません。

 私の世界は、先輩が中心で、先輩がいなくては壊れてしまうものでした。

自分でも気持ち悪いし、重いなって思うんですが、先輩が迷子の私を助けてくれたその時から、どうしようもなく好きになっていたのです。あの時、命を懸ける恋におちました。だから、先輩が消えるなんて耐えられなかったんです。

 屋上で、ただ、願いました。先輩が生きていることを。そうして、願って、願いをかなえてくれる存在を見つけました。それが、死神様…レイでした。

レイは本当は冥界で働く死神様です。本名はレイグリード。

信じられますか?ううん、きっと信じられないと思います。でも、これは本当のお話です。

 私は、死神様と契約を交わしました。願いをかなえる代わりに私の命をあげる契約を。

 先輩、私はきっと言ったと思います。『先輩に悲しんでほしくない』と。

だから、どうかこの手紙を読んでも悲しまないでください。

私は、私の意思で、あなたを救いたかった。生きててほしいと思った。


私は、あなたが好きです。


今まで、ありがとうございました。


どうか、幸せになって下さい――――さようなら。


                 敬具 宇賀谷雪羽         』


文字がにじむ。

ふと頬に手を当てれば涙が流れていた。


「ぼくも、君が好きだったんだよ――――雪羽ちゃん」


少年は少女を想っていた。

けれど、少年は自分の病を知っていた。

助かる見込みはほぼゼロ。

好きな女を幸せにすることなんてできそうもなかった。

だから、心を鬼にして、少年は想いを殺したのだ。


そんな少年の手に、もう一つの封筒が当たる。

それは、去り際、レイ――死神から渡された手紙だった。

少年は、その手紙もそっと開いた。


『日向へ

俺は手紙なんて書いたことないからとりあえず雪羽にならってみた。

ちょっと変なのは許してほしい。

伝えておきたいことがあった。

まず、俺は死神だ。

手術が失敗するお前の命を運ぶために人間界にいた。

自分が命を運ぶ人間を確かめるために近寄った学校で、雪羽に出会った。

己の命を駆けて願う雪羽の心は、綺麗だったから、雪羽に取引を持ちかけた。

それが、雪羽のいう『契約』だ。

魂の取り換えは、行う相手をよく知らなくてはならない。だからお前に近づいた。

だが、お前はあったかくてな。

ついつい仕事以上の感情を持ってしまった。お前は、俺にとって大切な友だった。

次に、お前のが、雪羽を愛しいと想っていることを俺は気づいていた。

最初に会ったとき、雪羽を悲しげに、でも愛しそうに見てたからな。

だから、一つ告げたい。

お前は、雪羽を取り戻す方法がある。』


「え――――?」


絶望に身を包まれていた少年は、その言葉に一筋の光を見つけた。


『お前はもう病気になることはないし、老いて死ぬことになるだろう。

それは、雪羽のおかげだ。

だから、お前は同じことが雪羽にできる。

雪羽の生命力を受け取ったお前の消えかけの生命力は、雪羽のと混ざって溶けた。

だが、その本質はどちらかというと雪羽に近い。

そのため、これを行えば、お前の寿命は縮まるし、雪羽も長くは生きられないだろう。

だが、できる。

その方法は―――――――』


顔をあげた少年の目には、光と、ほの暗い熱が宿っていた。


少年はすぐさま手紙をたたむと、病室を飛び出した。

向かった先は、学校の屋上――――――

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