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雪の日の願い  作者: 悠
1/3

First

神様、大魔王様、仏様。

もし、今願いをかなえてくれるなら私の命をあげるから―――…どうか、叶えてください。


真っ白な雪が降るその日、願ったのはたった一つ。


私の願いをかなえてくれたのは、神様でも大魔王様でも天使様でもなくて、死神様だった。





❅ ❅ ❅ ❅ ❅





雪羽せつは――!」


名前を呼ばれて振り返ると、親友の那湖なこが手にたくさんのお菓子を持ってこちらに走っているところだった。


「那湖……転ぶよ?」

「ふふっ、平気だもん!!私、運動神経はあるんだからねっ」


親友の那湖はふわふわとした可愛らしいお菓子みたいな子で、甘いもの好きで有名だから、すれ違う人々からお菓子を渡されることが多い人気者だ。


「それにしても……またみてたの?」

「……うん」


どうやら気づかれていたらしい。

びくっと体が跳ねる。


「もー、しょうがないなぁ」


甘い砂糖菓子みたいな声でふわりとほほ笑む那湖は同性の私から見てもすごくかわいい。


私が見ていたのは、ひとりの男の子。

喜名きな日向ひゅうが先輩。


「告白して、振られたのにまだ好きなの……気持ち悪いよね、私って」


高校入学初日に迷った私を優しく助けてくれた先輩が好きで、ずっと想ってて、最近勇気を付けてようやく告白したけど、見事玉砕。

好きな人がいるそうだ。

それでも、好きなままの私は重い女なのかもしれない。


「いいんじゃないかな、だってそれだけ好きってことでしょ?」

「うん……」


だけど、やっぱり迷惑なんじゃないかな。


そんな風に思ってしまう。


キーンコーンカーンコーン


そんな私のネガティブ思考を振り払うようにチャイムが響く。


「あ、やばっ。私、次陰険メガネの授業だ!!急がなきゃまた嫌味言われちゃう…雪羽、またね!!」


ここからだと那湖のクラスは少し遠い。

飛ぶように去っていく那湖を見送りながら、私はのんびりと歩く。

私のクラスは次は先生の都合で自習になっているから問題ない。


ふと角を曲がろうとしたとき。


「―――――――…そうか、じゃあ、学校には来れなくなるな」

「はい」


聞きなれた声が耳を打つ。


(先輩!?)


とっさに壁に張り付いて、隠れてしまう。


(何話してるのかな…)


そっと壁の影から先生と話している先輩を見る。


「それにしても、そうか――――成功率は3%か……」


(え……)


成功率が3%?何の話……?

心がどくどくと音を立ててウルサイ。

嫌な予感がする。


(どうか、志望校とかその辺の話でありますように―――!!)


「はい。まぁ、でもこの病気で成功率があるだけでも奇跡ですから。

普通、手術するまでもなく死亡だそうです。

そういうわけで、しばらく学校には来れませんが、みんなには家庭の事情と言ってもらえますか?」

「しかしなぁ……失敗すれば、二度と会えないだろう。俺だって急なことだからまだ驚きの方が強いから冷静でいられるが、突然聞かされて結構怒ってるところもあるんだぞ。大事な生徒がまさか死に直面しているとは思わないからな。俺より距離の近いクラスメイトすりゃ、なんで言ってくれなかったのかって後悔の日々になると思うぞ」

「それでも…最後は笑ってさようならがいいですから。

あ、もちろん希望は捨ててませんけどね」

「手術は3か月後、か――」


願いもむなしく、それは、先輩の死へのカウントダウンの話だった。


二人が去って行ったあと、ずるずると座り込む。


「成功率3%の手術―――――?」

(先輩が、この世からいなくなっちゃうの―――――?)


そんなの嫌だ。


弾かれたように立ち上がって、無我夢中に走り出す。


階段を駆け上がり、扉を開ると寒い空気が肌を刺す。


雪が舞う、どこまでも静かな世界で。


「ああああああああああああああああああああああぁぁ!!!」


私の世界が壊れていった。


神様、大魔王様、仏様。


あの人は、私の世界の中心なんです。


あの人がいなければ、私は壊れてしまうでしょう。


たった一度、迷子を助けてもらっただけだけど。


その瞬間、私は命を懸ける恋に落ちたの。


どうか、彼を奪わないで。


その願いをかなえるためならば、私の命をあげるから―――――…


『女、まことにその命を懸けて願うか』


願うわ。


『ならばなんじ誓いの声をあげよ』


誓いの声?


『"汝、願いをかなえるならば我が全てをささげると"』


汝、願いをかなえるならば我が全てをささげる。


光が私を包む。


『契約は成した。そなたの願いをかなえよう』


ふわりと雪に交じって落ちる黒い羽。


『そなた、名は?』


宇賀谷うがや雪羽


「我が名はレイグリード。死神だ。さて、契約の細かなところを決めようか」


光すら吸い込む漆黒の髪と魔性の紫の瞳。

そこに立っていたのは私の願いをかなえてくれる死神ひと


「どうか、先輩の命を救って―――――」


願うことはそれだけよ。





❅ ❅ ❅ ❅ ❅





「雪羽―――、聞いてよぉ」

「どうしたの?那湖ってばまた怒られたの?」

「そーなの!!あんの陰険メガネってば、たった数秒の遅刻で『私の授業に遅刻するとはいい度胸ですね。

何故遅刻したのか順序立てて説明していただきましょう。私の授業に遅刻しなくてはならないくらいの用事だったのでしょう?』とかいうのよ!?もう、最悪!!」


ぷんぷんと腹を立てている那湖は頬を膨らませている。


『ふむ、この女が喜名日向とやらか?』

(……え、本気で言ってます?)


どっからどう見ても女だろう――――。


死神様と契約を果たした後、死神様が私の後ろにいるほかは何も変わらない。


死神様は、先輩の命を連れて行かないと約束してくれた。

代わりに、私の命を連れていくと。

そして、連れて行かないためには、どうやらその対象と親しくならなくてはいけないらしい。


そのため――――


「ところで、その後ろの美形だれ?」

「ああ、我のことは気にするな」


ここの生徒として過ごすらしい。


「雪羽?」

「…私のクラスに来た転入生よ。先生に頼まれたの」

「え、もう3時間目終わったけど」

「寝坊したんですって」

「え―――――…」


探るような目で死神様を見つめる那湖。

お願い、そんな目で見ないでっ。


レイと名乗った転入生は、私の隣の席に座り、休み時間になっても普通に傍にいる。

まあ、私が契約者だからなのだけど。

自習の次は理科で、担任の先生がいた時はびっくりしたけど、どうやら記憶操作をして寝坊した転入生になったらしい。そして、なぜかなつかれた(周囲の認識)私に苦笑しつつ頼んできたのだ。

どうか、校舎を案内してやってほしい、と。


「ところで、蓮見先生の授業って2時間目で、那湖のクラスは3時間目自習だったでしょう?

どうして今頃蓮見先生の愚痴大会になってるの?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!!あ~の~陰険メガネ!!

私のクラスが3時間目自習だと知った瞬間『じゃあ存分に片づけをする時間がありますね』とか言って、私に片づけ強制しやがったのよおおおおおおおぉぉ!!」


どこかに向けて吠えている那湖をほほえましく見守る。


『どうしてこの者は怒鳴っているのだ?』

(気にしないでください…)


「お、宇賀谷と那湖じゃないか。那湖、どうした?」

「あ、腐れ外道先輩どっかいってください。私いまとっても気分悪いんでこれ以上悪くしないでください。そこの付属物持ってどっかいきやがれこの野郎!!!そして、私は那湖と呼ぶことを許した覚えはない!」

「ひでぇっ。ところでそこのイケメンは誰だ」


慣れているのかさらっと流し、質問を返しいるのは那湖の従兄妹である桐生先輩。


「雪羽のクラスの寝坊した転入生です」

「宇賀谷のクラス?へーえ。大騒ぎだったんじゃないか?

それにしても寝坊ね…勇気あるなあ、お前」


そして、那湖が付属物といったのは喜名先輩。


(死神様、口を開いてないほうが喜名先輩です)

『ほう、あれが』


「レイだ。よろしく頼む」


次の瞬間先輩たちに向かって偉そうな態度をとった死神様。


(えええぇぇ!?何してくれてるんですか、死神様!!

先輩には『よろしくお願いします』です!!)

『む、そうか』


「すまん、まちがった。よろしくお願いします」

「ははっ、気にすんな!!俺も喜名も気にしねえよ!な、喜名」

「まあ、そうだね。レイ君だったかな?こちらこそよろしくね」


さっそく先輩後輩の一歩を踏み出したらしい。


このまま仲良くなってくれるといいな。


つらくて、喜名先輩の方を向けなかった私は知らない。


この時、喜名先輩がどんな目で私を見ていたかなんて。

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