【第5話】法と掟の女神 テミス
敏弥と付き合い始めて、敏弥は「美香さん」ではなく「美香」と呼ぶようになっていった。
絹糸が輝いているような素麺の海を、お椀に乗って渡る。2人の手には麺つゆ。薬味は持参でお好みのものを。そして2人仲良く素麺の海を堪能した。
他にもいろんなところでデートをして、2人は日に日に距離を縮めていったのだった。
そういえば・・・・このことテミスに報告してなかったな。2人の交際も許してもらわないといけないし、一度部屋に戻ろう!
私が部屋に戻るとそこにはテミスがいた。「ちょうどよかった」と思い私はテミスに話しかけた。
「テミス・・・・・・・・・?」
なんだか様子が変?
いつもと違うテミスの雰囲気に戸惑いながらも、私はもう一度声をかけた。
「テミス?」
すると、テミスが私に近づいてきた。テミスはとても悲しそうな顔で私を見つめると、ゆっくりと口を開いた。
「なぜ掟を破ったのですか?」
「テミス聞いて!私、敏弥を愛してるの!だからテミスにも応援してほしいの!」
「・・・・・・・それはできません。あなたは掟を破った。私は、法の女神 テミス。掟を破ったあなたを裁かなければなりません。」
そういうと、テミス姿は小さな男の子から美しい女性へと変わったのだ。右手には剣左手には天秤を持ったその女性は、それらを高々と揚げた。そして私に視線を戻すと、とんでもないことを言い放った。
「あなたの世界を滅ぼし、あなたには“死ぬよりも苦しい罰”を受けてもらいます。」
テミスはそれだけ言い残すと忽然と消え去り、私は取り残された。
・・・・・・なんかまずくないか?てか、滅ぼすって言ってたよね?みんなやばいじゃん!それより敏弥がいなくなるってこと!?それはなんとかしないと!!でも、どうしたらいいのかわからないよ。
私が途方に暮れていると、突然部屋のドアが開き1人の女の子が入ってきた。その子はとても焦っている様子で、辺りを警戒しながら私に向かって話しだした。
「私は正義の女神 ディケー。テミスの娘の1人です。父 ゼウスが、あなたの“世界”に大洪水を起こし滅ぼす準備を始めました。急いでください。新たに世界を創りあなたの世界の人たちを箱舟に乗せて、その世界へ避難してください。あとのことは私がなんとかしてみます。」
新しい世界を創る?なんかよくわかんないけど迷ってる暇はなさそうだ。
私は「新しく世界を創る」と頭に思い浮かべた。するとモニターが切り替わり、何もない真っ白な世界が映し出された。
次に今の世界に大きな空飛ぶ箱舟を創り、必要なものを箱舟に詰め込むと急いで今の世界に戻った。しかし、町の人たちに状況を説明しても信じてもらえず私は強引にみんなを箱舟の中に押し込んだのだった。
次の瞬間、大量の水が世界を埋め尽くす。みんなは驚きのあまり、口を「ポカーン」と開けたまま固まっていた。その顔が面白くて笑いそうになったが、今はそんな状況ではないので私は必死に堪えた。
箱舟には瞬間移動機能を設置していたので、一瞬で新しい世界に到着!
とりあえず、まだ何もない世界に降りて今までのことを全て話した。さっきの大洪水を見ていたからなのか、私が神様だということ以外は何とか信じてくれたのだった。
私が危険な目に合うことを敏弥はとても心配していて「何もできない自分が情けない」と涙を流した。
あぁ〜ん♥ 泣き顔もセクスィー♥
私は一度、ディケーに会うために部屋に戻ることをみんなに伝え立ち上がった。すると、敏弥が「自分も一緒に行く」と素晴らしい男気を出してきた。
「危険だ」と説得しながらも心の中でガッツポーズをしていた私は「仕方ないな〜」とか、わざとらしいセリフを言って敏弥と2人で部屋に戻ったのだ。
部屋に戻ると、ディケーが安心したような表情を浮べ私の方に駆け寄ってきた。
「ご無事だったのですね。」
「ディケーのおかげでなんとかね!ところで私はこれからどうなるの?」
「地獄の神 タルタロスの元へ連れて行かれ、終わりのない地獄を彷徨うことになります。」
そう言って、ディケーはとても申し訳なさそうな
顔をした。
「何でディケーが申し訳なさそうにするの?」
私の問いかけにしばらく悩んだあと、ぽつりぽつりと話してくれた。
「私はテミスとゼウスの間に三姉妹として産まれました。
秩序の女神 エウノミアー
平和の女神 エイレーネー
正義の女神 ディケー
私たちは、とても幸せに暮らしていました。その頃は世界での恋愛も許されていたのです。
ところが秩序を失くそうとしたタルタロスにエウノミアーは囚えられてしまいました。エウノミアーを人質に取られたゼウスとテミスは、仕方なくタルタロスに下ったのです。
新たに秩序の神が産まれるのを恐れたタルタロスは恋愛を禁じ、その掟を破ったものに罰を与えるようになったのです。」
なるほど・・・・・・タルタロスめ・・・・・・私と敏弥の仲を引き裂こうとするとは。しかし、どうすればいいんだ?このままだと遅かれ早かれ敏弥とは離れ離れだよね?う〜ん・・・・・・ん? ちょっと待てよ。そっか! その手があったか!
「それってさ。エウノミアーを解放すれば済む話じゃない?」
「そうですげど・・・・・・エウノミアーは地獄の最下層部に捕えられていて、そこに辿り着くためにはいくつもの地獄を超えなければなりません。」
いくつかの地獄がどんなもんなんかは知らんけど。私は生きてる時、地獄を見続けてきたし、どんなに辛いことでも乗り越えてきた。そう考えれば、どんな地獄も超えられるんじゃなかろうか・・・・・それに、私は敏弥を失いたくない!!
そして、私は決心したのだった。
【第6話】へつづく




