第三話
僕はしばらくして戻ってきたボーイさんに、パーティの会場から離れた豪華な応接室に案内された。
来る途中にいくつもドアがあり、もしここではぐれたら絶対遭難すると思って、
道順を覚えておこうと思ったのだが、途中で諦めてしまった。
一体、いくつ部屋があるんだよ!
環が言ってた通りすごいお屋敷だ。
掃除が大変そうだなあ……。
「申し訳ありません。すぐに紳一郎様が来られますので、もう少しお待ちください」
ボーイさんは丁寧にお辞儀をして部屋から出て行ってしまった。
あの『朝吹紳一郎』がここに?
僕に何の用があるんだ?
あの指輪のせい?……なんなんだろ?
なんだか緊張してきて、さっきのボーイさんが出してくれたお茶をゴクリと飲んだ。
凄く高そうなお茶碗だ。
割らないようにしなくちゃ……。
応接室のドアが開いて、背の高い男性が入ってきた。
朝吹紳一郎だ!
さっきは遠目だったからよくわからなかったけど、噂通り嫌味なほどの男前だ。
いかにもクールでやりての実業家って感じ?
朝吹さんはしばらくの間僕を観察するように見て、それから口を開いた。
「君がこの指輪をみつけてくれたのか?まいったな……」
「?」
何にまいったのか知らないが、顔はニコニコ……いや、ニヤニヤしている。
「……みつけたっていうか、僕がたまたま食べた桃まんじゅうにその指輪が入ってて…」
「君、男の子だよな?」
「あ、あたりまえです!」
この人、顔も頭もよさそうだけど眼が悪いのか?
「そうか……。これも運命かもしれないな」
「え?」
彼は顎に手をやって頷くと、僕に手招きした。
「ちょっとここに来て、僕の前に立ってくれないか?」
「?」
僕は言われたとおりに彼の正面に立った。
「手を出して、ああ、左手だ」
僕が左手を差し出すと、彼は持っていた例の指輪を僕の薬指にはめた。
「へえ、サイズもピッタリだな。似合うよ」
「あ、あの?」
朝吹さんは困惑している僕の左手を握ったまま言った。
「桃田望君、僕と結婚してくれないか?」
「はあ!?」
このひと、今なんて言ったんだ?