第二十七話
「ノゾミ……なんか凄いね」
目の前のアンリさんが目を丸くしている。
「壮観だな……」
その隣の香月さんが、優雅な仕種でカップを持ち上げながら呟いた。
僕の座っているソファーの後ろには、芦川さんを始め、何人ものメイドさんがズラリと控えている。
「姫君をお守りする騎士団ってところかな?
アンリ、どうせ君が何かやらかしたんだろ?」
「ノゾミにフランス式の挨拶をしようとしただけだよ。
ノゾミ、どうにかならない?
あんなに怖い顔で睨まれてちゃ、話もできないよ」
「芦川さん。ちょっと大げさじゃないですか?」
僕はすぐ後ろに控えている芦川さんにヒソヒソ声で言った。
「そうですか?望様を完璧にお守りする為には、このくらいの人数は必要かと思いまして。
今日は相手がふたりですし……。
私の勘では、あの従弟の方も危険人物のような気がしますわ」
芦川さん、鋭いよ。
「……大丈夫ですよ。
こんなんじゃ、僕も落ち着かないし……」
それに、女のひと達に守られるなんて、ちょっと情けないような気もする。
僕は芦川さん以外の他のメイドさん達には引き取ってもらった。
自分を睨み続けていたメイドさん達がいなくなったせいか、アンリさんはホッとした顔をした。
「ここに着いたらパリにいる筈のリュウが来てるんで、目を疑ったよ。
リュウ、彼に何かしたら、この僕が許さないよ?」
アンリさんが睨むと、香月さんは声をたてて笑った。
「怖いなあ。望君にはボディガードが何人もいるんだな。
小沢先輩に、アンリに、メイド軍団か……。
近寄るだけでも大変そうだ。
かなり手強いなあ。まあ、その方が燃えるけどね?」
「まったく……。早くその病気治したほうがいいよ?」
アンリさんはもう一度香月さんを睨むと、僕の方に向き直った。
「ノゾミ、指輪を持ってきたんだ。
シンイチロウに電話したら、今日が都合がいいと聞いてね」
結婚指輪、出来たんだ。
紳一郎さんが選んだお揃いの指輪を持つなんて、ちょっとドキドキする。
「……嬉しそうだね」
「え?」
顔を上げると、香月さんが僕のことをじっと見つめていた。
「本当に紳一郎のこと好きなんだ」
「バカだなあ、リュウ。当たり前だろ?
ふたりは新婚ホヤホヤのアツアツ夫婦なんだから。
この前なんて、あてられちゃってまいったよ。
君が割り込む隙なんて絶対ないからね?」
アンリさんがニヤニヤしながら香月さんに言った。
そうだった。
この前、紳一郎さんにキスされるところをアンリさんに見られたんだった!
僕はあの時のことを思い出して、カーッと熱くなった。
「ノゾミ、顔が真っ赤だよ?どうしたの?」
「な、何でもありません……」
ふたりの視線を感じて、モジモジしていると
ノックの音がして、メイドさんが慌てた様子で入ってきた。
「望様、紳一郎様がお帰りになりました!
今、お車が入ったところですわ。
お急ぎください!」
「は、はい!」
玄関でちゃんと出迎えたいから、紳一郎さんの車が門に着いたらすぐに教えて欲しいって頼んでおいたんだ。
「アンリさん、香月さん、ちょっと失礼します!」
僕はふたりに挨拶をして、胸を高鳴らせながら玄関に走った。