第二十四話
「ニューヨーク?」
「はい。今朝、望様が出られてすぐに紳一郎様からお電話がありました。
急な出張で向こうに行かれることになったそうです」
「そう……」
今日のこと、紳一郎さんにどんなふうに報告したらいいのか、ずっと悩んでたんだけど……。
気が抜けちゃったよ。
「望様には、あちらに着いてからお電話されるそうですわ」
「紳一郎さん、お仕事大変なんですね。体壊さないといいけど。
……芦川さん、どうしたの?怖い顔して」
いつもは僕が帰ると笑顔で迎えてくれる芦川さんなのに、今日はなんだか不機嫌そうだ。
「あんまりですわ!新婚だというのに一日もお休みをとられないばかりか、お帰りも毎日真夜中!
そのうえ、いきなり海外出張ですって?あの秘書、きっと紳一郎様を過労死させるつもりなんです!」
芦川さんは、僕から受け取った通学鞄をギュッと抱きしめて叫んだ。
毎朝紳一郎さんを迎えにくる秘書のひとは、
紳一郎さんと同じくらいの年齢で、背が高くて、眼鏡をかけてて、ハンサムだけど冷たそうなひとだ。
僕には丁寧に接してくれるけど、何を考えているのかわからなくて、ちょっと近寄りがたい感じ?
「……それに紳一郎様も紳一郎様です!結婚なさる前からお忙しい方でしたけど、
それでも余裕で複数の方とおつきあいなさってました!
望様おひとりのお相手もできないなんて、どういうおつもりなんでしょうか!?」
「………………」
「……あ、私ったら何てことを……申し訳ありません!」
芦川さんは僕の顔を見て、慌てて頭を下げた。
「ううん、芦川さん、僕の為に怒ってくれてるんですよね?
僕は平気だから。紳一郎さんのお仕事が忙しいんだから仕方ないです」
「………望様」
芦川さんはしょんぼりとしてしまって、こっちが気の毒になってしまう。
「芦川さん、僕、このまま勉強部屋の方に行っていいですか?
先に宿題を済ませようと思って。あ、案内はいいですから」
「わかりました。後でお茶をお持ちしますわね。
でも、本当におひとりで大丈夫ですか?」
芦川さんは、鞄を僕に渡しながら心配顔で尋ねた。
一週間前、屋敷内で迷子になったことを思い出したんだろう。
「大丈夫です……たぶん」
僕は部屋に入るとカーテンと窓を開けて、勉強机の前に座った。
今日はなんだかいろいろあって疲れちゃったよ……。
勉強部屋はこの屋敷で一番心休まる場所なんだ。
紳一郎さんは僕の為に豪華な部屋を用意してくれたけど、
値段を聞くのも怖いような家具や骨董品が置いてあって、自分の部屋だというのにすごく緊張してしまう。
それに比べたらここは実家の僕の部屋と同じくらいの広さで、余計な装飾品とかもなくてホッとするんだ。
机の上に地球儀を置いて、クルクル回しながらニューヨークを探した。
「ニューヨークまで、どれくらいかかるんだろう?紳一郎さん、まだ飛行機の中だよね。
いつ帰ってくるのかな……」