第二十話
「わざわざフランスから僕を呼び寄せるのも悪いと思ったのかなあ。
でも、報告ぐらいしてくれてもいいのにね?あいつとは従兄弟同士で、
子供の頃からの付き合いなのに」
「………」
返事をすることが出来ないでいると香月さんは小さく笑った。
「さっきからマユゲがハの字になってるよ?
困らせちゃった?君は思ったことが顔に出るんだね、素直で可愛いなあ。
気に入ったよ」
いえ、気に入ってもらわなくても結構です!!
「紳一郎がうらやましいよ。
こんな可愛い子を花嫁にするなんてさ。
で、あいつとはどうやって知り合ったの?
どうして、そんなに急いで結婚したの?
君はまだ高校生なのに、学校を卒業してからでも遅くはないんじゃないの?」
続けざまに困った質問をされて、僕はますます窮地に追い込まれてしまった。
紳一郎さん作の、僕達が結婚に到るまでの物語(僕の両親に話したヤツだ)を
話せばいいんだろうけど、僕は嘘をつくのは苦手なんだよ。
それに、人が良くてちょっと単純なうちの両親と違って、このひとには通用しないような気がする。
「言えない理由でもあるのかな?
まあ、無理には聞かないけどね。
……でも、男の子を朝吹家の花嫁に選ぶなんて紳一郎も思い切ったことをするなあ」
やっぱりみんなそう思うよね……。
「次の後継者はどうするつもりなんだろうな。君、何か聞いてる?」
後継者?
そうか、今は紳一郎さんが朝吹グループの後継者だけど、その後は紳一郎さんの子供が継ぐのが当たり前だよね。
「ああ、愛人に産ませるという手もあるか。……ごめん、嫌なことを言ったね」
「紳一郎さんは、愛人はつくらないって言ってました。……ぼ、僕だけだって」
「……望君。
こんなことを言うのは可哀想だけど
覚悟はしておいた方がいいよ?
今はまだ親戚連中は何も言わないだろうけど、何年か後にこの問題は必ず出てくる。
本家の血筋を絶やさないように努めるのは、朝吹家の長男である紳一郎の義務だ。
君が相手では無理だろう?」
「…………」
「あいつが、そんな大事なことを忘れている訳がないと思うんだけどな。
……君達がどういう経緯でスピード結婚することになったのかは知らないけど、
紳一郎のことを好きだから結婚したんだよね?
あいつが他の女との間に子供をつくることになっても平気でいられるかい?」
僕は香月さんの質問に答えられなかった。
「……僕は君が傷付くのを見たくないな」
紳一郎さんは、後継者のことなんて何も言わないけど。
大事なことだよね。
もし、この先紳一郎さんが後継者のことを考えて誰かを愛人にしても
僕、何も言う権利はないんだ。
……僕は女の子じゃないから。