第二話
「なんだよ。このパーティ、ほとんど女の人ばっかりじゃないか!」
「やっぱり、これが紳一郎さんの花嫁選びのパーティという噂は本当だったのね」
僕より年がひとつ上の姉の環が言った。
「花嫁選び~?
なんで僕のところに、招待状が来るんだよ?」
「さあねえ、望のこと女の子だと思ったんじゃない?
間違いやすい名前だものね」
先日、僕と環に『朝吹紳一郎』の名前でパーティの招待状が届いた。
朝吹紳一郎というのは国内だけでなく海外でも事業を展開している有名な朝吹グループの跡取りだ。
確か20代後半で、政財界のご令嬢の花婿候補ナンバーワンらしいけど。
なんで、そんなひとが僕達に招待状を?
確かに僕達の父親も会社を経営していて、朝吹グループ関係の会社と取引はあるらしいけど、
全然比べ物にならないくらいちっぽけな会社だ。(お父さん、ゴメン)
僕達はもちろん、父親も本人に会ったことはない。
両親や僕が不審に思っているのに、姉の環は
「雑誌で見たことあるけど、あそこのお屋敷素敵なのよねえ。
お庭も拝見したいわ。なんでも大きな温室があるらしいわよ。
お料理も豪華なんでしょうねえ。あー楽しみ~」
……御曹司のことより、庭や料理の方が気になるらしい
姉は今日一日開放されているらしい庭と温室を見に行ってしまった。
僕達を招待した男の姿は、最初に皆の前で挨拶をしたのを遠くから眺めただけだ。
彼の花嫁選びが本当なら、僕がここにいる意味はないよなあ。
『朝吹紳一郎』の招待を断るなんてとんでもないからって、父親に言われたから来たんだけど……。
帰っちゃおうかな、などと考えていると、
「いかがですか?」
ハンサムなボーイさんが僕に声をかけてきた。
手に桃まんじゅうがたくさん盛られた大きなお皿を持っている。
なんだかこの豪華な西洋風のパーティにはそぐわないような気がするのだが、
超高級桃まんじゅうなのだろうか?
それならぜひ、食べてみたい。
僕は自分の苗字に桃がつくからって訳ではないが、桃まんじゅうが大好きだ。
なにしろお気に入りの桃まんじゅうを置いてあるお店に、週一で通っているくらいなのだ!
「その一番上のが大きいですよ?」
僕は言われた通り、一番上の桃まんじゅうを取った。
別に大きいのが欲しかったわけじゃないんだけど、ピラミッドみたいに積んであったら普通一番上から取るよね?
僕はその桃まんじゅうをパクンと頬張った。
「ん?」
何か固いものが入ってる。
「何だ?これ」
口の中から出したそれは、キラキラした大きい宝石が嵌めこんである指輪だった。
「?何でこんなものが桃まんじゅうに?」
僕は、まだ近くにいる桃まんじゅうを勧めてくれたボーイさんを呼んだ。
「あのー、こんなものがさっきの桃まんじゅうの中に入ってたんですけど」
ボーイさんは僕が差し出した指輪を受け取ると一瞬嬉しそうな顔をしたのだが、
すぐに驚いた顔になり、「こ、この指輪は!」と叫んだ。
……なんだかわざとらしい?
「桃田様、しばらくこちらでお待ちください。いいですね!」
「は、はいっ!」
あれ?僕このひとに名前言ってないよね?
僕はボーイさんに言われるまま、手に食べかけの桃まんじゅうを持って律儀にその場にとどまっていたのだが、後でそれを激しく後悔することになったんだ。