第十九話
香月龍二。
………龍二?
この間紳一郎さん達が話してた『寝取ってポイ』のひと?
僕は差し出された手を見た。
アンリさんの時と同じパターンだよね。
数日前の嫌な記憶が甦る。
まさかこんなところで変なことはされないと思うけど……。
ためらっていると、香月さんは自分から僕の手を取った。
そして、外国の女のひとにするように唇を押し付けてきたんだ。
「わあっ!」
僕は慌てて自分の手を取り戻した。
そんな僕を見て、香月さんはくすくす笑っている。
「顔が真っ赤だよ?ウブなんだなあ。
君、本当に17歳?
紳一郎が男子高校生を花嫁にしたっていうから、もっと大人っぽくて色っぽい子を想像してたよ」
色っぽい男子高校生ってどんなんだよ……僕には想像できないよ。
「立ち話もなんだし、座ろうか?」
僕は香月さんに促されてソファーに座った。
「そんなに脅えた顔しないで。
昨日までフランスにいたので、つい、ね。
あんなのは向こうでは普通の挨拶なんだよ?」
ホントか?
アンリさんとおんなじこと言ってるよ。
それに普通は男相手にあんなことしないよ!
このひと、何しに来たんだろう……。
僕をわざわざ呼び出したりして何を話すつもり?
「どうぞ」
どんな態度をとったらいいのかわからなくて黙っていると
香月さんは、テーブルに用意されていた紅茶をカップに注いで勧めてくれた。
「あ、ありがとうございます。……すみません」
……お客さんにお給仕をやらせてしまった。
僕、朝吹邸で暮らすようになってから、なんでもメイドさんにやってもらうのがあたりまえになってた。
いけないよね……。
申し訳なくて小さくなっている僕を見て、香月さんはクスリと笑った。
「どういたしまして」
「………」
僕は香月さんの柔らかい笑顔に、つい見惚れてしまった。
だって、笑うともっと似てるんだ。
重症だ。
紳一郎さんに似ているひとを目の前にしただけでどきどきするなんて。
香月さんは紅茶をひと口飲んで、じっと僕の顔を見つめた。
思わず身構えてしまう。
「急に訪ねてきたりして悪かったね。
あの紳一郎が結婚したって聞いて、どうしても花嫁に挨拶したくてさ。
どういうわけか、結婚パーティには招待されなかったんだよなあ。
どうしてだと思う?」
「………」
僕に聞かれても……。
それはあなたが『寝取ってポイ』のひとだから、紳一郎さんが警戒してるんです……
なんて言えないよ。