第十八話
「あれ?モモ、弁当食わないのか?」
「うん、なんか食欲なくて……。今日は牛乳だけにする。
岳史、これ食べてくれない?」
「いいのか?へえ、うまそう。
……おまえの弁当、最近豪華だよなあ」
「……そうかな?」
毎朝、朝吹邸のコックさんが作ってくれてるからね。
それなのに、岳史にあげちゃってごめんなさい。
でも、残すのも悪いし、捨てるなんてもっと悪いもんね。
牛乳のストローを銜えたままぼうっとしている僕を見て、岳史が怪訝そうな顔をした。
「……おまえ、最近変だぞ?
ぼんやりしていることが多いし、おまけに食欲がないだって?」
岳史はそこまで言ってにやっと笑った。
「ははーん。わかった。恋煩いだろ?」
「…………」
自分の顔が赤くなるのがわかった。
あの日。
自分の気持ちを自覚して以来、僕は変なんだ。
紳一郎さんの顔が、見られなくなってしまった。
意識しすぎちゃうっていうか、話しかけられてもまともに答えられないし、
朝のキスの時も、前よりずっと緊張してカチンカチンになっちゃうんだ。
……紳一郎さん、僕のこと変なヤツだと思ってるだろうな。
「なあ、どんな娘なんだよ」
「誰が?」
「おまえの恋煩いの相手だよ。可愛いか?」
「可愛いっていうか……カッコイイかな?」
「カッコイイ女?年上か?環さんの友達とか?」
「えーと………」
「桃田!先生が呼んでるぞ!」
「え?」
クラスメートに呼ばれて声のした方を見ると、担任の山口先生が僕に向かって手招きをしてる。
「何だろ?」
席を立って先生の傍まで行くと、先生は周りに聞こえないような小さな声で僕に言った。
「今から応接室に行ってくれ。学園長専用の方だ」
「は?」
「おまえにお客さんだ。朝吹家の関係者の方らしいぞ」
朝吹家の?
誰だろ?
……まさか、おばあさんじゃないよね?
僕はドキドキしながら、急いで応接室に向かった。
応接室のドアをノックすると、中から返事が聞こえた。
「失礼します……」
おそるおそるドアを開いて中に入る。
朝吹邸ほどじゃないけど、広くて立派な応接室だ。
学園長専用だもんね。
応接室のソファーには、スーツ姿の若い男性がひとりで座っていた。
……学園長はいないみたいだ。
「学園長には席をはずしてもらったよ。
君とふたりきりで話をしたくてね」
男性はそう言ってソファーから立ち上がると僕の前まで来た。
近くで男性の顔を見て、僕の胸はドキンと鳴った。
このひと……紳一郎さんに似てる?
「初めまして、朝吹望君。
香月龍二です。
一応、朝吹紳一郎の従弟なんだけど……
結婚パーティには出席できなくて残念だったな」
彼はにっこりと微笑み、僕に向かって手を差し出した。