第十六話
僕達は、アンリさんが持ってきた数種類の指輪を見せてもらった。
何の飾りもないシンプルなものから、小さな宝石が埋め込まれているものまである。
「望、君はどれがいいんだ?」
「え?……僕、指輪ってよくわからなくて……紳一郎さんが選んでください」
「……そうだな。これなんかいいんじゃないか?」
紳一郎さんが選んだのはシンプルなデザインの指輪だった。
「えー。それにするの?つまんないなあ。
僕にまかせてくれよ。君達の為に最高のマリッジリングをデザインするから。
それで……よかったら君達の手の写真をとらせてくれないかな?
あ、できたら型も取らせて欲しい。イメージを膨らませるのに必要なんだ!」
アンリさんはソファーから身を乗りだして、紳一郎さんに訴えた。
僕は、アンリさんが紳一郎さんの手を形どった石膏に頬擦りする怖い姿を一瞬想像してしまった。
「断る」
紳一郎さんは冷たい声でアンリさんに答えた。
だよね。
「そんなあ~」
アンリさんは、しばらくの間いろいろと理由をつけて紳一郎さんに哀願していたけど無駄に終わった。
結局、結婚指輪は最初に紳一郎さんが選んだ物に決まった。
「それじゃあ、裏に入れるのはイニシャルと日付だけでいいんだね?
出来上がったら、連絡するよ。
それにしても、シンイチロウがいきなり結婚だなんて、連絡もらって驚いたよ。
水くさいなあ。何で教えてくれないんだよ。結婚パーティにも出たかったのに。
リュウも何も言ってなかったんだよ?」
アンリさんから出た名前に紳一郎さんの表情が変わった。
「龍二に会ったのか?」
「うん、半月くらい前かな?パリでね。彼、春から向こうを任されてるんだって?」
「……アンリ、俺の結婚のことは、望が学生の間はなるべく公にしたくないんだ。
だから君もこのことは伏せておいてくれ。龍二にも何も言わないでいてくれないか?」
「え?彼、知らないの?一応従弟でしょ?結婚パーティには呼ばなかったの?」
「ああ、親戚連中にも口止めしておいたよ。絶対にあいつには知らせるなってね」
「……うーん、それは正解かもね。
リュウって、シンイチロウの恋人を寝取るのが趣味だから、もしかしたらノゾミも危ないかも……。
奥さんだからって遠慮するとは思えないなあ。それどころか知ったら俄然やる気だすかもね。
彼って口がうまいから、皆騙されちゃうんだよね~。まあ飽きたらポイされるけどさ」
「……あいつは昔から俺の嫌がることをするのが大好きなんだ。
今までは見て見ぬ振りをしてきたが、望にまでちょっかいだされるのはごめんだ」
紳一郎さんは不愉快そうに言った。
な、なんか今『寝取る』とか、『飽きたらポイ』とか聞こえたけど……。
その龍二さんってひと、最低だなあ。
紳一郎さんは、まだましなほうなのか?
「まあ、ばれるのも時間の問題かもしれないけどな。
とにかく今は俺達のことを誰にも邪魔されたくないんだ」
紳一郎さんは僕の方を見ながら言った。
「リュウはバイじゃないから、今まで狙うのは女性ばかりだったけど……
ノゾミは女の子みたいに可愛いし、油断は禁物だ!
ノゾミ、君はシンイチロウの大事な『オクガタサマ』なんだから、他の男に絶対に隙を見せたらいけないよ?
いいね?」
「………………………はい」