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SWEET TRAP  作者: 麻乃そら
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第十話

紳一郎さんは、唇を離して僕の顔をじっとみつめた。

人の顔をこんなに近くで見るの初めてかも。

……………って、今、キ、キ…

頭の中で静かにパニクっていると、

目の前の紳一郎さんが何か言って、また唇を近づけてきた。


その時、

テーブルの上に置いてあった紳一郎さんの携帯が鳴った。

「…………………」

しつこく鳴り続ける携帯を、紳一郎さんはしばらく無視していたんだけど……。

「……誰だ?こんな時間に」

諦めたのかしぶしぶ携帯に手を伸ばし、相手を確かめて眉を顰めた。

そして、通話ボタンを押すと、外国語で話し始めた。

……これって、フランス語?

紳一郎さん、フランス語喋れるんだ。さすが御曹司(?)


………………待てよ?

そういえば昨日小沢先生が、紳一郎さんはフランス人のモデルと付き合ってたって言ってなかったっけ?

もしかしたら、電話の相手はそのひと?

……なんだかおもしろくない。

僕は胸の中がモヤモヤしてきた。


「お言葉に甘えて、先にやすませてもらいます。おやすみなさい」

僕は聞こえるか聞こえないかの小さな声で挨拶をして紳一郎さんから離れると、ドアへ向かった。

名前を呼ばれたような気がしたのだが、振り返らなかった。


結婚したからっておつき合いをやめたわけじゃないんだな。

何が家庭に入ったら大人しくなる、だよ。

小沢先生のウソツキ。

……紳一郎さん達の世界では、愛人をつくることなんてあたりまえだったりして。



ベッドに横になってしばらくすると、紳一郎さんが寝室に入ってきた。

「……望、寝たのか?」

僕は返事をしないで、寝たフリをした。

今はなんだか話をしたくないんだ。

紳一郎さんは溜息をつくと、バスルームに行ってしまった。


「……………」

僕はベッドの中で、紳一郎さんの唇の感触を思い出した。

今更だけど、ドキドキする。

紳一郎さんにキスされてしまった。

普通ファーストキスって、甘いとか聞くけど。

僕のファーストキスは、お酒と煙草の香りが入り混じった大人のキスだった。




朝、目が覚めると、昨日と同じく紳一郎さんはもうベッドにはいなかった。

「起こしてくれたらいいのに……」

ベッドから降りて、顔を洗いに行こうとしたら、寝室のドアが開いてスーツ姿の紳一郎さんが入ってきた。

「おはよう、望」

「おはようございます……」

昨日のキスのことを思い出して、まともに顔が見れない。

「望、これ」

紳一郎さんは僕に、持っていた薔薇の花束を差し出した。

「さっき温室で選んできたんだ。やっぱり君には薄いピンクが似合うな」

「はあ……」

寝起きの頭では、どういうリアクションをしたらいいのかわからない。

僕はぼんやりとそれを受け取り、目をつぶって甘い香りがする花の匂いをかいだ。

……いや、なんとなく。


「……そんな可愛いことするなよ」

「え?」

顔を上げて紳一郎さんを見ると、複雑そうな顔をしている。


彼は僕から花束を取り上げると、それをベッドの上に放り投げ、僕の体を強く抱きしめた。

そして、昨日よりもずっと長いキスをした。

 

「昨日も言ったが、しばらくは帰りが遅くなるんだ。

無理して夜中まで俺のことを待っていなくてもいいんだぞ?

もう少ししたら時間が出来ると思うから、その時は……」

紳一郎さんは、ぼうっとしている僕に向かって甘く微笑むと、

「覚悟しろよ?」

そう言って、寝室から出て行ってしまった。


結局、

僕は仕事に向かう紳一郎さんを、今日も見送ることが出来なかった。

この広いお屋敷を、迷わないでひとりで玄関まで行けるようになるのはいつのことだろう……。


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