第一話
サイトで公開したものに修正を加えました。
内容は変わっておりません。
「それじゃあ、行って来るよ、望」
「い、行ってらっしゃいませ。だ、旦那様?き、気をつけて」
僕は激しくどもりながら、早朝だというのにスッキリ男前のこの家の主人、朝吹紳一郎に言った。
メイドさんや秘書のひとが聞いているのに恥ずかしい…。
「旦那様か……。それでもいいけれど、もっと親しみを込めたほうがいいな」
え?
「た、例えば?」
「紳一郎って呼んでごらん?」
「し、紳一郎さん?」
僕はまたしてもどもりながら、彼の名前を呼んだ。
すると彼は僕の耳もとに唇を寄せて囁いた。
「……体は大丈夫か?
昨日は疲れていたのに、無理をさせてしまったからな。
何しろ、新婚初夜……」
「わーっ!!
紳一郎さん!は、早くいかないと会社に遅刻します!」
彼はクスクスと笑いながら『なるべく早く帰るから』と言って、高級外車の後部座席に乗り込んだ。
絶対さっきの声、秘書のひとに聞こえたぞ。
何であんなこと人前で言うんだよ、それもありもしないことを!
断っておくが、昨日は本当になにも、何にもなかったんだ!!
昨日僕はクタクタに疲れて、部屋に戻った途端にベッドに倒れこんで寝てしまった。
それが、
朝目が覚めると、おそろしいことにあの男、昨日から僕の夫になった『朝吹紳一郎』が、
同じベッドの僕の隣で気持ちよさそうに寝ていたんだ…。
「なんで、こんなことに……」
僕は昨日、『桃田望』から『朝吹望』になった。
事の発端は、一ヶ月前にこの朝吹邸で行われたパーティだったんだ。