翻訳機
「いろんな言語を自由に操りたい」という思いから作った作品です。
短編小説6作目です。
二十二世紀をそろそろ迎えようかという世界は、とある企業が開発したものに熱狂した。動物や魚、虫たちと会話が出来る翻訳機が完成したからであった。開発した企業も消費者の混乱を避けるため、かなりの量を生産し、完全予約制とした。それでも翻訳機は売れに売れた。
この翻訳機が発売されて嬉しかったのはペットを飼っている人達だけではなかった。検察や警察、弁護士も大いに喜んだ。翻訳機の性能の高さから裁判での証言が認められたからだ。未解決事件は次々と明らかになり、犯罪の抑止、冤罪は減少した。また動物医療センターも同様だった。動物たちは人間のように正確に症状を訴えてくれたからだ。そして、まれではあるが動物への虐待も見つけることが出来た。
翻訳機が売り出されて幾年かの時が流れた。翻訳機を開発した企業は、各国の要望に応えて翻訳機のナノマシン化に成功した。ナノマシン翻訳機は空中散布により世界の隅々まで行き渡った。
「これで、より動物と人間との関係が親密なものとなるだろう」
世界の人々はそう考えていた。だがそれは人間の勝手な考えであり間違いであった。メスの牛達はセクハラを訴え、豚達は豚権の侵害・殺豚事件だと業者を相手取った。虫たちも殺虫剤の販売禁止を求めた。森の動物、虫達はというと、自分達の住処を守る為、食料を守る為に大規模なデモ運動を起こした。TV局も対応に追われていた。動物達にプライバシーの侵害や肖像権の抗議を受けていた。
「これで人間と動物の関係が逆転するだろう」
世界の動物達はそう考えていた。だがそれは動物達の勝手な考えであり間違いであった。いや、そもそもの間違いはナノマシン化したことだった。ナノマシン翻訳機は植物の中にまで入り込んでいた。声を荒げていた動物達もそうはいかなくなってしまった。木の実や葉を食べようにも植物達が許さなかった。終いには酸素に値段をつけ始めてしまった。
「これで他の生物は植物に従うしかないだろう」
世界中の植物達はそう思っていた。だがそれは植物達の勝手な考えであり間違いであった。人間も動物も我慢の限界に達しており、史上初となる人間、動物、植物による世界大戦が行われようとしていた。そして開戦前日の異様な空気の中、今まで黙っていた彼女が遂に一言を発した。
「争いをやめないと私…… 爆発しちゃうからね?」
どんな生物でも母なる地球には敵わないのだった。
読んでくださってありがとうございます。
短編を意識しすぎた文章の書きかたで読みづらいのかなっと反省しています……