蝶と庭と 一夜目:4
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投げられた帽子を取りに行っていたトトが、やっと戻ってきた。髪が少し乱れて、頭には木の葉がついていた。普段トトは運動しないから、ちょうど良かったと思う。
「次投げるときはちゃんと言ってよね」
そんなことはないと思うけれど、どうやら言ったら投げてもいいらしい。じゃあ犬らしく、とってこーい! と言って、それこそフライングディスクのように投げてやろうかしら。などと考える。
「やらないからね」
とだけ、トトが言う。呆けていると続けて、ボクはトトだけど犬じゃないし、シルキーの名前はドロシーではないからね。と、言う。
あら、わたしってそんなにわかりやすい顔していたかしら。
けれど、確かに、愛しの隣人である白銀の君の名前を勝手に傍線を引いてしまうのは失礼だと思った。
そんな白銀の君は、お茶会を狂わせた犯人の頬をつまんでいる。彼女の顔は相変わらずお人形のように白く、眉ひとつ動かしていないようにみえるけれど、その裡に秘めた激情は、すべて犯人の頬をつまむ腕に注がれている。よく見てみると、シルキーのキレイで清潔感のあるスカートがいっぱいのお茶を嗜んだ跡がついていた。大声を出して驚かせてしまったのはわたしたちのような気もするけれど、ここは黙って、プーカには犠牲になってもらうことにした。
シルキーを怒らせるととても怖い。普段はお姫さまのように優しく、美しい彼女。ガラスの靴を履いて、舞踏会で出逢ったのであれば、誰もがその目と心を奪われてしまうような仔。
そんな仔を怒らせることができるなんて、いったいどんなワルイコなのかしら。トトはこっちを見ないでください。
みんなの汚れ具合を見て、トトは込み上げた感情をやるせなく吐き出して、手を叩く。みんなが注目したことを確認すると、お風呂に入ろうねと促した。
その言葉を聞いた途端、プーカやケット・シーはトトから距離をとる。まるで恐ろしいオオカミに怯える仔ヤギたちのよう。ケット・シーはわたしの影に、プーカはシルキーのスカートの中に隠れようとした。プーカがシルキーにもっと怒られることになるのは明白であった。さらには、シルキーはお風呂賛成派の妖精なので、プーカに逃げ場はない。
「魔法でキレイにすればいいじゃない。ほら、もうキレイよ」
確かに、魔法でキレイにしてしまえば、なんでも解決できる。けれど、万能というわけではない。試しに、ケット・シーに鼻を近づけてみたらブラックベリーの甘い匂いのままだった。この匂いのまま過ごしていたら、きっと蝶や妖精の人気者になれることだろう。ずっと嗅いでいると、なんだかお腹が空いてきて、食べたくなってしまいそう。
そうね。ケット・シーは食べてしまいたいくらいにかわいい愛しの隣人だもの。食べてしまっても文句は言えませんよね。
捕食者の気配に気がついて、逃げようとしても、もう遅いのです。両手をしっかり腰に回して、既に動けないのですから。
シルキー。と、トトが目配せすると、シルキーはケット・シーを連れてお風呂へ。ケット・シーは激しく抵抗するものの、成果は虚しく、シルキーにお風呂にいれられることとなった。
お風呂に入ると言っても、全員が入れるほど、バスタブは大きくない。
それならお風呂場そのものを大きくしてしまえばいいじゃない。どうやって? そんなことは簡単です。ちちんぷいぷいのなんやかんやで大きくすればいいのです。
あっ待って。待ってください、シルキーさん。ちゃんと後で戻しますから。その手を下ろしてください。




