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シルシアの手記  作者: ぺぺ
蝶と庭と
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蝶と庭と 一夜目:2

 しばらく、特等席で小歌劇(オペレッタ)を観ていたら、愛しいお隣さんたちがやって来た。


「あら、ごきげんよう、お姫さま」


「今日もいい朝ね!」


「遊びに来たよ!」


 くちぐちに挨拶をする彼女たちは、花の香りが移ろうように私の周りを飛んでみせる。温もりのある私の胸には、優しい甘い香りが満ちていく。


「ごきげんよう、愛しの隣人さん(ロビン)たち」


 お隣さんは待ち切れないとシルクのような髪を引っ張って、遊ぶように急かしてくる。到底、その小さな身体ではお姫さまを起こすことさえできないけれど、小人たちはいつの間にか髪を編んで、花を挿していた。しまいには本物のお姫さまのように花のティアラを被せられてしまった。小さな白い花のティアラは、白髪のお姫さまによく似合っていた。イタズラな小人さんたちにお礼を言って、バスケットにリンゴとタマゴやブラックベリーのサンドイッチを詰める。

 玄関の戸を開ければ、まだ夢から醒めきっていないような静かな庭に、そよ風が朝の訪れを伝えている。フローライトのようだった空も、今はすっかりラピスラズリの絵の具でお化粧をし終えていた。こんないい天気の日には、ピクニックをするのにもってこいだ。愛しいお隣さんたちと今日はどんなことをして遊ぼうかと期待に胸を膨らませていたら、草木の垣根から一匹の黒っぽい野ウサギが飛び出してきた。


「「「あ、プーカ!」」」


 と、愛しいお隣さんたちはクチを揃えて言う。善い妖精(フェアリー)としても、悪い妖精(ピクシー)としても語られる、変身が得意な愛しの隣人(ロビン)だ。

 驚いた拍子に落としたバスケットからは、ブラックベリーのジャムの入った小瓶が転がり落ちてしまった。それは野ウサギの前に転がっていき、野ウサギはその小瓶を見て、差し入れかい? ありがとう。と、言ったかと思えば、そのまま向かいの垣根へ飛び込んで行ってしまった。驚きを隠せず、反応が遅れてしまったわたしは、救いを求めるかのように弱々しく手を伸ばすことしかできなかった。その穴を覗いてみても、もうその姿を見ることは叶わず、ただただ木の葉がわたしを影で包むばかりで、諦めるほかなかった。

 けれど、愛しいお隣さんたちは違ったようで、野ウサギを追いかけていってしまった。わたしも垣根の合間を見つけて、愛しいお隣さんたちの後を追う。わたしは咲っていた。ひとり置いていかれる淋しさよりも、きっと、これから起こるであろう違いない冒険に心を馳せていた。


「待ちなさーい! それはお姫さまのモノなンだからー!」


 愛しいお隣さんたちは追いかけっこを楽しんでいる。森の中を駆けて、野ウサギは大きな木の洞に飛び込んでいった。その先は昏く、先は見えなかった。

 息を上げ、イタズラに高鳴った鼓動は、立ち止まってもなかなか熱を引いてはくれない。諦めて引き返そうとしたそのとき、足を滑らせて穴へ落ちてしまった。

 愛しいお隣さんたちは、わたしを引っ張り上げようとするものの、その努力は虚しく、髪にしがみつくばかりだった。お姫さまには似つかわしくない声を上げながら、奥深くへと落ちていく。恐怖心が落ち着いても、まだまだ洞は続き、いつの間にか落ちているのではなく、歩いていた。その途中にはさまざまなものが壁の棚に置いてあり、洞窟に潜む怪物の宝物はこのように飾られているのかもしれないと思った。しばらく歩いて緩やかな曲がり角を曲がると、広間に出た。円形の広間は歌劇場を思わせるような赤いカーテンに覆われており、そのひとつを暴いてみると、その後ろには扉があった。その扉は野ウサギサイズの小さなものではなく、お姫さまも満足に通れる、大きな扉だった。その地殻の床には金の鍵が落ちており、それを挿して回せば、すんなりと扉は開いた。


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