表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シルシアの手記  作者: ぺぺ
蝶と庭と
32/32

蝶と庭と 二夜目:7

 わたしたちの影がひとつ、またひとつと寄り添い、長く伸びて、淡い夜の記憶に溶けてゆく。シルシアはわたしの胸に頬を寄せ、目を閉じた。その胸の奥には、言葉にならない温かなものが広がっていた。ガラスの天井からは、ひときわ明るい星がわたしたちの舞踏を照らしていた。


 わたしはふっと咲って、シルシアの手を引いた。シルシアもそれに応え、もう一度軽く身を躍らせる。

 彼女の香りを乗せた風が草花を微かに揺らす。

 ふたりは夜の庭をくるくると回り、夢と現の境目も、静けさも、すべてが遠のいていく。ただ、指先のぬくもりと、微笑みと、宙に舞う蝶の光だけがこの夜の世界を彩っていた。

 わたしはそっとシルシアの耳元に囁く。


「この夜を、忘れないで」


「――ん」


 その声は夜風とともに消えていくようでありながら、わたしの胸の奥に、そっと、確かな光を灯した。とても短いお返事だったけれど、彼女はきっと、忘れずにいてくれるだろうと思う。そう思ったら、別れも少し、淋しくないような気がしてきた。


 月の詩の奏でが終わると、その魔法も次第に解けていってしまった。名残惜しいけれど、舞踏会は終わらなくてはいけないみたい。


 今までのことは、夜の夢の熱に浮かされて見てしまった幻だと思ってくださいな。これはわたしたちだけの、秘密なのだから――。ね?

 

 このまま終わってしまうのも、なんだか名残惜しくて、わたしたちはしばらく、今まで見た夢のできごとを話し合った。おとぎ話のような世界にできごとばかりが起こる夢のお話は、飽きることがない。お隣さんとの追いかけっこやお茶会はもちろんのこと、そこで起こるハプニングも楽しいものばかり。


 夜の庭はふたりの心に合わせるように、ほのかにその姿を変える。小さなアーチの蔓花が咲き、露を宿した花びらがふたりの頭上を飾る。どこまでも夢のようで、けれど今この瞬間だけは、確かにふたりは寄り添って、お互いの熱を感じていた。

 

 庭にはオルゴールの静かな音色が流れていた。星降る夜の音はきっとこんな音がするのだと思う。そんなことを思いながら、ガラス越しの夜空を眺めていたら、シルシアがわたしの肩に寄り掛かった。


 わたしは、シルシアの横顔を一度だけ見つめ、また微笑んだ。彼女の長い銀の髪が肩先からふわりと落ちていく。淡い月明かりを受けて、柔らかな光沢を纏う。細く揺れる髪の一房が、頬に掛かり、透き通るような肌の上を滑り落ちていった。わたしはその髪を耳にかけて、最後にもう一度、小鳥のようなくちづけをした。


 それが仔を愛する母のような気持ちだったのか、姫の目覚めを願う王子のような気持ちだったのか、わたしにはわからなかった。ただ、彼女の幸せを願う、(まじな)いだったかもしれない。


「おやすみなさい。わたしたちの愛しい彼女――」


 ◆ 次節 明晰夢 ◆



蝶と庭と 二夜目、これにて閉幕いたします。


ご読了ありがとうございます!

いいねや感想をいただけると励みになります♡꜀(˶´꒳`˶ │

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ