蝶と庭と 白昼夢:13
プーカはいたずらっぽく目を細め、勝負の余韻を噛みしめるように、わずかに残ったお茶を軽く揺らしている。茶葉の欠片が、琥珀の底でゆらりと踊った。
「そろそろ眠る時間だけれど……やっぱり、これはやりたいよね」
大きな枕を抱えて、ほしがりな格好をする。
いまいち理解が及ばないケット・シーとシルシアは、同じように首を傾げる。
「枕投げだよ! 枕投げ! パジャマパーティーをするとなったら、トランプに、枕投げに恋バナでしょ!」
と、プーカは語る。
「雪合戦とかもいいけどさ、冬は寒いし当たるとちょっと痛いし、なんか嫌だよね。だけど枕投げはさ、柔らかいし、寒くないし、冬以外でもできるでしょ? それにやっぱり、せっかくお泊りするのにめいっぱい楽しまないなんて損じゃない? もう怒られるくらいに騒いじゃったほうがいいと思うんだよね! 幸い、ここには騒いでも迷惑を掛けちゃうような愛しいお隣さんはいないわけだし、思いっきり枕投げがしたい! それで、お布団に入ったら、眠気が来るまで恋のお話をするの。胸を高鳴らせるようなドキドキしたお話が聞きたいの。燃えるような恋とか、甘酸っぱい恋とか、そういう話が聞きたいし、好きなタイプの話とかで盛り上がりたいワケよ。残念なことに、ここにいるトトってやつの話は微塵も面白くないけどね! 私たちの愛しい彼女の好きなタイプとか、気になるじゃない? すっごい気になる。ケット・シーのお姫さまも普段は全然喋ってくれないから、こういうときにめいっぱい聞きたくない? 恋にときめく少女になりたくない? 熱に浮かれて夢のように過ごしたいし――」
話が長くなりそうだと思ったシルキーは、茶器が被害に合わないように片付けにはいった。ケット・シーとシルシアもそれを手伝いながら、聞いていた。プーカは片付けが終わった後も、力説を続けている。
シルシアは話を聞くのが面倒になったのか、プーカを黙らせるために、その枕をプーカめがけて投げつけた。枕を勢いよく当てられたプーカはベッドに倒れ込み、動かなくなってしまった。ケット・シーは驚いて両手でクチを覆う。恐る恐る、プーカの顔に覆い被さる枕をどかした途端、彼女は起き上がってシルシアに向かって枕を投げ返した。プーカは得意げな顔をして、シルシアのことを挑発する。彼女たちの間には、火花が散っているように感じられた。なにかの合図があれば、たちまち戦いの火蓋は切られてしまいそうだ。
そんな空気を感じ取ったトトは、残されていたスプーンとカップを鳴らしてみた。
それを合図に、部屋の中を枕やクッションが飛び交う。いつの間にか、ケット・シーも一緒になって枕を投げていた。
トトは楽しそうにしている愛しい彼女たちを見て、満足げに咲っていた。
しかし、微笑ましいと思っていたのも束の間、枕はトトの顔に見事命中した。部屋の空気が凍り、彼女たちは怖い怪物から身を潜めるように動きを止める。枕の下からは不自然なほどにこやかな顔を見せているトトが現れた。
「さてと……あんまりオイタが過ぎる仔にはお仕置きが必要だよね?」
ふわり、ふわりと宙を舞う枕。
ひとつ当たれば、ふたつ、みっつと弾けるように増え、枕投げはちょっとした騒ぎになっていた。
――その後、全員でシルキーに怒られたのは、また別の話さ。
◆ 次節 二夜目 ◆
ご読了ありがとうございます!
これにて第二節、白昼夢は閉幕いたします。
次節は二夜目、お楽しみください。
(更新はしばらく中止予定です)
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