蝶と庭と 白昼夢:11
「おっと、シルシアちゃんか」
「隣の子は……見覚えはないけど、よろしくね」
「お名前を訊いてもいいかい、お嬢さん」
プーカは渋々、自分の名前を答えた。デイビッドはその名前を聞いても、驚いた素振りはしなかった。これは礼儀ではなく、単純に彼が鈍感で、その真実に気がついていないだけである。
なにかあったかい、と小首を傾げるデイビッドの素振りは、少女たちの心を逆なでした。
「デイビッドさん、おかしをくれないとイタズラしちゃいますよ」
デイビッドは唐突なハロウィンの訪れに苦笑を隠せなかった。
「うーん、それは困ったぞぅ。今は何も持ってないんだ」
シルシアはしかたがないですね、とムスッとしながら、イースターエッグをデイビッドに渡した。ありがとう。と、素直に喜ぶ彼は、きっととても善い人なのだろう。けれど、それは少女たちにとって、好ましい反応ではなかった。もう少し照れたり、驚いたり、大げさな反応をしてほしかった。乙女心と云うものは、複雑なのだ。
そういうわけで、少女たちは目配せをして、行動に移る。
「じゃあ、おかしあげたのでイタズラしますね」
「シルシアちゃん待って。どうしてそうなるんだい……?!」
「プーカちゃん、やっておしまい……!」
プーカはどこからともなく人ひとりが入るリングに、布を垂らした手品道具を取り出した。それをデイビッドに被せ、もったいぶるように揺らしながら、数字を数え始める。
みっつ数えたところで、ソレを手放せば、中からビクトリア朝のドレスを着たデイビッドが現れた。
思いも寄らない手品という名の魔法に、デイビッドはようやく、プーカとシルシアのイタズラっ子たちが満足のいく反応をみせた。両手でクチを抑えて、笑いをこらえる。そして、捕まってしまう前に、一目散に逃げていった。
「オレの服はどうなったんだい! おーい!」
意味もなく救いを求めるように手を伸ばしてみるが、少女たちがその手に収まることはなかった。段々と遠くなっていく無邪気な咲い声に、デイビッドは彼女たちのイタズラを赦すことにした。誰もいない教会で、わざとらしいため息をつく。けれど、彼を慰めてくれる隣人は誰もおらず、カモミールたちでさえ、彼の姿に咲っていた。
「まったく、かわいいやつだよ。本当に」
白石の壁が、淡い茜色に染まっていた。教会の尖塔は長く影を落とし、静かに野に寄り添う。
仔たちの元気な声を聞くのは、悪くない。そのイタズラだって、かわいいものだ。服の行方はわからず、被害に遭っているような気もするけれど、笑顔を見られるなら安い。何と言っても、服はまた買うか、着直すか、すぐに解決できる。けれど、他人の笑顔はそうもいかない。なにものにも代えられない、かけがいのないもの。
デイビッドは困ったと零しながら、少し乱れた髪をかきあげた。近くの塀に腰を下ろして、半ば押し付けられたイースターエッグを見る。指先で模様をなぞれば、甘い香りが鼻をくすぐったような気がした。




