蝶と庭と 白昼夢:10
バスケットの中の幸せのタマゴは、最後のひとつとなっていた。すべてのお家にイタズラをすることができたわけではないけれど、シルシアは、最後に向かう場所は決めていた。
「教会にいきましょう」
プーカは少しばかり渋い顔になって、ため息をつきながらも承諾してくれた。
「愛しい私たちの彼女がそう言うなら、しかたがないよね」
教会の神父を務めているをデイビッドは、神秘と云う神秘から嫌われている。もしくは、縁がない。理由は明らかでないが、愛しの隣人たちはクチを揃えて『好きじゃない』と言う。
村の郊外にひっそりと佇むその教会は、長い時を越えた古びた白色の石で組まれていた。ひと昔前までは、石壁には苔がびっしりと這い、ところどころに淡い緑の蔦が絡まり古い壁面をやわらかく覆っていたが、今や新築のようにキレイになっている。教会の尖塔は空へまっすぐ突き上がり、その先端には錆びた風見鶏が、いまにも折れそうに揺れていた。まだそこまでは手を付けられていないらしい。小さな鐘楼の鐘は長く鳴らされることもなく、風に吹かれてかすかに金属音を鳴らすのみだった。
教会のまわりには、野の花がところどころ咲き、小さな墓標が石の庭のように点在していた。墓碑の文字は長い雨風に晒され、殆ど読めなくなってしまっているものも多い。それでも、墓標の隙間にはカモミールが揺れ、訪れる者のない静寂に色を添えていた。
重いオーク材の扉は深い傷と手垢にまみれ、幾度も人々の手で動かされてきたことを物語っていた。扉の上には半月型の小さなステンドグラスがあり、淡い青と緑のガラス越しに、わずかな光が内部へと差し込んでいる。扉は呻き声を上げて来訪者を知らせるが、中からの応答はなかった。
生臭坊主、デイビッドの名前を呼んでみるものの、声がこだまするばかりで、反応はなかった。
「いませんね」
「いないねぇ」
顔を合わせてそんなことを言っていたら、後ろの方から声がした――。




