蝶と庭と 白昼夢:7
ふたりは次のお家でも、同じように窓辺に贈り物を置いていこうとした。けれど、そのお家の人は、ちょうど庭に出ていて、こっそり置いていくことは叶わなかった。
「なにか用か?」
背の高い、碧色の鋭い目をした青年が、眼の前に現れた。彼はエプロン着けて小さなスコップを持っていて庭の手入れをしている最中のようだった。
「どうしましょう、プーカちゃん、さっそく見つかってしまいました」
「見つかっちゃったねぇ」
プーカはのんきに、現状説明しかしてくれない。
背の高い青年は少女たちには巨人のように見えていて、ふたりはすぐに笑顔を作ることもできずに、手に持ったイースターエッグと顔を交互に見るばかりで、固まってしまった。
何も言わずに固まっている少女たちのひとりを見て、青年は少しかがんでから、声を掛けた。
「あなたは……確かプーカだったか」
プーカは名前を言われたことに驚きつつも、青年の顔をまじまじと見つめて、気がつく。
「あ! 君、クー・シーじゃない。なんでここにいるの?」
クー・シーと呼ばれた青年は、苦笑混じりに、答えを濁した。
既知であると知るやいなや、プーカは驚かさないでよね。と、緊張を解く。シルシアも先程の動揺はどこかへいき、笑顔で握手を求める始末だ。クー・シーはシルシアと会うのは初めてであったが、隣人の隣人は、自分にとっても隣人であると受け入れた。
「いい匂いがするーっ!」
そういいながらクー・シーの背中に、勢いよくぶつかりに来た黒い塊がひとつ。それはプーカとシルシアの周りをぐるぐるまわり、黒い尾を振っている。プーカがブラックドッグかと尋ねると、尋ねられた少女は、違うよ!とだけ元気よく答えた。背中を抑えているクー・シーが、彼女はモーザであると答えた。モーザ・ドゥーグ。仔牛ほどもある、黒いスパニエル種犬の姿をした巻毛で毛むくじゃらな亡霊だとされている。けれど、彼女はプーカやシルシアよりもひとまわり小さい、少女の姿をとっていた。
「これ、もらっていいの?」
モーザは手に持っていたイースターエッグに興味を示し、それを渡すと喜びを全身で表現して跳ね回るものだから、みんなも思わず釣られて、咲っていた。
クー・シーはそんなモーザを心配して、落ち着くようにと、軽く肩を抑えていた。プーカとシルシアのふたりには、そんな愛しの隣人たちが、兄妹のように見えた。
「ほら、お礼を言うように」
クー・シーがモーザにそう促すと、彼女は大きく元気な花を咲かせてみせた。
「おねえちゃん、ありがとう!」
プーカとシルシアはふたりしてモーザの頭を撫でた。
「いいコですね~」
「いいこだねぇ」
プーカとシルシアのふたりは、クー・シーとモーザのふたりの隣人のお家を後にした。
小道の脇に咲く水仙が、風に揺れては陽の光を受けて踊る。ふたりの足取りはどこか軽く、ステップを踏みながら鼻歌を歌っている。ひとつ、またひとつと減っていくイースターエッグは、たしかに、小さな幸せを運んでいったのかもしれない。
――裏手の庭で土を掘り返し新しい土に取り替えていると、おじいちゃん、おじいちゃん、と、少女の呼ぶ声が聞こえる。腰に手を当てながらゆっくりと立ち上がると、その後ろには既に、色とりどりなタマゴを頭の上に掲げて跳ね回っている少女がいた。
「おや……お届けものかい?」
「うん! おねえちゃんたちにもらったの!」
聞けば、そのタマゴの中にはおかしが入っているのだと言う。
「そうかい、よかったねぇ」
ポンポンと、その少女――孫の頭を撫でれば、少女はかわいらしい笑顔を見せてくれる。
「じいさん」
背の高い、碧色の鋭い目をした青年が声を掛ける。老爺はうんうんと頷いて、礼を言う。何も言わずとも、彼がきっと、対応してくれたのだろうと信頼しているからだ。
「そろそろ休憩にしようか、お茶を入れてこよう」
少女は二人の周りを跳ね回っている。まだ肌寒い季節だが、その笑顔を見ているだけで、どこか温まってくるような気がした。
足取りはまだ確かだが、それでもやはり、老人の動きは緩やかなものだ。
「じいさん、オレがやるよ」
青年はもっと早く歩けるのにも関わらず、老いぼれである老爺の歩調に合わせてくれている。置いていかずに、一緒に歩いてくれることのなんて幸せなことか。老爺はその喜びを、ただ胸の内で噛み締めた――。




