表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シルシアの手記  作者: ぺぺ
蝶と庭と

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/32

蝶と庭と 白昼夢:1

 シルシアはビクッと身体を震わせて、目覚めの悪い朝を迎えた。目をこすり、夢の名残を吐き出そうと、その小さなクチをめいっぱい広げた。

 淡い光が薄布を静かに揺らし、部屋の中に朝を注ぐ。遠く澄んだ真珠のような歌声が、空へ溶けていった。

 

 また、同じ夢を見ていた気がする。


 夜の名残を湛えた空気の中に、仄かに湿った朝の匂いが漂う。真珠のような歌声が、またひとつ、空に高く響く。その声はどこまでも透き通っていて、森の奥から誰かが呼んでいるかのように感じた。

 シルシアはそっと身体を起こし、窓辺へと歩み寄る。薄い布を指で払うと、ひんやりとした朝の空気が頬を撫でた。森の(こずえ)はまだ淡い霧の毛布を被り、葉先に宿った雫が朝の光を受けて煌めいていた。その静かな朝の気配に包まれながら、遠い森の奥を見つめた。アレは確かに、夢だったような気がする。けれど、同時に夢ではないような気もする。相変わらず、夢というものは朝の光を受けると、霧のようになってたちまち消えていってしまう。

 シルシアはそっと息をついた。朝の森の匂いが、身体を巡る。ネグリジェのまま、ゆっくりと扉を開き、ひやりとした空気が抜けていった。

 

 リビングには、もう朝の気配が満ちていた。窓辺に置いてある白いカップからは、ほんのりと湯気が揺れ、朝露に濡れた青いジニア(しんぴ)の花が、微かなオルゴールを聴いていた。シルシアは、この詩を知っているような気がした。

 その隣、揺り椅子に腰掛けていたシルキーだった。彼女は薄い金の髪をひとつにまとめ、静かに本の頁を捲っていた。淡い光に透けるような姿は、朝露に溶け込む蝶のようだった。


「おはようございます。シルキーちゃん」


 シルキーは顔を上げ、咲った。その微笑みは夜明け前の淡い光を孕んだ花のように柔らかく、見る者の胸の奥に、静かな温もりを灯すようだった。

 けれど、彼女は時計を見るとすぐに驚いたようになって、シルシアに近寄ると、その顔をペタペタと確かめ始めた。目をまじまじと見つめられて、額に手を当てられて、熱がないか確認された。


「なんですかシルキーちゃん。シルシアちゃんだって、早起きするときくらいありますよーだ」


 シルシアはシルキーの頬を、仕返しだと両手で揉んだ。シルキーは信じられないというように目を大きくしていた。しばらく時間が止まったようになった後、シルキーはハッとして、シルシアにミルクの淹れた。

 シルシアはお礼を言って、ソファに丸まってミルクを飲み始めた。シルキーはキッチンに立って、朝ご飯を作り始めている。トトも起きていない朝の時間、それはシルキーだけの、彼女の時間だった。彼女が家事妖精という存在証明の枷から逃れられる、唯一の時間。その時間を奪ってしまったことに、申し訳なく感じた。

ご読了ありがとうございます!

いいねや感想をいただけると励みになります♡꜀(˶´꒳`˶ │

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ