蝶と庭と 白昼夢:1
シルシアはビクッと身体を震わせて、目覚めの悪い朝を迎えた。目をこすり、夢の名残を吐き出そうと、その小さなクチをめいっぱい広げた。
淡い光が薄布を静かに揺らし、部屋の中に朝を注ぐ。遠く澄んだ真珠のような歌声が、空へ溶けていった。
また、同じ夢を見ていた気がする。
夜の名残を湛えた空気の中に、仄かに湿った朝の匂いが漂う。真珠のような歌声が、またひとつ、空に高く響く。その声はどこまでも透き通っていて、森の奥から誰かが呼んでいるかのように感じた。
シルシアはそっと身体を起こし、窓辺へと歩み寄る。薄い布を指で払うと、ひんやりとした朝の空気が頬を撫でた。森の梢はまだ淡い霧の毛布を被り、葉先に宿った雫が朝の光を受けて煌めいていた。その静かな朝の気配に包まれながら、遠い森の奥を見つめた。アレは確かに、夢だったような気がする。けれど、同時に夢ではないような気もする。相変わらず、夢というものは朝の光を受けると、霧のようになってたちまち消えていってしまう。
シルシアはそっと息をついた。朝の森の匂いが、身体を巡る。ネグリジェのまま、ゆっくりと扉を開き、ひやりとした空気が抜けていった。
リビングには、もう朝の気配が満ちていた。窓辺に置いてある白いカップからは、ほんのりと湯気が揺れ、朝露に濡れた青いジニアの花が、微かなオルゴールを聴いていた。シルシアは、この詩を知っているような気がした。
その隣、揺り椅子に腰掛けていたシルキーだった。彼女は薄い金の髪をひとつにまとめ、静かに本の頁を捲っていた。淡い光に透けるような姿は、朝露に溶け込む蝶のようだった。
「おはようございます。シルキーちゃん」
シルキーは顔を上げ、咲った。その微笑みは夜明け前の淡い光を孕んだ花のように柔らかく、見る者の胸の奥に、静かな温もりを灯すようだった。
けれど、彼女は時計を見るとすぐに驚いたようになって、シルシアに近寄ると、その顔をペタペタと確かめ始めた。目をまじまじと見つめられて、額に手を当てられて、熱がないか確認された。
「なんですかシルキーちゃん。シルシアちゃんだって、早起きするときくらいありますよーだ」
シルシアはシルキーの頬を、仕返しだと両手で揉んだ。シルキーは信じられないというように目を大きくしていた。しばらく時間が止まったようになった後、シルキーはハッとして、シルシアにミルクの淹れた。
シルシアはお礼を言って、ソファに丸まってミルクを飲み始めた。シルキーはキッチンに立って、朝ご飯を作り始めている。トトも起きていない朝の時間、それはシルキーだけの、彼女の時間だった。彼女が家事妖精という存在証明の枷から逃れられる、唯一の時間。その時間を奪ってしまったことに、申し訳なく感じた。
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