蝶と庭と 一夜目:7
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ふと空気が揺れたような気がした。次の瞬間、目の前にふわりと淡い光が舞い降りる。光の中から現れたのは、手のひらほどの小さな存在。透き通る翅が微かに震え、淡い金糸の髪が風もないのに揺れている。突然のできごとに声も出せず、わたしはただ、瞬きを繰り返すしかなかった。
「どうしたの? お姫さま?」
その小さなお隣さんが、わたしの顔をまじまじと見つめる。
「大丈夫? ティターニア?」
ケット・シーに名前を呼ばれ、わたしはようやく、ぎこちない返事をする。
「――あ、うん。大丈夫よ」
「少し考えごとをしてて」
わたしはどうしていたのだったろうか。少し辺りを見渡して、思い出す。
そうだった。愛しの隣人たちとお茶会をしていたんだった。手元には飲みかけのお茶がある。その落ち着くセピア調のお茶をクチに含めば、仄かな香りが広がっていき、体を温める。
それで――。
お茶会をしていて、どうしたんだっけ。
そう、確か、プーカはブラックベリーのケーキを美味しそうに食べていて。ケット・シーやわたしはタルトタタンを食べていたんだっけ。トトは相変わらずお茶を飲みながらみんなの会話を聴くだけで、シルキーはクッキーを食べていた気がする。このお茶会のおかしは全部、彼女の手作りなのよ。
みんなが咲っている。とても温かい空間。けれど、どうしてだろう。わたしの心は、どこか冷えている。みんなの声がよく聞こえない。誰も、わたしを気にしていない。
「淋しい、な――」
そう、心を漏らした途端、夜の帳が降りてくる。
落ちてゆく空気は、まるで水面の下に沈むときのように重く、ひやりと肌を撫でる。視界をくぐる金糸の光が、ゆらゆらと蜃気楼のように揺れていた。わたしはその光を指でそっと掬おうとして、叶わずに、そっと手を下ろした。いつのまにか、周囲の騒がしさも遠のいていた。ケット・シーも、プーカも、お隣さんたちも。トトやシルキーも。耳を澄ませば遠い森のざわめきのよう。気がついたらわたしは、見知らぬ庭にひとり立っていた。
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