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シルシアの手記  作者: ぺぺ
蝶と庭と

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蝶と庭と 一夜目:6

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 夢の海に溺れて、大きく息継ぎをする。吐き出した息の泡沫が、弾けていく。

 ずいぶんとヘンテコな夢をみていた気がする。


「おはよう、ボクらの愛しい眠り姫」


「あら、王子さまのキスはないの?」


「あいにく、ボクはキミの王子さまではないからね」


 この仔はいつもそっけない。どんなにわたしがからかってみても、愛を冠する感情は返してくれない。返ってくる感情は、いつだって憐憫だった。

 楽しい夢を見た。みんなとお茶会をする夢。とても温かくて、幸せだった。普段は会えないような愛しの隣人たちが集まって、一緒になって咲いあった。


 そう、そういえば眠る前にタルトタタンを食べたっけ。白雪姫のように、リンゴに掛けられた呪いによって眠らされてしまったの。だからキスをしてくれたら、きっと気持ちよく目覚められるはず。

 わがままを言えば、わざとらしく肩を落としても、願いを叶えてくれる。そんなこの仔を、わたしは愛しく思う。らしい服を着た、魔法使いがわたしの額にキスをする。祝福はしてくれるのに、どうしたって、心そこからは愛してはくれない。


「ボクはキミを愛している。愛しているけれど、それはいわゆる、真実の愛(アガペー)ではないよ。ボクがキミに持てる感情は、友愛(フィーリア)であって、家族愛(ストルゲー)だ」


 誰にだってそうじゃない。と、軽く肩を揺らす。


「そうかも知れない。ボクは愛しの隣人(キミ)たちを愛している」


 魔法使いはまた、曖昧な答え方をする。この仔はいつだってそう。どこか、他人との間に線を引いているようにみえる。

 仄かなベチバーが鼻をくすぐる。

 柔らかな殻をはだけ、青い(はね)を伸ばせば、白髪の彼女の香りが優しく包む。大きく伸びをして、温かな巣に別れを告げる。部屋の扉を開けた先は、何も見えない。ふと、そよ風が頬を撫でるものだから、振り返ってみる。あの仔は窓を見つめたまま、動かない。シルクのカーテンがあの仔の顔を隠してしまって、よく見えない。そもそも、どんな顔をしていただろうか。青い花が部屋に吹き込んで、わたしの視界を遮った。

 

「すまない、ティターニア」

「ボクではキミを救えない」


 あの仔が遠くなって、よく聞こえない。光は小さくなって、その扉が遠のいて、閉められた――。

ご読了ありがとうございます!

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