教会と先生と:1
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なにごともないように朝が訪れる。今年も、朝霧の深く立ち込める季節がやってきた。
窓を開ければ、朝霧が草木をおめかししているのが見える。愛しの隣人たちが着替え終わるのを待ちきれずに、碧い日が顔を覗かせる。
さまざまな宝石を身につけてドレスアップをした隣人たちは、眩しく咲っている。
大きく息を吸えば、澄んだ空気が身体を満たす。
部屋に差す淡い光が青い部屋を包み、ぼやけていた輪郭を緩やかに捉えていく。
しなやかな愛おしい温もりに別れを告げ、青を基調とした、「らしい服」を着る。今ではもう、外で同じような服装を見ることはほとんどないと言っていい。これはいわゆる、アンティークとでも言うのだろう。白いレースの装飾、かわいいと思うんだけどな。
リビングへ向かうと、半開きの扉からは、日常へと繋がる光が漏れている。微かな甘い匂いが鼻をくすぐり、布を擦る音が聴こえてくる。
扉の先では、白銀のドレスを着たキミがミルクをふたつ、用意してくれていた。
人形のように白く美しい肌、細い腕、大きな瞳はサファイアのそれさ。髪もシルクのように柔らかで、淡く朝日に煌めいている。
「おはよう、ボクらの彼女」
彼女は一瞥してこくりと頷くと、部屋を出て行ってしまった。きっと、もうひとりの彼女、シルシアを起こしに行ってくれたのだろう。
見てわかる通り、彼女は妖精だけれど、彼女は人だ。厳密に言えば取替仔だから、妖精と人のハーフといったところかもしれない。
そんなことを考えつつ、キッチンへと向かう。
案の定、そこにはまだ、温められたミルクが残っていた。
それをカップに注ぎ、窓辺にそっと置いておいた。スプーンと砂糖も添えてね。
コレは彼女への贈りものだ。こうしないと、愛しい隣人たちは贈りものを受け取ってくれないのサ。
なぜって? 妖精とは、そういうものなんだよ。理屈や理論ではない。そういうものであるという概念のみで成り立ち、存在する。人だって、理由のない行動をとるだろう? だから、これはそういうことなんだ。
テーブルに腰を掛け、用意されたミルクをひとくち飲み、ほっと息をつく。空っぽのお腹の中に、あまいミルクの温もりが広がっていくのを感じる。この感覚は、実にいいものだとも。
その余韻に浸っていても、なかなか彼女たちはやってこない。お楽しみは後に取っておくとして、彼女たちを迎えに行くとしよう。
◆
「まだ寝ていたいですぅ……」
シルシアの部屋を覗けば、温かな巣に包まって、飛び立つを厭がっているのが見える。シルキーは仔を宥めるような仕草から、だんだんとワガママな仔をたたき起こすお母さんのようになっている。
シルシアもシルキーの催促を躱す方法を学びつつあるようだ。家庭というものはこういうことがあってこそだよね。微笑ましいけれど、円満な家庭を築くためにも、ひと肌脱ごうじゃないか。
「おや、じゃあホットミルクはお預けかな」
壁に背を預け、気取ったポーズをとってみる。
「目が覚めました。おめめパッチリです。いただきます」
さきほどまでの抵抗はどこへやら。シルキーはその変わりように顔には出さずとも驚いているのがよくわかる。それも束の間、嫉妬のような視線を送ってくる。彼女たち妖精は、自分の仕事を取られると、途端に不機嫌になってしまう。生きている意味を奪われてしまうようなものだからね。
シルシアといえば、髪も整えないままリビングへ向かおうとするものだから、シルキーと共に窘める。
「こーら、ちゃんと顔を洗ってからにしなよ」
シルシアは、はーい。と、はにかんで返事をする。
ボクらの眠り姫は今日も元気そうでなによりだ。
それじゃ、ここからは吟遊詩人であるボクのお役目は御免かな。だってこれは――。
彼女の物語だからね。




