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プロローグ「かくして、俺の計画は粉砕された」

俺、相模優斗(さがみゆうと)の人生は、可もなく不可もなくだった。

現代日本に生まれ、アニメやラノベをこよなく愛するごく平凡な青年。


「あーあ、異世界転生してチートスキルで無双してー」


それが俺の口癖であり、毎晩寝る前に祈ることだった。

まさか、その祈りが最悪の形で叶えられてしまうとは、夢にも思わずに。


ある日のこと。深夜アニメの録画予約を済ませ、さて寝るか、とベッドにダイブした……のが、俺の現代日本における最後の記憶。


次に目覚めた時、俺は真っ白な空間にいた。目の前には、いかにも神としか言いようのない、金ピカの光を纏った老人がドデカいモニターを前にキーボードをバンバン叩いていた。


「いい加減替え時かぁ? なんだかんだ3年も使ってるもんな~。ってあれ? なんでいるの? あ、」


モニターに表示された何かを見た神はしまったと言わんばかりに一瞬の沈黙を作り、信じられないことを言った。


「間違えて君のこと殺しちゃった! いや~、Enterがうんともすんとも言わないからぶっ叩いてたら、変なとこ押しちゃったみたい! ガハハッ!!」


ガハハッ、じゃねえよ。 俺の人生、キーボードが壊れたせいで終わったのかよ。


「いやー、すまんすまん。お詫びと言ってはなんだが、君の好きな『異世界』に転生させてあげよう! もちろん、サービスでスキルも付けちゃうぞ!」


キタ。キタキタキタ。この展開、ラノベで100回は読んだやつだ!

俺はオタクとしての知識を総動員し、神に要求した。


「じゃあ、スキルは『全知全能』で」

「全知全能?」

「異世界に存在するありとあらゆるスキルを行使することが出来るスキルだ。出来れば転〇ラのラファ〇ルさんみたいなナビゲーターも付けてほしい!」

「ひょえ~欲張りだね~。まぁいいや、面白そうだし。ほれ、ポチッとな」


おぉ、割とアッサリOKしてくれた。

神はさらに続けた。


「どうせなら、スペックもMAXにしとこう。身体能力は世界を救った英雄レベル、頭脳は世界を滅ぼせる大魔術師レベル、容姿は……大陸一美しい王女が嫉妬するレベルでイケメンにしといた。これでOK!」


軽い。神のノリが軽すぎる。だが、そんなことはどうでもいい。


「待ってくれ!」

「ん?」

「魔術師で頭が良いって賢者みたいになっちゃわないよな? 煩悩とか奪われたら困るんだが」

「ん~、どうだろう。異世界は僕の管轄外だから詳しいことはちょっとな~。取り合えず、頭は現状維持ってことで。情報系のスキルもあるから、知力的な部分はそっちで補完してよ」

「おっけぇい!!」


満面の笑みでサムズアップ。

運動神経抜群、頭脳ーーは普通だが、容姿も端麗。しかも、異世界に存在するあらゆるスキルを行使出来る。異世界がどんな世界観は分からないが、普通に考えてチート級の能力だ。

こんなん俺TUEEEを通り越して神だろ。

ハーレム! 奴隷! いや、奴隷はちょっとアレだから、モフモフの獣人少女!

ムフフな妄想が凄まじい勢いで脳内を駆け巡る。


俺の妄想が爆発する直前、神が俺の背中をポンと押した。


「じゃ、楽しんできてねー!」


なんとスピーディーな異世界転生。

眩い光に包まれ、俺の意識は再び途切れた。


次に目覚めた時、俺は森の中にいた。 ふかふかの苔の上。木々の間から差し込む木漏れ日が、やけに幻想的だ。


「ここが、異世界……」


俺は立ち上がり、近くにあった水たまりを覗き込む。

そこに映っていたのは、俺の知る平凡な顔ではなかった。

透き通るような白い肌、サラサラの銀髪、そして吸い込まれそうなほど美しい碧眼。自分で言うのもなんだが、カッコイイや美しいを通り越して神々しさすらある。


「すげえ……」


試しに軽くジャンプしてみると、自分の身長の3倍はあろうかという木の枝に、軽々と着地できた。

続けて「火よ」と呟けば、手のひらに業火が燃え盛る。

スキルの行使に必要な詠唱も、知識も、すべて脳内に流れ込んでくる。


全知全能の力は本物だった。

俺は今、間違いなくこの世界で最強の存在になった。


「フ、フハハハ! やったぞ! ついに俺の時代が来たんだ!」


高笑いを響かせながら、俺は森の奥へと歩き出した。

最強の力で魔物を蹴散らし、困っている人を助け、名を上げ、やがては伝説となる。

そのためにはまず、美少女が必要だ。

笑いあり、涙あり、スケベありってね。


こういう森を歩いていたら、魔物に襲われている美少女と遭遇するなんて、ありきたりの展開だよな。

そう、俺が考えた、まさにその時だった。


「「「グォォォォォ!!!」」」

「きゃあああっ!!」


森の奥から、野太い雄叫びと、可憐な少女の悲鳴が聞こえてきた。


「お約束の定番キターーー!!!」


俺は意気揚々と走り出した。手に入れた抜群の運動能力で、魔物をワンパンしてやろう。 そして、助けた美少女にこう言うんだ。


「大丈夫かい、お嬢さん?(俺に惚れるなよ?(本当は惚れて))」


俺は手に入れたばかりの英雄級の身体能力を全開にし、森を疾走する。

木々が、岩が、まるでスローモーションのように後ろへ流れていく。


【最適ルートを算出。距離150メートル。到達まで2.8秒】


全知全能スキルによって強化された俺の頭脳が、冷静に状況を分析する。


【敵性反応、三体。『フォレスト・オーガ』。推定レベル45】


なるほど、この森の主クラスか。並みの冒険者なら手も足も出ないが、俺の敵ではない。

全知全能の力で、俺はすでにこの世界のあらゆるスキルを知っているし、使える。

そもそも、英雄の身体能力を以てすれば、森の主の百や二百、ワンパンでKOだ。

完璧なシミュレーション。完璧な俺TUEEE計画。


俺は木々の間を抜け、一気に拓けた空間へと躍り出た。


「大丈夫かい、お嬢さ――」


俺の完璧な登場セリフは、途中で途切れることとなった。

場の中心。そこにいたのは、俺のシミュレーション通りの光景。身長3メートルはあろうかという、緑色の肌をした醜悪なフォレスト・オーガ。そして、その前に立つ、金色の髪をツインテールにした、フリルのついた白いドレスの美少女。いかにも守られるべきヒロインそのものだ。

だが、状況は俺のシミュレーションとは、ほんの少しだけ、違っていた。


「服が汚れたでしょうがァツ!!!」


美少女は、オーガの振り下ろす巨大な棍棒を、まるで紙切れのように片手で弾き飛ばしていた。そして、その可憐な姿からは想像もつかないドスの効いた声と共に、流れるような動作で宙を舞った。

ブーツに包まれた華奢な脚が、オーガの分厚い胸板を薙ぎ払う。

刹那、音が、消えた。

いや、違う。俺の英雄級の聴覚を以てしても、聞くことが出来なかったのだ。

遅れてやってきたのは、空気が爆ぜる轟音。

美少女の蹴り一発で、レベル45のフォレスト・オーガは木端微塵になった。比喩ではない。文字通り、肉片と臓物が爆散し、赤い霧となって森を染め上げた。

ドシャァッ……。

俺の美しい銀髪に、生温かい何かが降りかかる。オーガのものだった何かだ。


「え……?」


言葉を失う俺。情報を分析する全知全能スキルが、脳内で警報を鳴らす。


【警告:理解不能な事象を検知】

【分析:対象の攻撃力、算出不能】

【脅威レベル:測定不可】


逃げたほうが、いいんだろうか。

そう思っているうちに、ゆっくりと、美少女がこちらを振り返る。返り血を浴びたその顔は、神が作った最高傑作である俺に勝るとも劣らないほど整っていた。だが、そのサファイアのような瞳は、冷え冷えとした光を宿している。

彼女は、俺の顔を値踏みするように見ると、忌々しげに舌打ちした。


「なに見てんだよダボが。見せもんじゃねえぞこら」


俺の完璧な異世界ライフプランが、ガラガラと音を立てて崩れていく。助けられる可憐なヒロイン。彼女に尊敬され、慕われ、始まるハーレム生活。

目の前にいるのは、なんだ。

蹴りで森の主を原子分解する、口の悪いゴリラじゃないか。

百歩譲って美少女なのは認めるよ。でもさ、違うじゃん。これは絶対、そういうんじゃないじゃん。

俺は、神に授かった力ではなく、現代日本で培ったオタクとしての魂の叫びを、喉の奥から絞り出した。


「チェンジで!!」

「あ゛?」


美少女が、バキバキと指の骨を鳴らしながら、一歩、こちらに踏み出してくる。


【警告:対象の敵意レベル30%→85%へ上昇】

【分析:対象の次行動予測――正拳突き】

【回避シミュレーション:成功率 0.1%】

【結果:死亡。あるいは原型を留めない何かへの変貌】


全知全能スキル使えねぇ!!


「ちょ、ま、」


恐ろしく速い正拳突きが、俺のみぞおちに向かってやってくる。

スキルのおかげで動きを捉えることは出来ている。だが、体が追いつかない。

世界を救った英雄レベルの身体能力とは一体何だったのか。


「グぼラぁッ」


情けない嗚咽を残して、俺による俺のための完璧な俺TUEEE計画は、転生初日にして、物理的に粉砕された。

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