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とある衛生兵の戦後手記  作者: 町 玉緒
1/1

終戦

今日、戦争が終わりました。


約7年。7年の月日を経て、我らグリゾニア王国はトゥルー王国へと勝利しました。


戦死者は数知れず。

私の小隊は、私と小隊長以外、全員殉職しました。


私は5年前、12の時に、孤児院から衛生兵として軍に配属されました。

自分でもなんですが、私は衛生兵としての素質があり、配属されてすぐに突撃部隊へと配属されました。しかし、突撃部隊はとても悲惨なものでした。


蛆の湧く死体。血を吹き出し倒れゆく仲間。

ツンと鼻をさす腐乱臭に、投げ込まれる手榴弾……。


今でも鮮明にその情景が蘇ります。


仲間の死をもってとった勝利という名の言い訳。私のしたことは、一体意味があったのだろうか。何故こんなことをしなければならないのか。虚しさだけが、心にズンとのしかかりました。


私は、衛生上等兵、という立場にありました。部下も少しだけいました。しかし、私は部下を守ることが出来ませんでした。


激しい後悔と、国に対する憎悪。戦争が終わり、今まで我慢してきたものがふつふつと湧き上がりました。

しかし、今はそんなことを考えている場合ではありません。

戦争が終わった今、私の役目は負傷した兵達を治すことです。

せめて、今生きている人だけでも…。

私は最後まで、職務を全うします。


「衛生兵、集ー合ーー!!!」

「本日を持って戦争は終結となった。が、我ら衛生兵の仕事はまだ終わっていない。速やかに負傷兵を回復すること!以上!」


衛生兵長が大声でそう声を掛けると、皆駆け足でテントの中へと急ぎます。しかし、テントの中は地獄のような光景でした。


恐らく、爆弾が使われたのでしょう。

四肢がもがれた重体者しかいませんでした。この戦争というのは、きっと爆弾をもってして終わったんだ、そう思うと、また虚しさが心を襲います。


「【ヒール】!【ヒール】!」


最後の力を振り絞り、血の匂いが立ち込めるこのテントの中で重傷者を回復していきます。私は回復魔法が他の衛生兵の何倍も多く使うことが出来ました。

魔力異常、というそうです。

だからこそ、沢山の人を治し、沢山の人を看取りました。


「【ヒール】!【ひー…】…る……」

「アレン衛生上等兵!大丈夫ですか!」


鼻から血が吹き出し、目の前が真っ暗になります。あぁ、どうやら力を使い過ぎたようですね…。迷惑になってしまい、申し訳ないです─────……





…──────「アレン!アレン!」

パチッ

「ジェム…衛生兵長…?」

「アレン…!」


目を覚ますと、優しそうな女性…、衛生兵長の姿がありました。


「アレン…、起きたてで申し訳ないんだけど、今人手が足りてないの…。貴方は私達の強力な戦力だから、無理しない程度に、もう少し頑張れる…?」

「えぇ。もちろんです。私は最後までお国に尽くしますよ」


ジェム衛生兵長は申し訳なさそうな顔でそう言いました。

私はもともと軍に配属された時、国に命を捧げると誓いました。だから、今更休みたいもクソも無いわけです。

でも、叶うなら、もう一度皆に逢いたい…いえいえ。今はそんなことを考えている暇なぞありません──────────…。





…───────何日経ったでしょうか。

5徹?4徹?もう分かりません。でも、あと1テントで治療が完了するのは確かでした。


「アレン!こっちは来てはダメ!」


最後のテントへ行こうとした時、衛生兵長が私のことを引き止めました。

私はそれを何となく察しました。恐らく、最後のテントの人達はもう……。




「…衛生兵、集ー合ーー!」


衛生兵長がみんなを呼び集めます。

…最後の点呼です。


「…〜35!第1衛生隊、全員います!」

「…よし。我ら第1衛生隊は、役目を全うした!本日を持って、解散!!!」


私達第1衛生隊は、本日をもち解散となりました。衛生兵の中には、家族に一刻も早く会おうと急ぎで準備するものや、仲間の死を慎み、静かに涙を流すものもいました。


意外と、あっさりと、戦争は終わりました。

まだ、実感は持てませんでした。


国は壊滅。町なんてなく、皆死屍累々としています。私は…私はこの後どうすればいいのでしょう…。

しばらく、テント前でボーッとしていると、ジェム衛生兵長がボロボロの軍服のまま、私の元へ駆け寄ってきました。


「アレン!貴方はこの後どうするの?」

「ジェム衛生兵長…」

「衛生兵長はもうやめて。これからはジェムさんでいいわ」

「ジェムさん…」

「…私は両親の元へ行くわ。もう…生きてるか分からないけど…」

「…私は家族というのがいないので…そうですね、孤児院にでも帰ってみます」

「そう…そうするといいわ」


ジェムさんには夫と、子供が2人いました。しかし、戦争の爆撃に巻き込まれ亡くなっています。ジェムさんはせめて、両親だけでも家族に会い、生きていて欲しいのでしょう……。


私には家族がいません。でも、家族と呼べるものはあったと思います。

私はクレア孤児院という所に、赤ん坊の頃預けられました。それから12まで、お世話になっていました。12の年に、戦争に引き渡された時には悲しかったですが、同時に、仕方の無い事だという気持ちが強かったです。


しかし、同じく引き渡された10人は、突撃兵となり全員死亡してしまいました。


私は、孤児院に行き、私が生きていること、仲間の勇気ある死に様を伝える義務があると思っています。


だから、私は孤児院に帰ろうと思います──────────…







…────「支度は出来た?アレン」

「はい。バッチリです」


約2日。荷造りをし、今日、ジェムさんとここを出ることになりました。

ジェムさんは山の方へ、私は孤児院のある海の近くへ。反対方向になりますが、途中まで一緒に行こうということになったのです。


「さぁ、じゃあ最後に…」

「…はい」


「「国に尽くした英霊たちに、敬礼っ!!」」


花が手向けられた墓に、敬礼をします。

これで、こことはしばらくお別れです。



さようなら、私達の戦地。



さようなら、共に戦った仲間たちよ!!





主にカクヨム様で掲載しております。

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