うさぎの球場とオオカミ新聞
むかしむかし、緑豊かな里に、ウサギたちが楽しむ野球場がありました。毎年夏になると、「跳躍の大会」が開かれ、ウサギたちは汗を流し、ぴょんぴょんとボールを追いかけました。
この大会を主催していたのは、里で一番大きな新聞社、「月影新聞」でした。月影新聞は、ウサギたちのひたむきな姿を感動的な物語にして伝え、多くの読者を集めていました。大会の様子は連日大きく報道され、勝利したウサギは里の英雄となりました。
しかし、その裏で、球場の寮では悲しい出来事が起きていました。先輩ウサギたちが、後輩ウサギたちに理不尽な暴力を振るっていたのです。夜中にこっそりラーメンを食べていた子ウサギは、何匹もの先輩ウサギに囲まれ、何度も叩かれたり、蹴られたりしました。お金を無理やり取られたり、嫌なことを強制されたりする子もいました。
被害を受けた子ウサギの親ウサギは、すぐに月影新聞に訴えましたが、新聞社はなかなか動こうとしません。「今は大会の盛り上がりが一番大事な時です」「厳しい指導の一環でしょう」と、事態を軽く見ようとしました。自分たちが主催する大会で悪い噂が広まるのを恐れたのです。
やがて、堪忍袋の緒が切れた親ウサギが、里の掲示板に真相を書き込みました。すると、これまで黙っていた他の親ウサギたちも、自分の子ウサギが被害に遭っていたことを告白し始めました。里中が騒然となり、月影新聞の評判は地に落ちました。
それでも月影新聞は、「詳細を確認中です」と曖昧な態度を取り続け、大会の開催を強行しようとしました。自分たちが作り上げてきた「跳躍の大会」という大きなイベントを手放したくなかったのです。しかし、世間の批判は日増しに強まり、ついに大会の途中で、主催者である月影新聞は、大会の中止を発表せざるを得なくなりました。
月影新聞は、ウサギたちの夢と感動の物語を語る一方で、その裏で傷つき、苦しんでいた子ウサギたちの叫びを無視し、真実から目を背けていました。それは、昔々、里のオオカミたちが戦争を起こした時、都合の悪い情報を隠し、勝利のニュースばかりを大きく伝えていた「大本営発表」の姿と重なるものでした。
オオカミたちは、「我々は常に勝利している」という嘘のニュースで里のウサギたちを鼓舞しましたが、真実は常に隠蔽されていました。そして、戦が終わった後、裁かれたのはオオカミの軍隊だけで、嘘のニュースを広めたオオカミ新聞は、十分に責任を問われることはありませんでした。
月影新聞の今回の騒動は、過去のオオカミ新聞の過ちが、形を変えて繰り返されたと言えるでしょう。都合の悪い真実を隠し、商業的な利益を優先する姿勢は、いつの時代も、多くのものを犠牲にする危険なものなのです。
ウサギたちは、跳躍の喜びを再び取り戻すために、月影新聞だけでなく、自分たちの社会全体を見つめ直し、真実を隠蔽するような仕組みを変えていかなければならないと気づいたのでした。