71 試験当日
勉強会はその後も連日続けられた。場所はもっぱらブラッドレー公爵邸だったが、気分転換にアシュトン侯爵邸やラングレー伯爵邸が使用されることもあった。
アシュトン侯爵邸では探索魔法の訓練中にアシュトン侯爵が現れて「良かったら私が教えましょうか」「私の方がライナスより上手いですから」などと提案し、顔を赤くしたライナスに「いいですから、俺が教えますから、父上は仕事に戻って下さい!」と追い出されていた。
傍から見ると気さくで良い父親なのだが、やはり思春期の息子にとっては恥ずかしいものなのだろう。
ラングレー伯爵邸では休憩時間にソフィアとジャックが挨拶に訪れて、皆から大歓迎を受けていた。
ヘレンは「皆様のお邪魔になるから、サロンには近づかないように」と言い聞かせるつもりだったようだが、クローディアの方から「皆もソフィアと会ってみたいと言ってますから」と申し出た結果である。
実際に紹介したところ、主に女性陣から「まあぁなんて可愛らしいのかしら!」「聞いていた通り、本当にお人形のようですね……!」と大絶賛で、姉としては鼻高々だ。
ルーシーは小さな子供の相手が得意なようで、かがんで視線を合わせながら、ソフィアのお喋りに優しく相槌を打っていた。エリザベスも縦ロールに興味津々なソフィアに少し触らせてあげるなどして、良いお姉さんぶりを発揮していた。
ユージィンは「夏空のような青い瞳がお姉さんにそっくりだね」と言って、ソフィアから大変喜ばれていた。正直あまり似てない姉妹だと思っていたので、クローディアとしても嬉しい限りだ。あとで父に「ユージィン殿下が、私たちのお父様譲りの目を夏空に例えていらしたわ」と伝えたところ、照れながらも嬉しそうだった。
一方ライナスはソフィアよりもジャックに夢中になって、うっかり「このままうちに連れて帰りたいな」などと口にしたので、ソフィアから警戒されていた。アシュトン家では近いうちに大型犬をお迎えすることになるかもしれない。
そんな風にして数日間が経過して、ついに試験当日となった。
幸いなことに、勉強会の成果は一科目目の古代語から如実に感じられ、次の歴史も薬学もすいすいとペンが進んでいく。数学はクローディアにとっても歯応えのある難問で、解けるまで若干手間取った。終わったあとは教室中から「どうしましょう、後半は全然分かりませんでしたわ」「俺も今回ちょっとまずいかも」などという声が上がったので、これは本当に差がつくかもしれない。クローディアが教えた仲間たちはどうだったろうか。
昼食は各自の席でとる決まりなので、いつものようにお喋りに興じることもなく黙々とサンドウィッチを咀嚼して、少し休んでから午後のテストがスタートする。
そして最後の科目をやり終えて、疲労困憊になりながら、第一日目が終了した。
二日目は魔法実践の実技テストがあったが、エリザベスに習った防音結界にライナスに習った探索魔法、いずれも問題なくこなすことができたと思う。攻撃魔法のテストがわざわざ屋外で行われたのは、まず間違いなくクローディアが原因だろう。もちろん消し炭すら残らないレベルで的を綺麗に消滅させた。採点官はモートンと補助教員の二人が担当しているので、公平に採点してもらえると信じたい。
三日目は大嫌いな領地経営学があったが、例年通りの無味乾燥な暗記問題だったので、さくさくと解答欄を埋めて終わらせた。
そして三日間の日程を終え、王立学院の定期試験は終了となった。あとは結果発表を待つばかりである。
帰宅すると侍女のサラが困惑した表情で、「お嬢様、ブラウン先生から封書が届いております」とクローディアに告げた。
続いて差し出された封筒の中身を確認してから、クローディアは満足の笑みを浮かべた。
「良かった、ちゃんと間に合ったわね」
「なんの書類なのかお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「レナード侯爵夫人へのプレゼントよ。明日のお茶会で、お近づきのしるしに差し上げるつもりなの」
「その書類をですか?」
「ええ、そうよ。きっと気に入ってもらえるわ」
侯爵夫人がクローディアに会いたがる動機がこちらの推測通りなら、きっとなによりも喜んでくれるに違いない。
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