63 試験に向けて
教室に入ると、すでにルーシーが席についていた。彼女は朝から勉学に余念がない様子だったが、クローディアに気付くと教科書を閉じて笑顔で声をかけてきた。
「お早うございます、クローディア様。この本とても面白かったです」
そう言って取り出したのは、先日クローディアが貸した恋愛小説だ。
「お早うございます、ルーシー様。お気に召してなによりですわ。それはここ最近買った中でも一番のお勧めですの」
以前は借りるばかりだったクローディアだが、最近では自分でも色々購入して、ルーシーとの貸し借りを楽しんでいる。前世ではあまりにも高価だったり、置き場所がなかったりして欲しい本を諦めることも多々あったが、今生では書店主に「この作家は気に入ったから、既刊を全部そろえて持ってきてちょうだい。ええもちろん、絶版のものも全部よ全部。私家版があるならそちらもお願い。費用に糸目はつけないわ!」などと注文できるのが素晴らしい。いわゆる大人買いならぬ貴族買いというやつだ。
「お勧め通り素敵でしたわ。特に黒衣の辺境伯が格好良くて、ヒロインを守るために右手の封印を開放するシーンには思わず泣いてしまいました」
「あそこは本当に名シーンだと思いますわ。続編では彼の左目の秘密もあきらかになりますから、明日持ってきますわね……と言いたいところですけど、今はやめておいた方がよろしいかしら?」
「ええ、すごく読みたいですけど、遠慮しておきますわ。今回は三位以内を目指してるんですの。奨学金の条件は十位以内ですけど、やっぱり余裕があった方がいいでしょうし」
「ルーシー様も将来のために頑張ってますのね」
「ええ、今までは何のために頑張っているのか分からなかったんですけど、今は目標ができたので勉強するのが楽しいんです」
ルーシーはそう言ってはにかむように微笑んだ。
王立学院における学業成績は、ユージィンの留学中はアレクサンダーとオズワルドが首位を争っていたが、今は首位がユージィン、二位はアレクサンダーとオズワルドのいずれか、という形に変化している。
ルーシーは今まで四位から七位の辺りをうろうろしていたそうだが、今回は半ば固定化している上位三名の中に割って入ろうというのだから、その意気込みが伝わってこようというものだ。
ちなみにライナスもルーシーと同程度だが、今回こそはオズワルド・クレイトンに勝ちたいと語っているので、今回の試験結果はなかなか混沌としたものになるかもしれない。
エリザベスは学年が違うために成績に関する情報はないが、あの尊大さと自信満々な態度からして、おそらくそれなりに優秀なのだろう。
(グループの中で底辺に近いのは私だけよね……。頑張ろう、うん、今回は本当に頑張ろう)
そうこうしているうちに鐘が鳴って担当教師が入室してきた。
一限目は歴史で、通常通りの授業のあとに試験範囲が発表された。教師曰く「教科書に載っていないことを問う問題も若干あるかもしれませんが、きちんと授業を聞いていれば満点が取れるはずです」とのことで、教室からは不安の声が沸き起こった。ちなみにクローディアは記憶を取り戻す前は全く聞いていなかったが、その頃の授業内容についてはすでにルーシーに教えてもらっているので死角はない。
二限目の数学では、担当教師が「今回はちょっとレベルの高い問題も入れますので、皆さん頑張ってくださいね」と言いながら、クローディアに向かってにやりと笑いかけたので、クローディアもにやりと笑い返した。得意科目で他の生徒と差をつけることができるのは、クローディアとしても大歓迎だ。
そして三限目はハロルド・モートンの担当する魔法学だったわけだが、試験範囲の発表のあと、とんでもない情報がもたらされた。
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