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51 変わったことと変わらないこと

 翌日。クローディアは教室前でユージィンを捕まえて、早速昨日の礼を述べた。


「ラフロイ侯爵から聞きましたわ。私が信頼に足る人物であると侯爵に伝えて下さったのでしょう? 本当にありがとうございました」


 恭しく頭を下げるクローディアに対し、ユージィンは「礼には及ばない。私は王族としてやるべきことをやっただけだよ」と照れたような表情で言った。


「正規の報告ルートを無視するような真似はしたくなかったが、ことが邪神絡みだからね。正確な情報が魔術師団に伝わらなかったら、国民を危険にさらすことにもなりかねない」

「ええ、もちろん分かっておりますわ。殿下が私的な理由で王族のコネクションを使うような方ではないことは、私としても重々承知しております。ですが、それでもお礼を言わせてくださいませ。おかげさまで宮廷魔術師の内定も決まりそうな感じですの!」


 ラフロイ侯爵がいわく、しばらくは地下神殿の捜索にかかりきりになるため正式な決定は当分先になりそうだが、他に有力な候補もいないし、会議にかけられればまず間違いなく通るだろう、とのこと。


「それは良かったな。少し気が早いかも知れないが、おめでとうと言わせてもらうよ。目指す動機はともかく、君は宮廷魔術師に向いていると思う。――その凄まじい魔力だけじゃない。君には誰にも負けない気概がある」

「ありがとうございます。自分でも気概というか、根性はある方だと思いますの」


 いくら邪険にされてもものともせずに、アレクサンダーを追い回していたクローディアである。根性は令嬢界トップクラスと言っても過言ではない。


「それに目指す動機はアレでしたけど、仕事自体もなかなか面白そうだと思ってますのよ? 正式に魔術師団入りしたら、思う存分力を発揮させていただくつもりですわ!」


 クローディアは力強く宣言した。




 それからしばらくの間、何事もなく日々は過ぎた。クローディアはこれまで通り勉強や魔法の訓練に精を出し、ルーシーとお喋りを楽しみ、昼休みはユージィンらと合流して五人で食事をともにした。もともとは演習のために始まった昼食会だが、演習が終わったあとも終わらずに続いていくようで、クローディアとしては嬉しい限りだ。

 そして帰宅後はソフィアやジャックと大いに戯れたあと、家族との晩餐を楽しんだ。休日には義母ヘレンと買い物に出たり、ヘレンの主催するお茶会に顔を出すこともあった。


 演習前とあまり変わり映えのしない日常だが、それでも多少の変化がないわけではなかった。

 例えば一般生徒のクローディアに対する態度が明らかに変化した。廊下を歩いているだけで周囲から好意的な視線を感じたし、頬を紅潮させた下級生たちから挨拶されることもあった。巨人退治の一件が「英雄的行為」として学院内に広まっているためだろう。

 それはクローディア個人に限った話ではなく、他の演習メンバーも大なり小なり空気の違いを実感しているようだった。


 ことに顕著だったのはエリザベスで、なんでもリリアナの叱責以来離れていた取り巻きが再び戻ってきたという。もっともエリザベス曰く「突き放すわけにもいかないから表面上は仲良くしてるけど、やっぱり信用できないわよ」とのこと。一方、嫌がらせをしていたジェイン・アデライドの一派はなにやら肩身が狭い様子で、エリザベスのことを露骨に避けるようになったらしい。


 ライナスは学院内よりも家庭内における扱いの変化が大きかったということで、「なにかにつけてお茶会やら晩餐会やらに引っ張り出されては巨人と戦った時の話を披露させられるんだから、もううんざりだよ」とぼやいている。とはいえルーシーの父親に比べれば、ライナスの両親の反応は実に微笑ましいといえるだろう。


 ルーシーの父親は演習結果について「エヴァンズ侯爵のご子息を差し置いて優勝するなんて体裁が悪いだろう!」と娘を叱責したというのだから、本当にどうしようもない。

 もっともルーシー本人は薬師への勉強を本格的に始めたこともあり、あまり気にしていないのが救いである。なんでも薬学教師から「興味があるなら放課後にもう少し専門的なことを教えましょうか」と申し出てもらったとのことで、以来、週に三日ほど個人授業を受けている。ルーシーは「進学についてはなにもお伝えしてないんですけど、授業が終わるたびにあれこれ質問していたので、先生の方は薄々察してらっしゃるのかもしれません」と嬉しそうに微笑んでいた。


 そしてユージィンは――ユージィンは自分のことをあまり話さないため、彼を取り巻く状況については正直よく分からない。ただライナスがこっそり教えてくれたところによれば、高位貴族たちの間ではユージィン・エイルズワースの評価は劇的に上がっているとのことだった。

 ことに一部界隈では国王によるあまりの冷遇ぶりから「ユージィン殿下は陛下のお胤ではないのでは」「ヴェロニカ王妃の幽閉は、不貞の子を産んだ罪によるものではないか」などと疑う声もあったそうだが、今回光の神の加護を受けているのを証明したことで、その疑惑は完全に払しょくされたらしい。まさに怪我の功名といったところだが、では真の理由とはなんなのか。それとなくクローディアが訊いてみたところ、ライナスですら知らされておらず、おそらくユージィン自身も知らないのではないか、とのことだった。

 ただ巨人騒動のあとも国王の態度が変わっていないらしいことや、王妃の幽閉が継続中であることを鑑みると、不貞の子云々の話ではないことは確かだろう。


 そんな風にして半月余りたったころ、宮廷魔術師団から「闇の森の徹底調査を行った結果、立ち入り禁止区域で邪神の地下神殿跡を発見した」との発表があった。地下神殿には石の巨人が安置されていた形跡があることや、ごく最近何者かが神殿内に侵入した跡があること、その人物が巨人を目覚めさせた可能性が高いことなども併せて公表したため、学院生徒たちの間に一大センセーションを巻き起こした。

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― 新着の感想 ―
読み返してみて、このエピソードあたりで、 「今回の石像は間違いなく邪神の眷属であり、ユージィンの光の加護があってクローディアが倒すことができたものと認める、とラフロイが公式発表した、との記事が、新聞各…
宮廷勤めの人たちやるじゃん!
令嬢界トップクラスの根性(笑)薬学教師は教員の鑑ですね。それにしても、宮廷魔術師を目指してるとか内定決まりそうとか、ペラペラ廊下やそこらで話しちゃうのはどうかと。欠員補充の件はまだ内々の話しでは…?
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