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50 ラフロイ侯爵の提案

「頭を上げてくださいませ。責任者であるモートン先生の報告を信用なさるのは当たり前のことですもの、侯爵様はなにも悪くはありませんわ」


 クローディアは言外に「悪いのは演習責任者でありながら偏った報告をあげたハロルド・モートンである」と匂わせながら微笑んだ。


「そう言ってもらえるとありがたい。モートン君には期待していたんだが、少々見込み違いだったようだ」


 ラフロイ侯爵はそう言って嘆息した。


「……しかしこれではっきりしたな。君の遭遇したのは間違いなく邪神の眷属である石の巨人だ。実を言うと、闇の森にはまだ調査の足りていない場所が広く残されていてね。そのどこかにかつて邪神を祭っていた地下神殿があるのだろう。未調査のところは立ち入り禁止区域に指定されているはずだが、禁を破って入り込んだ人間がいたんだろうな」

「おそらく学院生徒でしょうね。実践演習で闇の森一帯に学院生徒が散っていましたし、中には規則違反をためらわない者もいますから」


 クローディアは生徒会の面々を思い浮かべながら言った。


「確かに、学院生徒の可能性が高いだろうな。しかし踏み込んだ生徒らは処罰されるのが怖くて口をつぐんでいるようだ。気持ちは分からんでもないが、せめて邪神の地下神殿跡がどこにあるかだけでも教えてほしいものだな。その生徒たちが保身に走ったおかげで、我々はこれから大々的に捜索を行わねばならん」

「このアーティファクトを使って演習に参加した生徒全員を調べるわけにはいきませんか? 参加生徒に『魔法実践演習であった出来事について嘘偽りなく答える』と誓約させたうえで、地下神殿に足を踏み入れたかどうか質問すれば、犯人は自ずと判明するのではないでしょうか」

「あいにくだが、このアーティファクトはそこまで便利なものじゃない。これが効果を発揮するには、使用者があくまで自発的に誓約する必要がある。こちらが誓約を強制しても、それが本人にとって不本意なことならアーティファクトは発動しない」

「誓約を嫌がるのは、疚しいところがあるのと同義では?」

「それが、そうとも限らないのが厄介なところでね。疚しいところがなかったとしても、アーティファクトを使った取り調べを受けること自体に抵抗がある人間はけして少なくないんだよ。そういう人間が不承不承誓約に応じたとしても、アーティファクトが光ることはないだろう」

「そうですか……。なかなか難しいんですね」

「ああ。案外厄介なものなんだ。その点、君はまるで抵抗がないようだから助かったよ」


 ラフロイ侯爵はそう言って苦笑した。便利な物だと思っていたが、意外と癖があるようだ。アーティファクトが光ったとき、侯爵が「よし、成功だな」と言っていたのはそういうことか。


「――まあ、それでも絞る程度のことは出来るから、一応申し入れるつもりだが、おそらく学院側が許可しないだろうな。代々院長職を任されているエニスモア侯爵家は学院の独立性を重んじる傾向があるし、まだ学院生徒と決まったわけでもないのに外部の人間が生徒を尋問することは、それこそ王命でもなければ応じないだろう」

「それは……確かにそうかも知れませんわね」


 王立学院の伝統を別としても、現学院長のケイト・エニスモアはリリアナを娘のように可愛がっているし、魔術師団がリリアナやそのお友達を尋問をすることをけして許さないだろう。国王の方は言わずもがなだ。


「……さて、訪問の目的はこれで終わったわけだが、実はもう一つ君に確認したいことがある」


 ラフロイ侯爵は軽く咳払いしてから言葉を続けた。


「君はラングレー伯爵家の嫡女と聞いているが、卒業後はそのまま領主となるつもりかね?」

「以前はその予定でしたが、今はむしろこの魔力を生かした仕事ができたらと考えています。ラングレー家の跡取りには利発な妹がおりますし、私は領主としてラングレー領を治めるよりも、魔力を生かした仕事に就いた方が、世の中のお役に立てると思うのです」


 クローディアは殊勝な顔をして返答した。その方が世間の役に立てるのは確実なので、別に嘘はついてない。


「そうか……。これは内々の話だが、実はもうじき宮廷魔術師に一人分の空きが出る予定なんだ。君は素晴らしい魔力を持っているし、他の生徒たちを守って巨人たちと対峙する気概もある。こうして話した印象では、人柄の面でも特に問題はないようだ。私としては、新たなメンバーとして君を推薦したいと思っているんだが、君はそれを希望するかね?」

「はい、是非!」


 クローディアは満面の笑みで即答した。

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― 新着の感想 ―
お嬢様よかったですね(*´ω`*) あとは、横槍がはいらなければ。。。
生徒の安全を確保しなきゃならない責任を引き継ぎ無しで放棄した責任者の報告を重視するのはそれはそれで思考停止してるんじゃないかな。 こんなタイミングで極秘任務言い渡す学院長も。極秘任務が本当ならの話です…
陰険カスの企みの結果、コネができたでござるw
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