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42 地下神殿の巨人像

(なんでこんなところに……あれが動くのって、半年も先のことじゃなかったの?)


 クローディアは混乱の中で自問した。

 地下神殿の巨大な石像が動く場面、それ自体は作中にもちゃんと存在する。

 実践演習の半年後。邪神と一体化したクローディアが顕現する予兆として、狂った魔獣たちが各地で集団暴走を繰り返したり、地震や竜巻といった天変地異が起こったりして人々を恐怖に陥れるのだが、あの巨人像も事前の災厄の一つとして登場したのを記憶している。

 地下神殿にあった十三体の石像がそろって地上に姿を現し、村々を踏みつぶしていく様は実に迫力満点で、読者間でも「この巨人ってもしかして地下神殿の石像?」「ほんとだ、地上で見ると改めてでかいな」「なんか怪獣映画っぽい」などとちょっとした話題になっていた。


 しかしそれはあくまで邪神クローディアの「この世を滅ぼせ」という呼びかけに応えた結果であり、魔法実践演習の段階では物言わぬただの石像でしかなかったはずだ。大人しく地下神殿にたたずんでいるはずの巨人がなぜ地上にいるのか。なぜ生徒たちを襲っているのか。

 魔獣たちは正常で、天変地異も起きていないことからして、別の邪神が復活するとも考えづらい。ならばこの巨人はなんらかのハプニングによって、たまたま目覚めてしまったということなのか。巨人のいた地下神殿で一体なにがあったのか――などと考えている場合ではない。


「なんだか分からないけど、とりあえず倒しますわね!」


 クローディアは風魔法を使ってその巨体を生徒たちの反対側に弾き飛ばした。そして生徒たちから離れたところで、すかさず風の刃を放って両手両足を切断すると、巨人はどうと地響きを立ててそのまま地面に倒れこんだ。

 通常のゴーレムならばこれだけで活動停止するはずだが、この巨人はこれで終わりとはいかないのが厄介なところだ。原作設定の通りなら、再生核を潰さない限り、何度でも復活してしまうのである。


(ええと、光ってるところが再生核なのよね、確か)


 前世の記憶を辿りながら、横たわる石像の全身を隈なく観察したところ、額に嵌めこまれた宝石が日を受けて煌めいているのが目に留まる。クローディアはすかさずそこに全力で爆炎魔法を叩き込み、宝石が頭ごと消滅したのを確認してから「終わりましたわ!」と笑顔で宣言した。


「なんというか、君は本当にすさまじいな……」


 ややあって、ユージィンが苦笑しながら感想を述べた。




「ありがとうございます。本当に助かりました……」


 エリザベスが張った結界の中、ルーシーのポーションで人心地ついた生徒たちは、涙ながらに礼を述べた。そしてぽつぽつと事情を語り始めた。

 なんでも昼食を取っていたところ、突然地面が盛り上がり、割れた地表からあの怪物がぬっと姿を現して、襲い掛かってきたという。身体強化で逃走を試みたが追いつかれ、反撃を試みるも歯が立たず、ついには防御結界のうちに籠城する羽目になったらしい。


「炎も氷も効かないし、剣も風の刃も固すぎて歯が立ちませんでした。結界の中に籠っててもじり貧で……もうこのまま死ぬのかなって思っていたところに、先輩方が来て下さったんです」


 聞けば彼らはクローディアたちより一学年下の生徒で構成されたグループらしい。同学年の中ではトップクラスの猛者ばかりで、意気軒高として演習に参加したのはいいものの、あの化け物に遭遇して為す術もなく敗退したというわけだ。


「まさか魔法実践演習がここまで過酷だとは思いませんでした……!」


 そう言って肩を震わせる下級生に、ライナスが「いや、あんなのは特殊だからな? 俺もあんな化け物がいるなんて聞いたことないし!」と慌てて訂正を入れた。


「エリザベス、お前もあれは知らなかったろ?」

「当たり前でしょ。去年はあんな化け物出なかったわよ。出ていたら学院だって生徒だけで魔獣狩りなんてさせないはずだわ」

「……本当に、あれはいったいなんなのでしょう。大きさもですけど、見た目も普通のゴーレムとは全然違っていましたよね。普通のゴーレムは『荒削りの岩でできた人型』といった感じですけど、あれはまるで彫刻家が作った芸術作品のようでした」


 ルーシーが困惑したように首をかしげる。


「ああ。スクロールをかざしても記録できないのも奇妙だし……どうもあれは通常の魔獣とは全く別種の存在のようだな」


 ユージィンはそう言ってから、ふと思いついたように「――そういえばクローディア嬢はあれについてなにか知っているのか?」と問いかけた。


「え、いえ、まさか! あんなもの見たこともありませんわよ?」

「そういえばクローディアさんは、巨人の手足を切ったあとでわざわざ頭を潰していたわね。ゴーレムのたぐいは頭を潰しても意味がないってことは知っているでしょうに。あれってなんの意味があったのよ」

「あれは別にその、なんとなく、そういう気分だっただけですわ。こう、なんとなく、頭を潰したいなって思ったんですの、それだけです」


 クローディアがそう言って誤魔化すと、エリザベスは「そ、そう。なんとなく頭を潰したい気分だったの……」と引きつった笑みを浮かべ、ライナスは「その破壊衝動は、くれぐれも人に向けんなよ……」と青ざめた顔で忠告してきた。

 なにやら誤魔化し方を間違えたような気もするが、深く考えないことにした。

 そして結局答えは出ないまま、話題は次のテーマに移った。

 すなわち「これからどうするか」である。


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
なんとなく頭を潰したくなる系お嬢様(*´ω`*)
なんとなく あたまをつぶしたい きぶん… ww
助けられた後輩生徒「そしたら、クローディアのアネゴが1人で風魔法でそのゴーレムの手足をもいでなぁ 止めに爆炎魔法をぶっぱなしてゴーレムの頭部を木っ端微塵にしてもうたんじゃ」 後にロケマサ…いやバクク…
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