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41 救援信号

 ややあって、ライナスが「そんなの、軽々しく口にすることじゃないだろ」と怒ったような口調で言った。


「あら、軽々しく言ったつもりはありませんわ。宮廷魔術師としてどなたにお仕えすることになるかは、私にとっても重大な問題ですもの」


 クローディアはそう言い返すと、ユージィンの方に向き直り、「私としては、ぜひともユージィン殿下にお仕えしたく存じます」と言葉を続けた。


 国王に疎まれているユージィンが王座を目指すのは、おそらく茨の道である。保身のためなら早い段階で身を引いて、『リリアナの立太子を支持する』とでも表明した方が賢明だ。

 それでもクローディアはユージィンに王座を目指して欲しかったし、「王座を目指す」という明確な言葉をユージィンの口から聞きたかった。

 めでたく宮廷魔術師になれたとしても、女王リリアナと王配アレクサンダーに仕える羽目になるのでは素敵な未来とはいいがたいし、なにより客観的に見て、リリアナよりもユージィンの方が王座に相応しいと思えるからだ。


「君は……本当にはっきり言うんだな」

「今日ここでお聞きしたことは、けして誰にも漏らしませんわ。他の方々も漏らしたりはしないと思います。どうか今ここで、殿下の本音をお聞かせいただけないでしょうか」


 クローディアはひたとユージィンを見据えて言った。


「……分かった。それでは私の本音を伝えておこう」


 ユージィンはため息をつくと、観念したように言葉を続けた。


「クローディア嬢、私は物心ついたころから良き国王になるために努力してきたし、王位を望む気持ちは当然にある。しかし国王にはなりたい者ではなく、なるべき者、相応しい者がなるべきだ。そして私は――」


 しかしユージィンが言い終わらぬうちに、甲高い音が辺りに響いた。続いて音のした方角から、赤い光球が打ち上がるのが目に映る。

 それは誰かが助けを求めていることを示す、救援信号に他ならなかった。




「近いな。ライナス、正確な位置と状況を割り出してくれ」

「はい!」


 すぐさま探索魔法を展開させたライナスは、ややあって「ここから三キロほどの地点で生徒五名が襲われているようです」と報告した。


「襲っているのはゴーレム……にしては大きすぎるし、なにか巨大な無機物のようですが、すみません、正体が良く分かりません」

「大きすぎるって、どれくらいなのよ」

「下手すりゃ十メートルくらいありそうだ」

「馬鹿言わないでよ、この辺にそんな化け物いるはずないでしょ!」


 通常のゴーレムは三メートルから四メートル程度であることを思えば、十メートルは破格である。


「知らねぇよ! 探索魔法に引っかかったんだよ!」

「二人とも、喧嘩してる場合じゃありませんわよ。取り敢えず助けに行かないと」

「クローディア嬢の言う通りだ。ライナス、案内を頼む」


 魔法で身体能力を底上げした一行は、ライナスの先導のもと、三キロを一気に駆け抜けた。身体強化魔法は魔力消費が大きいため、通常の移動では使っていなかったが、今は非常事態なので仕方がない。

 到着すると、果たしてそこには「巨大な無機物」に襲われている学院生徒たちの姿があった。


(え、これって……)


 眼前の光景に、クローディアは目を疑った。

 ライナスが話した通り、十メートルはあろうかという石造りの巨人が膝をついて、地面に向かって何度も拳を振り下ろしている。拳の先には学院生徒たちが互いに寄り添いながら、かろうじて結界を維持している状況だ。すでに魔力が限界なのか、防御結界は今にも打ち破られそうな気配である。

 しかしクローディアをとまどわせたのは、巨人の異様さではなく、既視感だった。


(なんで……なんであの巨人がここにいるのよ)


 少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』において、一角兎を追うリリアナ達は地下迷宮へと迷い込み、様々な冒険の果てにかつて邪神が祀られていたと思しき地下神殿跡へとたどり着く。

 そこでリリアナ達が目にしたのは生贄を捧げるための不気味な祭壇や、山と積まれたしゃれこうべ、そしてそれらを取り囲むように立ち並ぶ巨大な石像――そう、今クローディアの目の前で拳を振るっているのは紛れもなくあの石像、祭壇を取り囲むように立ち並んでいた十三体のうちの一体に他ならなかった。

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― 新着の感想 ―
そらぁ・・・ クローディアがゲームの様に絡まなかったから全然王女が成長しなかったんじゃ?
王女殿下がなんかしたでしょこれーw
こんなふうにザクザク斬り込むクローディアが大好きです。 女は空気読んで控えめに、とか遠慮して優しい言葉だけかけるべき、相手を追い詰めずにフォローしろ!とか現代にもあるクソくっだらない不文律をぶっ飛ばし…
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