38 当然優勝するつもりですわよ?
「――まあ優勝は間違いないとして、あとはどれだけ二位以下を引き離して、ぶっち切りの成績を取れるかですわね」
クローディアが食後のフルーツをつまみつつ私見を述べると、ライナスが「優勝間違いなしって……また随分な自信だな」と呆れたような声を上げた。
「あら、私は当然優勝するつもりですわよ? ライナス様は違いますの?」
「そうよライナス。情けないこと言わないでちょうだい。このエリザベス・ブラッドレーが加わった以上、優勝以外あり得ないわよ!」
二人がかりで責め立てられて、ライナスは「そりゃ俺だって優勝したいけどな……」と複雑な表情を浮かべた。
ライナスが懸念しているのはリリアナ達生徒会メンバーの存在だろう。
リリアナはクローディアほどではないにせよ、ずば抜けた魔力量の持ち主だし、アレクサンダーは剣も魔法も使える優等生。フィリップも剣術のトップだし、オズワルドやダミアンも高位貴族に相応しい魔力を備えている。ゆえにライナスの気持ちも分からないではないのだが、クローディア自身は彼らのことをまるで警戒していなかった。なんとなれば、少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』における魔法実践演習のエピソードを記憶しているからである。
前世の記憶によれば、リリアナたちは兎型魔獣のあとを追っているうちに立ち入り禁止区域に入り込み、怪しげな洞窟を発見する。そして「せっかくだから、ちょっと探検してみましょうよ!」というリリアナの提案のもとに中に入った一行は、そのまま地下迷宮に迷い込み、様々な冒険の果てにかつて邪神が祀られていた地下神殿跡へとたどり着くのである。
生贄を捧げるための不気味な祭壇や、山と積まれたしゃれこうべ、それらを取り囲むように立ち並ぶ十三体の巨大な石像のインパクトは絶大で、どこかお伽噺のようだった「邪神」の存在が、初めて生々しく感じられたエピソードとして読者の間でも話題になった。
発見場所が立ち入り禁止区域だったこともあり、リリアナたちは地下神殿のことを誰にも話さなかったため、この発見それ自体は物語の流れに大きな影響を与えていない。しかしリリアナはこれをきっかけに邪神の存在に興味を抱き、自分からあれこれ調べるようになる。そして数か月のち、邪神クローディアが顕現した暁には、得られた知識をもとにリーダーシップを発揮して、見事にこれを討ち果たすのである。
つまり実践演習のエピソードはその後の邪神騒動の「前振り」として機能しているわけだが、邪神騒動を起こす予定のないクローディアからすると、割とどうでもいいことだ。重要なのはリリアナたち一行は地下の冒険にかまけていたため、魔獣狩りは「兎型魔獣を一体倒しただけ」という実に情けない結果に終わること、その一点に尽きる。
その点については、オズワルドが「この演習はリリアナ殿下の凄さを世間にアピールする良い機会だったのに」と悔しがったり、当のリリアナが「もうオズったら、そんなのどうだっていいじゃない」と笑い飛ばしたり、フィリップが「リリアナ様らしいぜ」とにやけたり、アレクサンダーが「そんな無欲なリリアナ様だからこそ――」と顔を赤らめたり、ダミアンが「だからこそ、なに?」と首を傾げたりするわけだが、そちらの方もどうでもいい。
ともあれリリアナたちが地下で冒険を楽しんでいる間、自分たちは本来の魔獣狩りで大いに点を稼いでやろうではないか――クローディアはそう意気込んだ。
魔法実践演習でとんでもない騒動が起きることなんて、そのときはまるで予想すらしていなかったのである。





