34 波乱の船出
「――昨日ダミアンにあの一件を謝罪しました。ダミアンは私の謝罪を受け入れると言っておりました。お疑いならダミアンに直接ご確認くださいませ」
固い表情で告げるエリザベスに対し、ユージィンは「その必要はないよ」と穏やかに微笑んだ。
「君は嘘をつくような人ではないからね」
「……ありがとうございます、ユージィン殿下」
「こちらこそ、私たちのグループに参加してくれて嬉しく思うよ、ブラッドレー嬢。――それじゃ、知っているとは思うが、改めてメンバーを紹介しておこう。ライナス・アシュトン、探索魔法が得意だ」
紹介されたライナスが「ん」と軽くうなずくと、エリザベスも嫌そうな顔で頷き返した。
「ルーシー・アンダーソン嬢、ポーション作りの名手だ」
ルーシーは「よろしくお願いします」としとやかにお辞儀をし、エリザベスも「よろしく」と軽く頭を下げた。
「それからクローディア・ラングレー嬢、素晴らしい魔力量で、攻撃魔法の達人だ。付け加えると、君をグループに誘おうと提案したのも彼女なんだ」
「え、この子が、ですか?」
エリザベスはあからさまに動揺の色を浮かべながら、クローディアをまじまじと見つめた。クローディアはまじまじと見つめ返した。
ややあって、エリザベスは軽く咳払いした。
「……貴方、確かラングレーさんとか言ったわね」
「ええ、クローディア・ラングレーですわ」
「そう……。それで、あの」
「はい、なんでしょう」
「だから」
言い出しかねているエリザベスに対し、クローディアは助け舟を出すことにした。
「ブラッドレー様、別にお礼なんておっしゃらなくてよろしいんですのよ?」
クローディアは柔らかな笑みを浮かべて言った。
「私はただ、いじめられているブラッドレー様があんまりお気の毒だったので、義侠心に駆られてしまっただけですわ!」
「だから! 私はいじめられてないって言ってるでしょう? 私はただ、貴方たちのために参加してあげようって思っただけよ!」
エリザベスは真っ赤になって反論すると、「ねえアンダーソンさん、貴方、『どうか私たちのグループに入ってください。ブラッドレー様の結界魔法が必要なんです』って、私に懇願してきたわよね?」とルーシーに向かって問いかけた。
「え、あ、はい」
「ルーシー様、そこまで気を使わなくてよろしいんですのよ?」
「え、いえ、その」
「二人とも、アンダーソン嬢を困らせるな」
ユージィンが呆れたように窘める隣で、ライナスがぼそりとつぶやいた。
「だから俺は加入に反対だったんですよ……」
波乱の船出ではあるが、ともあれこれでめでたく五人のメンバーがそろったわけだ。チームワークはともかくとして、個々の能力からみれば、なかなかバランスの良い、頼もしいメンバーではなかろうか。
昼休みのうちに申し込みを終えてしまおうということになり、五人は連れだって魔法科準備室へと赴いた。ところが途中の廊下で、ふいにライナスが足を止めた。
「面倒な奴らが来たな」
彼の視線を辿ると、ちょうど生徒会の面々が準備室から出てきたところだった。
会長のアレクサンダー・リーンハルトに、副会長のリリアナ・エイルズワース、書記のオズワルド・クレイトン、会計のダミアン・ブラッドレー、そして庶務のフィリップ・エヴァンズ。おそらく彼らも演習の申込みに来たのだろう。
「……確かに面倒くさい相手ですわね」
クローディアも同意した。ユージィン、ルーシー、エリザベスからは同意の言葉こそなかったものの、それぞれ微妙な表情を浮かべている。
暗黙の了解で足を止め、彼らが立ち去るまでやり過ごそうとしたのだが、あいにくアレクサンダーがこちらに気づいたらしい。
「クローディア、なんでお前がユージィン殿下と一緒にいるんだ」
アレクサンダーはこわばった顔で問いかけた。