31 五人目のメンバー
ブラッドレー公爵家は結界魔法を得意とする家柄であり、その嫡女たるエリザベス・ブラッドレーも結界魔法が大の得意だったはずである。彼女はクローディアたちより一学年上の十七歳だが、魔法実践演習は三学年共通で行われるため、グループを組むことに支障はない。
そしてなによりエリザベスがクローディアと同グループになりさえすれば、クローディアを「あの化け物みたいな子」と恐れていたジェイン・アデライドらは嫌がらせを控えるのではなかろうか。
プライドの高いエリザベスはクローディアが単独で誘っても頷かないかもしれないが、王族のユージィンも一緒だと聞けば喜んで応じることだろう。
クローディアがその辺りの事情を説明しつつエリザベスの加入を提案したところ、さっそくルーシーから賛同を得られたが、そこにライナスが猛然と異を唱えた。
「俺は反対だな。エリザベスとは従兄弟同士で多少付き合いがあるんだが、あいつは昔から性格がきつくて尊大でどうしようもない。あいつを入れるくらいなら、俺が結界も担当した方がよっぽどマシだ」
「ライナス様はそれで良くても、エリザベス様のおかれた状況はどうなりますの?」
「大丈夫だ。あいつは嫌がらせに負けるようなタマじゃない」
「なんですの、その無駄な信頼感」
「それに……ユージィン殿下がエリザベスとグループを組んだという噂が広まったら、殿下があいつに肩入れしているように思われかねない。王族が公爵家の内紛に首を突っ込むのはまずいだろ」
その指摘に、クローディアはぐっと言葉に詰まった。
クローディアにしてみれば、「それを言うならリリアナ殿下がダミアン様に肩入れしたのがことの発端ではありませんの?」と言い返したいところだが、それは口にするべきことではない。
リリアナとユージィンでは立場が違う。国王の絶対的な庇護のもと、心のままに振舞うことを許されているリリアナと違って、ユージィンは少しでも瑕疵があれば放逐されかねない状況だ。そのユージィンが公爵家の内紛に介入した風に映るのは確かに危険かもしれない。
「……申しわけありません。私が軽率でしたわ」
クローディアは素直に謝罪した。ユージィンに迷惑をかけるのは本意ではないし、彼女をグループに迎え入れるのはあきらめた方が賢明だ。
とはいえエリザベスの状況をこのまま放置して良いものだろうか。同グループに入れるのが不可能ならば、他に取れる方法は――などと考えてあぐねていたわけだが、クローディアの思考はユージィンの「私はブラッドレー嬢を勧誘するのに賛成だ」という科白によってあっさり断ち切られた。
「ライナス、お前の心配は分かるが、リリアナの言動のためにブラッドレー嬢がそんな状況に陥っているなら、兄の私がなんとかするのが筋だろう」
「しかし殿下――」
「ただし、ブラッドレー嬢の加入にはひとつ条件を付けさせてもらいたい。彼女にとっては受け入れがたいことかもしれないけどな」
ユージィンはそう言って苦笑いを浮かべた。