26 将来の展望
公爵家に二人の結婚をあきらめさせるには、クローディアが跡取りでなくなれば良い――我ながら名案だと思ったのだが、父の反応は「ううん、しかし公爵家がなぁ……」という実に煮え切らないものだった。
「公爵家との契約には、私を跡取りにすることまで定められているのですか?」
「いや、そこまではっきりとは書いてない。書いていないが、『相応の理由がない限りはクローディアを廃嫡しない』との一文は入っていたはずだ。この手の婚約では一種の定型文だから、それは入れざるを得なかった」
「そうですか……。相応の理由って、例えばどんなものでしょう」
「一般的な理由として挙げられるのは、重大な非行か不治の病だな」
「重大な非行か不治の病、ですか……」
リリアナを二、三発殴り飛ばせば「重大な非行」の事実くらいは簡単に作れそうだが、その結果として、良くて戒律の厳しい修道院送り、下手をすれば監獄送りになりかねない。一方「不治の病」を装うのは簡単だが、死ぬまで行動が制限される。まあ療養するふりをしながら田舎の領地でスローライフというのも、それほど悪くない選択肢ではあるが――。
「他に変わった理由としては、宮廷魔術師というのもあるな」
「宮廷魔術師?」
「ああ。選ばれたら大変な名誉だからな。今までにも貴族の嫡男が選ばれて、跡取りから外れた例が何件かあったはずだ。かなりの難関だが、お前は魔力量が人並み外れて多いから挑戦する価値はあると思う。ただ問題は、宮廷魔術師に空きがでるかどうかなんだが……」
(ううん、空きはでるわ、確実に)
少女漫画『リリアナ王女はくじけない!』には、ハロルド・モートンが邪神討伐に協力した功績をたたえられて宮廷魔術師に選ばれるというエピソードがあった。
作中では「嬉しい! 私が女王になっても先生がずっと傍にいてくれるなんて心強いわ!」と抱き着くリリアナと、「やれやれ、私は一生貴方のお守りをする羽目になりそうですね」とぼやきつつ、愛おし気にリリアナの頭を撫でるハロルド・モートン、そして隣で嫉妬の炎を燃やすアレクサンダーといういつもの逆ハー展開が強調されていたが、ともあれモートンが新たに選ばれる以上は、その時期宮廷魔術師に欠員が出るということだろう。
「ちなみに宮廷魔術師の選出には国王陛下の意向は関係するのでしょうか」
「いいや、今いるメンバーによって厳正な審査が行われるから、陛下と言えど口出しできないと言われている」
「分かりました。それじゃ私は宮廷魔術師を目指すことにしますわ。なんだか面白そうですし!」
「ああ、ただしそれは最後の手段だよ。私もそんなことまでしなくても婚約解消できるように頑張るつもりだ」
「婚約解消は早いに越したことはありませんから、そちらの方もお願いしますわね。ですがいずれにしても跡取りの座はソフィアに譲りたいと思ってますの。正直言って自分が領地経営に向いているとも思えませんし、ソフィアが立派な領主になってくれるなら、ラングレー領のためにもそれが一番だと思いますわ」
「クローディア……」
「ですがお父様、ソフィアの婚約者を決めるときは、今度こそしっかり人となりを見極めましょうね。間違っても顔と家柄がいいだけの屑を選ぶことのないように!」
クローディアが言うと、父は気まずそうに視線を落とした。
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